【ロッテ】どうしても忘れられないKO投手のコメント

【ロッテ】どうしても忘れられないKO投手のコメント

©文藝春秋

■“選手談話取り”という仕事

 プロ野球広報の基本的な仕事の一つに試合中の選手談話取りがある。いわゆるホームランを打ったコメントやタイムリーヒットを放った選手の感想を試合中に聞いて新聞記者やテレビやラジオの中継レポーターに伝えるのである。これは広報になったら、まず携わることになる業務で私も20代の頃から30代前半まで行っていた。

「なんだ、打った選手から感想を聞くだけでいいんじゃないか。どうせ打った後だから機嫌がいいだろうし」と思われる方もいるかもしれないが意外と難しい時もある。自分の談話取りデビューは05年。開幕戦は本拠地で楽天イーグルスに1−3で敗れた。1点だけなので談話も一つである。

 忘れられないのは迎えた2戦目。試合は26−0で爆勝した。つまり談話の山だ。一人の選手のコメントを取り、それをパソコンに打ってプリントアウトしている間にまた次が打つ。タイムリーの雨嵐。そうこうしているうちに誰がどんな球を打ってどうなったのかも分からなくなる。

 今ほどインターネットの速報も正確ではない時代。誰まで話を聞いて、誰に聞いていないか大混乱である。「ストレートを打った? カーブだけど!」。「オレはタイムリーじゃないよ!」。もう、わけがわからなくなった私からの質問に選手から怪訝な表情をされる始末。あまりにも打つのでどうしようもなくて六回ぐらいでギブアップしたのを覚えている。それくらいグチャグチャだった。

 試合終盤に入るとヒーローインタビューの選定作業も始まるため、途中で切り上げざるを得なかったのだ。今ならもう少し地に足をつけてできるのだろうが、当時の私は余裕がなかった。なによりも年上の選手が多いこともあり気を遣った。悔しい思い出だ。

■KOされた清水直行が口にした衝撃的なコメント

 そんな談話業務で、一番気を遣うのはやはりKOされた先発投手のコメント取りだろう。当然、打たれてベンチに戻ってきてすぐにコメントを求めたりはしない。遠巻きに見て、落ち着いたところを狙う。もしくはあえてそばに座って向こうから話しかけてくるのを待つ時もある。

 一番無難なのは、トレーナー室でクールダウンのアイシングをして一人、たたずんでいる時。そっと近寄って、聞きづらそうな表情を見せながらも話しかける。絶妙な技術が要求される広報の腕の見せ所の一つである。大抵、「試合を作れず申し訳ありません」「すいません。なにもありませんでお願いします」という回答が返ってきて、こちらもそれであっさり引き下がる。そんな中、私には一番忘れられない先発投手のKOコメントがある。

 あれは08年8月4日の長野県で行われた地方試合だった。よく晴れた日のナイトゲーム。西武ライオンズとの試合。マリーンズの先発はエースの清水直行。相手は岸である。試合前から好ゲームが期待されたが初回から動いた。一回表マリーンズは無得点。その裏、ライオンズ打線が襲い掛かってきた。先頭の片岡に右前打。続く栗山に四球で3番・ボカチカにレフトスタンドに運ばれた。いきなり3点。

 その後、石井義に右越え三塁打を打たれ4失点である。なんとか立ち直ってくれるかと願ったが二回はさらに悲惨。無死満塁からまたもやボカチカにレフトへの満塁本塁打で計8失点。ここでたまらずバレンタイン監督がベンチから出てきてピッチャー交代。1回3分の0、被安打7、8失点KO。私は「ボカチカにボコスカ打たれてしまったなあ」と変な冗談を心の中で考えながらも、1歳年上のエースのコメントをはたしてどう取ろうか作戦を練っていた(野球界は1つ年上ぐらいが実は一番、気を遣う)。

 下手な策を考えても仕方がない。試合前半が終わったタイミングで誰もいない部屋でアイシングをしていた清水直行の許を訪れた。大体、投手はこのような場面で広報が接近してくる理由は分かっている。だからエースは天井を見上げながらポツリとつぶやいた。

「う〜ん。生まれたての子鹿みたいな立ち上がりやったなあ。生まれたての子鹿のようにフラフラしていて立ち上がる事が出来へんかった。そう、まるで生まれたての子鹿や。オレは情けない」

 ボカチカにボコスカ打たれたというくだらない冗談が頭を巡っていた自分は耳を傾けながら衝撃を受けた。まるで詩人のようなコメントをKOされたばかりの投手が口にしたからだ。これほど見事な比喩を駆使した投手談話を過去にも聞いたことがなかったし、その後もない。のちに「バターになって溶けたい気分」と発した投手がいたが、これは公表NGとなったのでここでは触れないし、正式談話にカウントされない。一方でこの「生まれたての子鹿のようだった」というコメントは本人に何度も確認をした結果、公表をしてもいいとの事だったので、そのまま本人コメントとしてマスコミに伝えた。

 当然のようにテレビ、ラジオ、さらに新聞記者も驚き、翌日のスポーツ紙には見出しで掲載されたほどだ。本来は良いコメントを覚えておくべきで、この場で紹介すべきなのだが、どうしても忘れられず、過去の記憶の中に埋もれさせたくなかったので今回、紹介させてもらった。ちなみに試合は2−16でマリーンズは大敗した。2時間29分。ライオンズ岸は完投勝利である。そのような試合が今も私の脳裏から消えないのだから、よほどの言葉の力である。

■プロ野球は言葉が大事だ

 そんなことを思い出している時、清水直行氏がZOZOマリンスタジアムにテレビ解説の仕事で来ていた。覚えているか聞いてみると本人は大笑いしながら「あったような気がするな。マウンドから降ろされてベンチに座っていてパッと思いついた。自分はまるで子鹿やなあと。フラフラで立ち上がることができない。それがその時の自分のイメージにピッタリやった。それを素直に口にしただけ。懐かしいなあ。あの時の言葉を覚えていてくれたとはなあ……」。そして二人で笑った。

 時間の経過とは不思議なものだ。あの時、他に誰もいない部屋に二人で深刻な表情でいたが、時が経てば笑って振り返ることが出来るのだから。

 そして思った。やはりコメントは大事である。成功した時のコメントも大切なのだが、うまくいかなかった時、辛い時、悲しい時もしっかりと自分の心の中の気持ちを伝える必要があると思う。

 勝ちがあれば負けもあるのがプロ野球。精一杯応援をしているチームが負けることがあるのがプロ野球。そんな時、どんな言葉を発することが出来るのか。伝えることができるのか。つくづくプロ野球は言葉が大事だ。これからも多くの選手たちの言葉を多くの人に伝えることが出来ればと願う。

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

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(梶原 紀章)

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