10年後には紙の本ってなくなるの? 電子書籍の現在と未来――『#電書ハック』配信記念#1

10年後には紙の本ってなくなるの? 電子書籍の現在と未来――『#電書ハック』配信記念#1

『#電書ハック』(柳井政和 著)

『#電書ハック』とは?
バリバリの文学少女・春日枝折は老舗出版社へ入社するも、配属先は電子書籍編集部!? 紙の本から戦力外通告を受けた老作家、ネット民には刺さる引きこもり作家、紙の本には目もくれないデジタル電子書店員たちとの出会いに戸惑う枝折。 やがて担当作家たちが出版界の内幕を暴露するテロ攻撃、〈電書ハック〉を計画していると知り……。

参加メンバー
◎柳井政和(『#電書ハック』著者。43歳)
◎加藤樹忠(株式会社ブックリスタReader Store企画部 部長。40歳)
◎佐藤由布子(同Reader Store 編成部 ストアディレクター。39歳)
◎松原嘉哉(株式会社トゥ・ディファクトUX企画部 副部長。37歳)
◎矢部潤子(同UX企画部 ディレクター。61歳)
◎司会・荒俣勝利(株式会社文藝春秋電子書籍編集部 副部長。52歳)

■割引き・ポイントバックなどの価格施策

柳井 紙の本と電子書籍とで売れ行きの違いというのがあるものなのでしょうか?

松原 私たちhonto( https://honto.jp/ )はハイブリッド型総合書店ということで、紙の本と電子書籍の両方を扱っています。現状、これはどの電子書店も同じだと思うのですが、コミック・BLが売上のかなりの割合を占めていて、うちの場合は5割弱。それでも他の電子書店にくらべると文字ものが売れてます。

 個々の商品の売れ行きは、リアル書店での売れ行きの傾向に近いと思いますが、電子書店の場合つねに定価販売ではなく、値段を下げたセールという施策を行います。たくさんの商品を100円で売るスーパーセールというようなことをすると、大きく売上のランキングが変わるというのは電子書店ならではだと思います。

加藤 Reader Store( https://ebookstore.sony.jp/ )の場合は紙の本は扱っていないので、そもそも比較ができないのですが、フェアで売上が大きく変わるというのはその通りです。

 うちはソニーの電子ストアなので、40代がメインで男女比も男性が85パーセントくらい。40代がVAIO?世代で、30代がPlayStation?世代、50代がwalkman?世代という感じで、みなさんソニーファンなんですね。 

 電子書籍市場全体ではコミックが80パーセントから多いときは90パーセントですが、うちもラノベを入れたら文字ものが5割くらいです。小説の売れ筋は、高齢の男性が好む時代小説や、意外なところですと海外の名作SFですね。好奇心旺盛なおじさまたちが、小さい頃に読んだものを電子書籍で買い直してくださる。

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松原 うちの場合はまとめ買いをされるお客さんが多くて、コミックの全巻セットなどを30代40代の男性が買ってくれます。あとはLINE経由で主婦がレシピ本を買ってくれたり、電子書店にたどり着く経路によってジャンルに特性が出ますね。

司会 矢部さんは以前、リアル書店で書店員をされていて、それから電子書店へ移られたわけですが、両者を比較していただくとどうでしょうか?

矢部(honto) 私はかなり長い間リアル書店に勤めてから、2年まえに電子書店に移りました。電子書店員1年生として率直な感想を申しますと、電子書籍って思っていた以上に便利だなという実感があります。買う手間もかからず、夜中に目が覚めて読むような時は部屋を明るくしなくても読めますし、大変便利なツールだなと思います。

■世間の動きに敏感な電子書籍

柳井 紙の本とくらべて売れ行きの傾向が違うというようなことはありますか?

矢部 紙の書店も世の中の動きに対して素早く反応しようと頑張っていますが、さすがに夜中のテレビがきっかけで翌日すぐに売れ行きが跳ね上がるというのは仕入れの関係などもあって難しいです。でも、電子の場合は夜中でもすぐに購入できますので、1時間どころか分単位でパッとランキングが上がるというような反応の速さは初体験でした。

松原 うちでは、「いま売れてます」というサービスがありまして、先ほどの三つのチェーン店やhontoの電子書籍や通販サイトで売れた本がリアルタイムに流れてきます。例えば「アメトーーク!」の読書芸人がオンエアされた後の数時間は電子書籍でピークが出来ます。翌日にピークを迎えるのは通販、その後でリアル書店で盛り上がります。リアル書店の方が盛り上がり方も、下り方も穏やかです。

柳井 電子書籍の方が、より世の中の動きに敏感に連動して動くということですね。佐藤さんは電子書籍の売れ行きに関して嗅覚が働くということはありますか?

佐藤(Reader Store) もう何度も話が出ていますが、紙の書店さんと違うのはフェアの反応が出やすいことではないでしょうか。新刊や映画化された話題作も売れるのですが、フェアになった時の売れ行きが今後の動きを読む参考になります。紙の書店さんだと価格が変わらないのでその時に買うしかないわけですが、電子はお客さんがフェアを待っているのを感じます。

柳井 いま伺っていると、フェアが思った以上に重要という印象です。作家さんの中にはディスカウントされるのを嫌がる方もいると聞いたのですが、電子に関してはあまり得策ではないようですね。

佐藤 ひとつのきっかけになることは確かです。読者のみなさんも読んでみたい本はたくさんあるでしょうから、その中からどれを選ぼうかという時に、フェアで価格が下がったことが少し背中を押してくれるんですね。

松原 hontoでは「全巻無料」という施策をやっています。「ベルサイユのバラ5日間全巻無料キャンペーン」では、1万3000人にダウンロードしていただきました。その中の4000人がこのキャンペーンをきっかけに電子書籍に触れていただいたお客様でした。これまで電子書籍を読んだことない人たちに、“懐かしさ”を提供することで、改めてコンテンツの魅力、および電子書籍の魅力を伝えられたのではないかと思います。

柳井 編集の人に聞くと、ひと昔前はある作家がヒット作を出すと、その作家の別の本もみんな売れたのに、最近は一つの作品がヒットしても他の作品まで波及しなくなってきたというのですが、元リアル書店員の矢部さんもそんな風にお感じになりますか?

矢部 確かに過去の作品まで遡って読んでくれるような読者が減ってきているというのは、紙の書店にいるときから感じていました。例えば、直木賞を受賞した作家でも、受賞作は売れますけど既刊本はそこまで売れないというか、読者がついてきてくれなくなりましたね。

柳井 作家の名前が一番の看板だった時代は終わったということかもしれませんね。

紙の本に比べると電子書籍はフェアとか割引き、ポイントバックなど、販促がきちんと行われているようです。紙のリアル書店の場合、読者が店頭に来ればPOPがあったり棚のいい場所に置いてあるということ自体がPRになるわけですが、読者に直接語りかけてくる販促ってないですよね。

 私はもともとIT系でゲームの営業や広報をやっていた人間ですので、紙の本が出る時に販促はどういうことをやるのですかと尋ねたら、「新聞・雑誌や書評家に献本するぐらいで、それ以外は特にありません」という答えで、驚きました。ゲーム業界だと何ヶ月も前にデモ版を作るなど、事前にいろいろやるわけです。出版社もリアル書店も、もっと売れていた時代のやり方を今も引きずっているんじゃないでしょうか。

矢部 ごく最近になって書店の危機感が高まってきて、一生懸命POPを書いたり、本屋大賞みたいな企画を立てたりということが出てきたわけですよね。

 これまでは、本屋さん側からしても当事者意識が持ちにくいというか、持ってなくてもよかったんだと思います。お店で待っていればお客様がきてくれる時代だったということですね。最近になって、さすがにそれでは難しくなってきて、版元さんに「ちょっと早めに情報ください」とか、「どうやったら売れるか一緒に考えましょう」というような、前のめりな感じが出てきたのかなと。

■電子書店に集まる読者のデータをどう活用するか

柳井 次の質問ですが、読者の読書傾向については、どのくらいデータを取っているのでしょうか? 例えば、「この人はこの本を何ページくらいまで読んでやめた」とか。

加藤 そういうデータを取れるか取れないかといったら、取れます。ある人がどれだけの本を買っているか、どれだけの本を読んでいるか、どれだけの本を積んでいるか、一日の読書時間はどれくらいか、どの時間帯に読んでいるか、何ページまで読んだか、読み終わったか、読み終わってから続巻を買うまでにどれぐらいの時間がかかったかなどなど、取れないデータはほとんどありません。

 いまは仕込んでいないですが、位置情報を絡めた情報も取れます。

柳井 通勤時間には何を読んでいるかとか、自宅では何を読んでいるかといった、細かなデータも取れということですね。

加藤 ネットワーク配下にある場合、取れないデータはほとんどありません。でも逆にデモグラ(デモグラフィック:性別、年齢、住んでいる地域、所得、職業、学歴、家族構成など)は極力取らないようにしているので、その人が男性なのか女性なのか、何歳なのかといった直接的な情報はなくて、逆に行動データからデモグラを想像するという感じです。

柳井 情報を活用するということだと、私は自分が書いた小説を大学の先輩に目の前で読んでもらって、時計をにらみながら読書動向をメモしました。そうすると、途中でページを戻ったところや、少し考え込んだところなどが全部見えてきて、そういうところの文章は直さないといけないと分かるんですね。

 電子書店さんからデータを貰うのは無理でしょうが、書き手としてはそういうデータを見たいものです。データで明らかになった読む上でのストレスを減らしていくことで、より売れる本が書けるのではないかと思いますので。

加藤 いまのテレビ業界の視聴率調査がそうですね。ここで視聴者が離脱しているとか、ここで増えてるとか。コミックスの無料試し読みなど、離脱率が露骨にわかります。有料になって買わなければ離脱してるわけですから(笑)。たぶん作家さんが思っている以上に離脱率は高いと思います。

松原 離脱ということだと、刊行のリズムが崩れたシリーズ作品は一気に読まれなくなる傾向があります。刊行時期が遅れたりすると、そのタイミングで離脱されてしまう。

司会 やっぱりシリーズはコンスタントに出し続けることが大事なんですね。

今度は電子書店員の皆さんから柳井さんにご質問をいただければと思います。

( #2 に続く)
 写真=深野未季/文藝春秋

※この座談会のノーカット版が 文春books に掲載されています。

『#電書ハック』の購入は以下の電子書籍サイトから
【honto】
https://honto.jp/ebook/pd-series_B-MBJ-20012-121979037-001-001.html
【Reader Store】
https://ebookstore.sony.jp/item/LT000106481000849110/?cs=pickup_novel

「本が売れない時代」の作家デビュー。どう売ればいいのか?――『#電書ハック』配信記念#2 へ続く

(「文藝春秋電子書籍」編集部)

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