「いいとも!」の前説でタモリさんに一度だけ褒められた理由――岩井ジョニ男の生き方

「いいとも!」の前説でタモリさんに一度だけ褒められた理由――岩井ジョニ男の生き方

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 リアルなのか虚構なのか。令和の時代にやってきた三揃スーツに七三ちょび髭の昭和風サラリーマン。浅井企画所属のコンビ「イワイガワ」の“おじさん”担当・岩井ジョニ男。新橋・上野・新宿・五反田などサラリーマンの聖地に出没しては、歩いてはしゃいで飲んで黄昏て……人気インスタを一冊にまとめたフォトエッセー 『幻の哀愁おじさん』(文藝春秋) が話題になっている。業界では「ネクストブレイク」とささやかれ続けていた岩井ジョニ男。いよいよ時代がジョニ男に追いつくのか。

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■「インスタってなんですか?」

??ジョニ男さんがインスタを始められたのは2018年5月。インスタグラマーの中ではかなり後発なのに、本を出されるまでの圧倒的人気……。今日はその「戦略」についてお伺いしたいと。

ジョニ男 これはですね、まさに戦略。

??戦略。

ジョニ男 戦略、ありますね。ただ……僕の戦略じゃないんですけど。

??人の戦略。

ジョニ男 はい。いやもちろん僕だからこうなったんだなという気もなくはないですけど。仕事で出会った人に誘われたんですよ、インスタを。それまでSNSは一切やったことがなくて。ブログもTwitterもです。当時はそれをギャグににして「フェイスブックスやってるの?」とか。

??フェイスブックス(笑)。

ジョニ男 「いや、Sいらないんですよ」とか。全くわからなかったんですよ、そのシステムが。そもそも発したいメッセージなんて何もないですしね。なんか思ったことをネタ帳には書いてはいましたけど。「あそこのスーパーのニラのが安い」「ティッシュは○○薬局の方が安い」とかは。

??生活者目線の。

ジョニ男 そう。だけどある日ファッション雑誌のモデルみたいなことをやって、そのスタッフさんと飲みに行ったんです。それで「ジョニ男さんインスタやってるんですか」って聞かれまして。「やってないです」「インスタントラーメンは食べてますけど」。

??(笑)

ジョニ男 「インスタやりましょうよ」「インスタってなんですか?」「写真撮って載せるんですよ。ジョニ男さんだったらやっぱりおじさんとか昭和とかを感じさせるものがいいですよね」……それから何度か飲みに行っても、ものすごく熱心に考えてくださって。それで「1つの街をサラリーマンが歩く」というテーマのインスタを始めることになりました。僕ね、前から自分の中で決めてることがあるんです。

??なんでしょうか?

ジョニ男 それはタモリさんから教わったことなんですけれども、タモリさんって自分の番組のことに全然口出さないんですよ。こうした方がいいんじゃないかとか、言わない。

■タモリさんに教わった「他人に乗っかる」ということ

??本にも出てきますが、ジョニ男さんはタモリさんの付き人をやってらしたんですよね。

ジョニ男 そうなんです。タモリさんくらいになったら、もう色々自分がやりたいようにやってるって思うじゃないですか。だからすごくびっくりしたのを覚えてます。タモリさんに「なんで番組について意見を言わないんですか?」って聞いたことがあって。そしたら「どう考えたって向こうの方が情熱があるだろう、ディレクターとかそういう人間の方が、自分よりも。どうしても自分は楽する方にいきたがるから」って答えて。

??なんか、とてもタモリさんっぽい。

ジョニ男 ですよね。僕もそれを聞いて、あぁなるほどなと思って。だから僕も「情熱でこられた時は乗っかろうかな」と思うようになりました。だんだん年齢とともにいろいろなことが億劫になる。そこを上回る好奇心をぶつけてくれる方がいるなら、全くインスタもわからないけどやってみようと。それはタモリさんに教わったことです。

??インスタのジョニ男さんは「演者」ということですね。

ジョニ男 そうです。イラストレーターの師岡(とおる)さんが「公衆電話で子供の合格祝いの報せを聞いてます」とか、演出してくれる。僕としてはやってても楽しいですし、なんか面白いですね。自撮りみたいなのはできないから(笑)。自撮り世代じゃないので。

??身を任せている。

ジョニ男 そうです。「自分が思っている自分よりも、人が思っている自分の方が正しいと思う」というのが「戦略」なのかもしれない。

??名言……。

ジョニ男 そうですか(笑)。「演者」って言うとかっこいいですけど、本当に日常の風景。変な顔もしてます。後から見て「俺酒飲んだ時こんな顔をしてるんだ……」って思い知ることもある(笑)。

■今までSNSをやらなかった理由

??今までSNSを一切やってこなかった理由はなんですか。

ジョニ男 恥ずかしい。ものすごく恥ずかしいんですよ。恥ずかしがりなんです。

??『さんまのお笑い向上委員会』でのご活躍などを見ると、あまりそういう風には見えないです。

ジョニ男 もともとものすごいファンだったんです、『向上委員会』の。最初にやったスペシャル放送なんて500回ぐらい観たかもしれない。あの番組がレギュラーになるということを知り、呼ばれてもいないのに初回の収録に行ったくらいですから。差し入れ持って、イカフライを。さんまさんが好きな、5枚100円とかで売ってるあの駄菓子です。そしてエレベーターの前で、写ルンです持って、中にいるさんまさんに「パシャパシャパシャ」「パパラッチです」「やめて、やめて」「スター、新番組おめでとうございます」なんて言って。

??(笑)

ジョニ男 そんなこんなで「さんまさんが「ジョニ男せっかく来たからモニター横でおらせようか」と情けをいただきまして(笑)。

??そこからあの名物「モニター横」が始まったわけですね。

ジョニ男 一番初めはカバン持って、メモ帳持って、ほんとに見学してたんですよね。それが今やモニター横からスターがどんどん生まれていって(笑)。でもね、向上委員会って別に台本もないんですよ。通常ネタの時はネタをやりますけれども、そうじゃない時は誰が出てもいいし、出なくてもいい。そこで1回ウケたら「もういいや」って思っちゃうんです、僕。

■「あの人だけを笑わせよう」という考え方

??「もう自分の仕事は終わった」という?

ジョニ男 そう、1話30分。収録はめちゃ長いですけど。でもこの回はさっきウケたからもういいやって。これ結構(ずん)飯尾さんにも怒られるんです。「だめだよ、もっといかなきゃ」って言われるんですけど。なんかね、そういうせこい性格というか。

??省エネ的な。

ジョニ男 他にまだ喋ってない人もいるから、自分はもういいやって(笑)。必要なのは勇気だと思うんです、どんな仕事でも。ただその勇気をどうやって出せばいいのかがわからなくて、結構悩んでた時期もありました。

??勇気の出し方、知りたいです。

ジョニ男 人によって違うとは思うんですけど。僕がある時「あっ、これだったらいける」って思ったのが、ひとり、この中の誰かひとりを笑わせるためにいこうと。番組の向こう、視聴者やリスナーをとなると、もうわけわからなくなるので。あの人だけを笑わせようということをやれば。それは基本的には飲み屋の考え方なんです。

??飲み屋の考え方!?

■「この場にいる全員にプレゼンする」と思うと苦しい

ジョニ男 スナックで「ママを笑わせよう」という考え方です。だからたとえば『向上委員会』では「さんまさんだけ笑わせにいこう」とか、そういう風にやったらなんか勇気が出るなと思った。「いけるわ」って。今の新入社員の方たちも、そういう考え方でいけば結構いけます。「この場にいる全員にプレゼンする」とか思うと苦しいですが、でも「あの人だ、あの人に聞かせるんだ」といけばいけると思うので(笑)。

??その一人というのが「さんまさん」なのも、すごいですが(笑)。

ジョニ男 でもさんまさんの後ろにいる視聴者何万人とか考えると、ちょっと想像もできないし、逆に縮こまっちゃうので。

■「ノーメッセージ」でここまできた

??SNSってそれこそ見る対象者がめちゃめちゃ多いけど、どこに向けて発信するのかがイマイチわかりづらいことはあると思います。ジョニ男さん的には番組やライブでの「岩井ジョニ男」で笑ってほしいと。

ジョニ男 いや、そんなに深い人間じゃないんでね(笑)。ただ単にそんなに大したもんじゃないから、そこをああだこうだ言うのもねっていうだけです。言うメッセージもないんですよ。ずっと「ノーメッセージ」でここまできたんですよね。たまに「こういう意図でああいうことをやってるんでしょ」とか言われたするんですけど、本当にないんですよ。みんな裏を読んでくれたり、深く読んでくれたり……。俳優の村松利史さんと飲むと、村松さんは柄本明さんの演出をやってるくらいですから、とにかく深く考えてくれる。なので「あれはああいう意味ですよね、ジョニ男さん」「そうですね、ありがとうございます」なんて言うんだけど、機嫌を損ねないように(笑)。でも僕の中では全く何もなくやっているところもあるんです。「悲哀」なんてとてもとても。

??「現代へのアンチテーゼですね」とか言われそうですが。

ジョニ男 ないですね〜。本当にノーメッセージ。

■あの一言が出なくて、という後悔

??「恥ずかしがり」で「勇気が出ない」ジョニ男さんが、でもタモリさんに付き人志願を断られても何日も家に通い続けたり、呼ばれていない向上委員会の収録に行ったりする。

ジョニ男 好奇心が上回るととんでもない行動取ってしまう、ものすごく図々しくなっちゃうところはあります。一つね、ちょっぴり後悔していることがあって。以前談志師匠の前で1回だけネタをやったことがあるんですよ。談志師匠には「ネタを気に入ると、その後銀座のクラブに連れて行ってくれる」という都市伝説があって、談志師匠とぜひお話したいなと。僕はその前に『ひとり会』も観に行ってて、カバンに談志グッズをしのばせて現場に行ったんです。ただそれを見せて「ファンです」と言うのもあれなので、飲みに行った時に言おうって。でも結局誘われずじまいで。

??都市伝説が正しかったのか間違っていたのか……。

ジョニ男 今となっては分からないですけど、あの時「実は私」って図々しくも言ってればなと思うこととか、すっごいあるんですよね。あの一言が出なくてみたいな。そういう後悔があるから、気が弱いんだけど行くときは行けてるのかもしれないです。

??仕事以外でもそうですか?

ジョニ男 飲み会とか。これも色々考えてしまいがちですけど、でもね、実際自分ひとりが行こうが行かまいが、さほど問題ないんですよ。自分は自分のことすごく気にしてるけど、人はそんなに気にしてない訳で。考え過ぎて行かなかったりすると、行っときゃよかったなって思う。

??自意識との戦いですね。

■大切なのは「自分をよく見せようとしない」こと

ジョニ男 自意識について、これもタモリさんから学んだことですが「自分をよく見せようとしない」こと。絵でも字でも、よく見せようとしているものほどひどいものはないと。その最たるものが、結婚式のスピーチだって。普段は後輩に「おい田中。なにやってんだバカヤロウ!」って怒鳴ってるのにスピーチでは「えー、田中君、ミチコさん」とかやるわけでしょ。しかもそれは結婚する本人じゃなくて、親族とかに向けてやってる。「あのスピーチが一番よくない、結婚しているこいつにやるのがいいのに、みんな違う方にやってしまうんだ」と。よく見せようとしてる、自分を。

??ああ、なるほど。

ジョニ男 ただその意味はずーっとわからなかった。僕は半年くらい『笑っていいとも!』の前説をやったんですけど、そこでタモリさんに1回だけ褒められたことがあるんです。それというのが、二日酔いでやる気もなくて「まぁみんな好きな人が出てきたら喜ぶだろ」くらいの回。タモリさんが出てきたらこう、SMAPの中居君が出てきたらこう、とかすごい適当にやったんですよ。それで戻って、本番20秒前くらいのタイミングでね、タモリさんに「ありがとうございました」って言ったら、「今日よかったよ」って言われたの。

??なぜ??

ジョニ男 その時の俺には全然わからなかった。でも後から「あっそうだ」「俺よく見せようとしてたんだ」って。それをやらなかったのはあの1日だけ。半年間で1回だけよく見せないというか、二日酔いのままやってしまった。いつもは「さぁーみなさまー」「おまたせしましたー!」「はいどうも〜」なんてやってたんでしょう。それに気づくのに10年かかりましたよ。

■「今は緊張してタモリさんに会えなくなっちゃった」

??それも「目の前の人を笑わせる」に近い感覚ですよね。遠くの大勢ではなく。

ジョニ男 そうです。遠くの大勢を考えると、たぶん普段よりよく見せようとしちゃう。「ベストを尽くす」じゃなくて「普段の自分じゃない自分を見せようとする」というか。飾っちゃってるんでしょうね。その辺がこざかしいという風に映るんじゃないですかね、タモリさんには。お前そんなやつか?っていう。

??そういう方が長くテレビの中心にいたというのがすごい。

ジョニ男 (付き人を)やめてから何年も経つんですけども、逆に今は緊張して会えなくなっちゃったんですよ。あんなに毎日のように酒を飲んでタモリさんに色んな質問をしてたのに、今改めて「あぁ、あの時はこのことを言ってたんだな」とか、気づいてしまって。

??気軽に飲めなくなってしまった……。

ジョニ男 20代でわからなかったすごさがわかってからは、緊張して全く会えなくなっちゃったんです。「わかんない」っていいですね……。

??「わからない」強みは、確かにありますね。

ジョニ男 若さってそれですよ。だからそれでいいんですよ。あんな図々しくタモリさんに「タモリさん今日も飲みましょうよ」なんて言っちゃって。タモリさんも「あぁいいよー」「お前は時間大丈夫なのか?」なんてやってたのが、今はもうインターホン押す手が震えるぐらい。だから若い時はなんでも勢いでいった方がいいです。
( #2 に続く)

写真=榎本麻美/文藝春秋

「失敗したっていい。だって現世は来世の練習だから」――岩井ジョニ男の生き方 へ続く

(西澤 千央)

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