こぶしファクトリーの“パンチの効いた”肉声と歌詞の輝き――近田春夫の考えるヒット

こぶしファクトリーの“パンチの効いた”肉声と歌詞の輝き――近田春夫の考えるヒット

絵=安斎肇

『Oh No 懊悩』(こぶしファクトリー)/『探せ ダイヤモンドリリー』(=LOVE〈イコールラブ〉)

 歌の魅力とは何なのか?

 そのことについて私は、大きく分けてベクトルはふたつあると思っている。ひとつは作家的な技量、つまり歌詞や旋律などの出来に関するところの議論であり、一方は歌い手の、官能に訴える力の話だ。

 音楽を生業とするような人間は、どうしても構造やスキルの部分に目が行きがちで、私なんかにしても、ついつい理屈で作品を評価してしまうきらいがないとはいえない。

 それを決して悪いとも思わないが、子供の頃夢中になった歌の数々を思い出すと、そのとっかかりは、案外歌い方や声だったりもしたものだ。

 そんなことに思いを巡らすきっかけとなったのが、こぶしファクトリーの新曲である。『Oh No 懊悩』にもきっと、jpopのご多分に漏れず、歌詞カードなしで聴いたら分かりづらいところはあるのだろうなぁとは思いつつも、あえて“その手の資料”無しで、再生しようと決めたのには、事情がある。このシングルの歌詞を書いた児玉雨子さんには、去年出した俺のアルバム(『超冗談だから』)で何曲か作詞をしてもらっているのだ。そんな訳(といって実は何の訳にもなってないんですけどネ!)で、なにしろ先入観/事前情報をなるべく持たずに、歌がどう聴こえるか味わってみたかったのである。

 やたらとスネアの音が大きい、かなり人工的な音質処理の施された'80年代調ドラムから始まるイントロは、例えばジョディ・ワトリーだとか、あの辺りを少しアップテンポにしたような感じか。そこから最後まで“アゲアゲ”のまま曲は一気に突っ走ってゆく。

 そうしたホットなトラックのパワーにメンバー達も負けてはいない。エナジーにはせんだっての“ 指原莉乃のユーヤさんとのデュエット時の歌唱 ”を彷彿とさせるものもあるのだが、何が違うかというと、こちらはグループである。ゆえに色んな声が景気よく耳に飛び込んでくるのだ。

 その辺の派手派手しさこそが、この曲の聴きどころ/アドバンテージなのだろう。

 案の定、何をいっているのか聴き取れぬ箇所が結構あったりもした。のだけれど、それが却って耳に面白く引っかかったりもする。ここでの歌唱は歌詞を分からず/聴き取れずとも、あまり気にならぬ。結果的には“響きや鳴り”だけでも、歌は充分に楽しめるようになっていたのである。

 いずれにせよ、今回何より光り輝いていたのが、彼女達の“パンチの効いた”肉声なのに間違いはないのだが、それを一層際立たせてみせているのが、歌詞が確信犯的に持つ――意味や内容以上の――コトバの勢い/強さなのだと気づき、ついでに、俺が、児玉雨子の何に惹かれて作詞を依頼したのかを思い出したよ。それは彼女の詞作がそうしたフィジカルな部分をものすごく意識しながらも、結局形而上学的余韻を必ず残す“文学的表現”でもあるからなのだ。

 =LOVE。

 全方位的に目配りの効いた、大変にバランスの良い作品だ。

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト〜世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

(近田 春夫/週刊文春 2019年5月23日号)

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