中学3年の夏休みに書いた“自由研究”がデビュー作に。慶應に通う高校生作家の素顔

中学3年の夏休みに書いた“自由研究”がデビュー作に。慶應に通う高校生作家の素顔

『探偵はぼっちじゃない』(坪田侑也 著)

 万城目学など多くの才能を輩出してきたボイルドエッグズ新人賞。その第21回の受賞作が、慶應高校2年、坪田侑也さんの『探偵はぼっちじゃない』である。

 2002年生まれの坪田さんが本作を書き上げたのは、中学3年の夏休み、15歳のときだ。

「学校で夏休みの自由研究のような労作展というものがあり、僕は小説を書いて提出しました。誰も読まないだろうと思っていたけれど、学校の友人と彼のお母さんが新人賞に応募することを勧めてくれたんです」

 瑞々しい感性で綴られた謎と企みに満ちた物語は、私立中学3年の緑川と、彼が通う中学の新米教師、原口によって交互に語られる。

 高校受験を控えた緑川は、学校で“陰キャ”と思われたくないと“陽キャ”のグループの一員でいることに神経をすり減らしている。“陰キャ”とは目立たずイケてない、スクールカースト下位のキャラのことだ。

 原口の父は学校の理事長。「経営者の息子」という色眼鏡で見られることに反発し、胸に熱いものを抱えているが、空回り気味である。

 そんな夏のある夜、緑川は同じ学校の生徒だと名乗る星野に「一緒に推理小説を書いてくれないか」と声をかけられる。

 一方、原口は自殺志願者が集うサイトに自校の生徒「S」がいることに気づく。並走する2つの物語が加速していき、やがて線路が合流するように1つになるとき、世界は違う顔を見せる。そして「S」の正体は――?

 身長178センチ、バレー部で鍛えた背筋を伸ばして、坪田さんは語る。

「小説を書きたいと最初に思ったのは、はやみねかおるさんの名探偵夢水清志郎シリーズの『踊る夜光怪人』を読んだ小2のときです。中学ではミステリを書いていました。でも、同じ高校だった兄を見ていて、高校生になったら忙しくて小説は当分書けないだろうと思い、自分のすべてを詰め込もう、と思って書きました」

■友人から「初めて本を読んで泣いた」と言われた

 そんな決意で書き上げた小説には、二度と戻ってこない15歳の夏の鬱屈や憧れが封じ込められている。

「応募を勧めてくれた友人は本の虫で、小学校のときからいつも僕が書いたものを読んでくれていたんですが、初めて本を読んで泣いた、と言ってくれました」

 作中には緑川が星野と書いたミステリも登場するが、

「実は、初めは作中作はなかったんです。最初に原稿を見せた中学の国語の先生のアドバイスで加えました」

 物語の鍵となる自殺サイトについて調べていたとき、座間9遺体事件が起きた。

「日常のすぐそばに、死に至る裂け目があるんだということを痛感しました」

 大人の描き方の老成ぶりにも驚かされる。成績が低迷する主人公への母親の助言がことごとくピントが外れていて笑ってしまうが、

「思春期の男子が一番ウザいと思うお母さんを書きました。母が『私のことこんなふうに思ってたの?』とショックを受けていたので、違うよと言いました(笑)」

 父親に「どうだ学校は?」と聞かれ、「これは子供が答えづらい質問の第1位だろう」という一文もあるが、

「それは実体験ですね(笑)」

 著者自身は両親から怒られたことも殆(ほとん)どない好青年だが、人間関係や将来の夢についての、誰にも知られたくない心の揺れも痛々しいほど誠実に描かれている。

「つい誰かに合わせてしまう情けなさは僕も感じていること。僕らの世代だったら誰でもわかる心情を書いたつもりなので、同世代に読んでもらえたら嬉しい」

 将来は理系志望。部活は辞め、今は待望の第2作を執筆中だ。「小説家はぼっちじゃない」のである。

つぼたゆうや/2002年東京都生まれ。慶應義塾普通部を経て現在慶應義塾高校2年生。中学3年生時に執筆した『探偵はぼっちじゃない』で第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。たちまちamazonで品切れになり重版がかけられた。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年6月27日号)

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