若手投手が育たない西武 榎田大樹の“キャッチボール”はチームを変えるか

若手投手が育たない西武 榎田大樹の“キャッチボール”はチームを変えるか

西武に移籍してきた昨季、自身初の二桁勝利をマークした榎田大樹 ©文藝春秋

「それ、きつくないですか?」

 文春野球で阪神のチャリコ遠藤監督と「榎田大樹」をテーマに激突することを本人に告げると、真顔でそう言われた。

 榎田に関する渾身の原稿を今季、すでに他媒体に書いてしまったのは事実だ。ただし榎田に訊くことで、西武投手陣の問題を考えるきっかけになるのではと考えていたことがある。

■ライオンズの若手投手はなぜ育たないのか

 6月21日時点で、リーグ最低のチーム防御率4.49――。

 防御率4.24だった昨季以上に苦しんでいる。先発投手が打たれるたび、「5点までは失点ではない」とライオンズファンから前向きすぎる、あるいは自虐的なツイートが繰り返されるほどだ。

 バットを振り回す“山賊”が次々と台頭する一方、若手投手はなぜ育たないのか。ライオンズファンなら誰もが浮かべる疑問を解く上で、5月下旬、大きなヒントをくれたのが十亀剣だった。

「本当に思うのが、内海(哲也)さん、榎田(大樹)さんのキャッチボールを見てほしいんですよ、ファームの子には」

 今季の十亀は「軽く投げよう」とモデルチェンジし、西武先発陣で最も安定感を発揮している。反面、球速が140キロ台前半しか出ないことを「不本意」と感じ、キャッチボールで様々な取り組みをしている。そんな会話の流れから、西武投手陣の深刻な問題に行き着いた。

「キャッチボールでは肩ができればいい、(投球練習は)マウンドでやればいいんでしょっていう子が、たぶんまだ多いと思うんですよね。うちは今、ベテランが少ないので。涌井(秀章)さん、岸(孝之)さん、(菊池)雄星にしろ、キャッチボールを大切にしていました。そういうところを見て、『なんであの人はいいんだろうな?』と思ってほしいですよね」

 毎年秋になると、西武の主力投手は続々とチームを去った。帆足和幸、涌井、岸、牧田和久、野上亮磨、そして菊池……。単純に戦力ダウンすることはもちろん、「背中で見せる」先輩がいなくなった影響は計り知れない。

 2軍のコーチはキャッチボールの重要性を伝えているというが、若手投手にとって、ベテランの背中は何よりの教科書だ。FAによる大量流出の結果、プラスの連鎖が途切れ、西武には投手が育つ土壌がなくなっている。

■榎田の“キャッチボール改革

 そんなチームで昨季「救世主」になったのが、開幕2週間前に加入した榎田だ。32歳の左腕が自身初の二桁勝利を飾った裏には、“キャッチボール改革”があった。

「こういう投げ方ができたらこういうボールが行くと考えてやるようになったのは、去年、鴻江(寿治)先生に体の使い方を教えてもらってからです。今までは強くボールを投げられたらとか、強くボールを弾けたらとか思っていたけど、それは自己満だったなとすごく感じました」

 鴻江先生とは身体動作の専門家で、千賀滉大(ソフトバンク)をはじめ、多くのプロ野球選手が門を叩いている。榎田は昨年オフから訪れ、飛躍のきっかけをつかんだ(詳しくは 「Web Sportiva」 の筆者原稿を参照)。

 野球を始めた誰もが「キャッチボールを大切にしなさい」と教えられるなか、なぜ重要なのか、本質を理解している人はどれほどいるだろうか。

 榎田にとって、キャッチボールは「投球動作の確認」という位置付けだ。傾斜のあるマウンドで投げるのは、平坦な場所で行うより難度が高い。だから日々のキャッチボールの中で試行錯誤しながら、「今日はこの球種が使えて、これは使えない」と週に1度の先発に向けて確認を行っている。

 榎田がキャッチボールの重要性を痛感したのは、東京ガスから2010年ドラフト1位で入団した阪神時代だった。

「阪神の上の人のキャッチボールは正直、ちょっとレベルが違いました。(藤川)球児さん、能見(篤史)さん、福原(忍)さん、安藤(優也)さん、渡辺亮さん。僕がルーキーで入ったときのピッチャー陣は、『僕はプロでやれるのかな』というくらいのキャッチボールでした」

 最も衝撃を受けたのは藤川だ。一緒に遠投をしていると、自分まで届かないと思ったボールが胸の下くらいから伸びてきて、グラブの芯で捕球しようとした球が土手や先端に当たる。

「それくらい回転数というか、推進力が強いと思います。衝撃でした」

 対して、怖いと感じたのは藤浪晋太郎だ。それほどの球威だった。現在なら、高橋遥人が「すさまじいボールを投げている」。

■阪神で受け継がれてきた良き伝統

 キャッチボールの大切さは、阪神で良き伝統として受け継がれてきた。

「阪神のピッチャーは、キャッチボールを大事にする気持ちが西武よりあると思います。コーチが言うこともありますし、上の人がちゃんとやっている影響だと思いますね。中継ぎピッチャーはキャッチボールの後に外野でブルペンキャッチャーを座らせてもう1度投げたりしますけど、それを球児さんとか福原さんとかベテランの人がやるくらいです。まず平坦でキャッチャーを座らせて投げて、体の使い方の確認をして、初めてマウンドで投げられるのかなと感じました」

 豪腕や鉄腕と言われる先輩投手が毎年結果を残せるのは、日々の周到な準備があるからだ。そうした姿を見てきた榎田は昨季、キャッチボールの取り組み方を変えた。鴻江氏に“ライン出し”の重要性を説かれたことがきっかけだ。

「昔はシュートするイコール、ボールが弱いと思っていました。でも今はちゃんと軌道の中に入って、ちょっと“真っシューする”(真っすぐがシュートする)ボールが自分の持ち球だから、それが出ているときはちゃんと投げられている。逆にそれを投げにいったときに(ストライクゾーンの)外のラインからボールが最初から出ちゃって、クロスするほうを今は嫌っています。その気持ちの持ちようというか、ラインの出しようが変わってきたと思います」

 簡潔に説明すると、自分の体に合った投げ方、適したボールがあるということだ。他人の方法論で他人にとって理想的なボールを投げるのではなく、自分の身体に合理的な投げ方で自分を活かせるボールを投じる。その上でストライクゾーンを幅広く使うことが、投手としてのパフォーマンスにつながる。そうした投球を突き詰めるのが、日々のキャッチボールだ。キャッチボールは肩慣らしなどではなく、ピッチングの原点である。

 昨季キャリアハイの成績を残した榎田だが、今季は6試合で防御率6.19と思うような投球を見せられず、6月9日に登録抹消された。巧みな投球術をしばし見られないのは残念だが、夏場に向けて復調が不可欠だ。

 さらに長期目線で見ると、西武にとって榎田の2軍落ちが前向きに働くかもしれない――そう思ったのは、数日前、こんな話をしていたからだ。

「西武の2軍という環境で、なんでキャッチボールを大事にやらないといけないかを答えられる人がいないからこそ、十亀もそう(不満に)感じるのかもしれません。でも、これから気づけるかもしれないですしね。(春先に)2軍に行ったとき、キャッチボールのことではないですけど、いろんなことを聞きに来る子もいました」

 春先に聞かれた質問には、「なんで早く来て練習しているんですか?」というものもあったという。高校まで“やらされる”練習を繰り返し、プロになっても受け身の姿勢から脱却できず、主体性がないあまりに伸び悩んでいるのだろうか。榎田の言うように今後気づけるかもしれないが、プロ野球選手が輝ける時間は限られている。

 FAで主力が次々と抜け、若手が育ちにくいという深刻な構造問題を抱える西武投手陣にあって、背中で語れる存在は数少ない。西武第二球場で調子を取り戻そうとする榎田の背中を見て、潜在能力を発揮できていない若手投手たちが、多くの学びや刺激を得ていることを願うばかりだ。

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(中島 大輔)

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