斎藤工「タブーかもしれない関係性を上質に」――阿川佐和子のこの人に会いたい(前編)

斎藤工「タブーかもしれない関係性を上質に」――阿川佐和子のこの人に会いたい(前編)

©文藝春秋

3年前、ドラマ版『昼顔』で大ブレイクを果たした斎藤さんが映画版の同作に帰ってきた。自分には武器がないと悩んだ時期の葛藤から、映画への愛の深さゆえに自らが監督することになったいきさつもうかがいました。

◆ ◆ ◆

■上戸(彩)さん演じる線路上のシーンだけでも映画『昼顔』は成立するんじゃないかと思う。

阿川 いまは映画『昼顔』のプロモーションでお忙しい時期ですか?

斎藤 いえいえ。阿川さんこそ、週刊文春もあれば『サワコの朝』もあって、毎回ゲストを招かれるので、その方の作品をご覧になられたりで大変じゃないですか。

阿川 なんたるお気遣い。恐れ入ります(笑)。ちょうど先日は『サワコの朝』で、俳優の森山未來さんにお目にかかったんですけど、斎藤さんは同世代くらい?

斎藤 彼は少し下ですけど、やはり同じ世代の俳優仲間とは、なんか連帯意識があるんですよ。同世代の役者って減っていきますから。

阿川 減っていく? どうして?

斎藤 20代のときはオーディションにたくさんいたんですけど、年を追うごとに、別の職についたり、役者を続けるメンバーが減っていくんですよ。

阿川 そっか、少しずつ淘汰されていくのね。

斎藤 僕もなんとか生き残っている感じで、来年はどうなるかわからない。若い頃は同世代に対してライバル心もありましたが、年齢を重ねてからはみんなで集まったりするようになりました。綾野剛や向井理、金子ノブアキとか。小栗旬を軸に同世代の役者たちとお互いの活動をいい意味で意識し合ってます。しかも僕は潜伏期間が結構長いので……。

阿川 今回の映画『昼顔』は元々3年前の連続ドラマでしたけど、そこで斎藤さんはブレイクされたんですよね。

斎藤 そうですね。そのときはさっきの仲間が祝福してくれました。

阿川 今回の映画版『昼顔』は、ドラマの段階から企画はあったんですか?

斎藤 具体的にはドラマ終了後です。でも、ドラマが放送されていたときから反響が大きかったので、ここで終わるプロジェクトにはならないような気がしてたんです。ただ、主演の上戸(彩)さんもお休みになられていたので。

阿川 そうだ、上戸さんはもはやママなんですよね。

斎藤 彼女はこの映画で女優として復帰されたんですけど、「この作品でよかった」とおっしゃられていました。

阿川 ほお。『昼顔』はドラマ版では上戸さん演じる紗和と、斎藤さん演じる北野が、道ならぬ恋に落ちたものの今後は会えないということになってしまい……。

斎藤 しかも、連絡を取り合ったり会ったりしてはいけないという約束を法的拘束力のある書類にまでして。今回の映画はその後の物語ですね。

■タブーかもしれない関係性を上質に描いてほしいと。

阿川 ドラマと映画の違いって感じられました?

斎藤 連続ドラマは世論が反映されて、撮影のたびに恋愛のシーンが増えたり、台本が変化してどこに着地するかわからない。逆に映画は結末がわかっている。その違いは大きいですね。

阿川 どっちがいいんですかね?

斎藤 最近はデヴィッド・リンチやデヴィッド・フィンチャー等、海外の映画監督がドラマに移行していて、ドラマでしか描けないことに挑戦しています。時代とともに変わるし、どちらも特徴は長所でもあるので一概にどっちがとは言えないなと。

阿川 『昼顔』の脚本はヒットメーカーの井上由美子さんですね。

斎藤 ドラマのときから脚本が来ると厚みと重みを感じましたし、台本の展開について、役者の意見を尊重してくださって、僕らにも意見を聞いてくださるんです。実は今回の映画でも僕、生意気ながら井上先生と西谷(弘)監督にご意見させていただきまして。

阿川 あ、ご意見したの? なにを?

斎藤 僕は成瀬巳喜男監督の、特に『浮雲』が大好きなんです。歴史を遡ると、男女の愛憎劇は古典的なテーマ。『昼顔』で描かれている僕らの関係性は現代ではタブーなのかもしれないけど、そこを上質に描いてほしいという願望をお伝えしました。

阿川 そのご意見が反映されたシーンはありますか。

斎藤 何気ないシーンですけど、電車の中で僕が読書しているシーンや、上戸さんが料理するシーンとか。『浮雲』も食に関する描写が多いんですね。そういった何気ない日常風景のディテールから漂ってくるものを通してその人の生活スタイルが見える。そこが大事だと思うんです。

阿川 辛い恋をして、社会と断絶したい気持ちでも、日は暮れてご飯は食べてっていう。それが生きているというリアリティですものね。

斎藤 僕もそう思います。

阿川 月並みな質問ですけど、今回、斎藤さん自身がいちばん好きなシーンはどれですか?

斎藤 終盤の上戸さんお一人が線路上で演じるシーンですね。実は僕、試写を観るまであのシーンがあることを知らなかったんですよ。

阿川 え、知らなかったの!?

斎藤 台本上、文字になってなかったんです。紗和が今後、どう生きていくのかという葛藤があそこですべて描かれていて、すごいシーンだなと。あそこだけでもこの映画は成立しているんじゃないかと思うぐらい素晴らしかったです。

阿川 たしかにあそこはほんとに力強かったですね。線路から這い上がるシーンなんか、すごかった! あと、いままでの斎藤さんのイメージって、セクシーオンパレードだったでしょう。実際、声も唇もセクシーだし、ご本人はどう思っているかわからないけど、ものすごく色気がある俳優さんだと思うんです。そんな人を、『昼顔』ではダサいオタク学者にさせたってところが、まずキャスティングとしてお見事!

斎藤 アハハハハ。

■映画撮影中の目標は、制作スタッフに一般人だと間違われることでした。

阿川 内面にはものすごく激しいものを持っていて、禁断の恋愛をしていても、一方で研究対象の蛍のことを片時も忘れられないとか、いいキャラだなあ。

斎藤 そうですね。ドラマのときから演出サイドからは、色っぽさは一切なくしてくださいって言われていました。実はドラマの撮影の序盤で、「あ、そろそろ出番かな」って現場を覗きにいったら、スタッフさんに、「ちょっと、ごめんなさい、ドラマ撮影をしているので」って、止められたんです(笑)。

阿川 ん? 見学者だと思われたの!?(笑)

斎藤 しかも何度もご一緒してる顔見知りの制作主任に。ただ、僕としては役に入り込めているということだから嬉しくて。だから今回の映画の撮影では、制作部さんに止められることを目標に、現場に臨みました。地味に地味に、素朴に素朴にと。

阿川 どんな目標だい?(笑)

斎藤 そしたら実際、軽トラに乗るシーンがあるんですけど、制作部さんが、「今ここで映画を撮っていますので、ちょっとお待ちください」って、助手席の僕に言ったんですよ(笑)。

阿川 またもや!? 一般の人の車だと思われたってこと?

斎藤 そうです。だから、「よしっ!」て(笑)。実は、普段の僕も、この仕事をなぜしているのかと言われるくらい地味なんです。そういう意味では自然に演じられる部分もあります。実際、僕はほとんどお酒も飲みにいかないし、人付き合いもあまりしない。交友関係を広げていこうというタイプではないんです。

阿川 顔は全然地味じゃないのに(笑)。

斎藤 顔はそうですね。『サンダーバード』みたいって小堺一機さんに言われました(笑)。つくりが濃密だということでしょうが、資質は地味。普段は家にこもって古い映画を観たり、字幕もない中東の映画を観たりしてますね。

阿川 斎藤さんは映画好きで有名ですが、それはどういうきっかけで?

斎藤 父親が映画の助監督出身で、主にコマーシャルや番組の制作をやっていたんですよ。でも映画は中学生になるまでほとんど見せてもらえず、そもそも小学生のときはテレビも観てはいけないという教育方針で。

阿川 厳し〜。なんで?

斎藤 僕はシュタイナースクールというドイツ発祥の学校に通っていたんです。そこでは強制ではないですけど、小さな頃はテレビはあまり観ないほうがいいという考えだったんです。教育方針としては、感性を伸ばすことをモットーにした自然派の学校で、毎日日記のように水彩画を描くという習慣がありました。

阿川 独自の教育をする学校なのね。

斎藤 幼稚園は普通でしたが、僕の姉がそのシュタイナースクールの日本校1期生で、僕は2期生なんです。ドイツ本国では有名で、『モモ』で有名な作家のミヒャエル・エンデが卒業生にいます。イマジネーションを豊かにさせたいという教育で、幼少期の僕はダイレクトに影響を受けました。あと、電球やコンセントとか無機質なものを、全部布で覆ったりとか。

阿川 えっ?

斎藤 視覚から入る子どもへの影響を徹底して防ぐという考えなんです。だからテレビは推奨されない。食事もマクロビでしたし。

(後編に続く)

さいとうたくみ/ 1981年、東京都生まれ。高校生のときよりモデル活動を始め、俳優に。2014年放送のフジテレビ系ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』で大ブレイクする。主な出演作として映画では『無伴奏』『団地』『高台家の人々』、初長編監督作『blank13』、ドラマでは『アキラとあきら』など。最新出演映画『昼顔』は6月10日より全国公開。
http://hirugao-movie.jp/

(「週刊文春」編集部)

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