北の大地の水族館 山の水族館「低予算、極寒……弱点を強みに」――水族館哲学3

北の大地の水族館 山の水族館「低予算、極寒……弱点を強みに」――水族館哲学3

©中村元

 水族館のすべてを知り尽くす敏腕プロデューサーが、全国の水族館から30館を独自の哲学で選んだ『水族館哲学 人生が変わる30館』が刊行されました。その土地でしか見られない生物がいたり、観客とスタッフが近かったりと、どの水族館も、独特の魅力にあふれています。今回紹介する北海道北見市の「北の大地の水族館 山の水族館」は成り立ちがユニーク。水族館としてはきびしい条件ばかりでしたが、逆転の発想でみごとに甦りました。

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■極小予算、極寒という逆境

 北海道のど真ん中の山裾、寂れて閑散とした温泉街、車も通らない道、冬はマイナス20度の極寒、旧水族館の入館者は年間2万人弱、おまけに建設費は極小予算――。そんな状況で水族館を建て替えようとすること自体が無謀でしかあり得ないのだが、やってしまった。しかも集客できる水族館にする約束まで付け加えて、ついに実現した。 

 世の中には、どう考えても実現不可能としか思えない状況というのはいくらでもある。不可能の壁が突然現れたり、不可能の壁の前にいきなり連れてこられるという理不尽が起こることもある。

 気付けば結局その無謀な計画を、「ボランティアでプロデュースする」と言ってしまっていた。それはおそらく、あまりにも弱点だらけの環境と水族館計画が、ちょっと魅力的にさえ見えてしまったからだと思う。 

 多くのみなさんが、弱点は不利なことだと信じているだろう。だから、弱点は隠すか無かったことにしてしまう。そして「立派な」人たちは、弱点を克服しようとする。 

 これは、学校の勉強がバランスの取れた優秀さを求めてきたことによる、ちょっとした弊害だろう。「弱い科目を無くしなさい!」というアレだ。 

 しかし、弱点を克服するにはたいへんな努力が必要だ。もちろん、それをやり遂げる努力家の人たちも少なくはない。そして、羨ましいことに、弱点を認めて平気な人もわずかにいる。学校教育の枠には収まらなかった天才肌の人だ。天才的に何かが秀でているから、弱点などチャームポイントにしかならない。

■弱点をどうやって武器にしたのか? 

 もちろん、私を含めた多くの人が、そんな天才であるわけがない。そして当然の成り行きながら、弱点を克服できるような努力家でも秀才でもないのだ。

 そんな凡人が威張って言うのもなんなのだが、弱点を克服するのは時間とエネルギーの無駄だと思う。学校勉強程度ならまだいいが、実社会は別物だ。例えば北の大地の水族館が、冬に極寒となる弱点を克服しようとしたら、巨大なドームで覆うしかない。それだけで、建設予算は全て吹っ飛んでしまう上に、やったところで沖縄の気候に並ぶはずがない。 

 そこで、弱点「極寒」を十分認識した上で、武器に変える戦略だ。ここでは「極小予算」も合わせ技にして使った。 

 予算がなくても展示水槽を増やすために、水族館の外に穴を掘って、壁にアクリルパネルを入れただけの水槽にした。そこに高価な起流ポンプを超低予算ながら導入し、世界初の急流の川水槽をつくった。気温が氷点下になる頃には、流れが止まり自然に氷が張り始める。真冬には、世界でも例のない、結氷した川の氷の下で春をじっと待つ魚たちの様子を見ることのできる展示となる。 

 このあたりの川は冬になれば結氷し雪が積もるが、誰もその氷の下を覗いたことはない。全道民どころか世界中の人々の好奇心に火をつけるだろう。さらに、このような季節ものの話題は、東京のメディアも惹きつける。毎年必ずどこかで紹介されることになるだろう。……結果、その読みは大当たりだった。

■貧乏水族館から生まれた「世界初」の水塊 

 誰も見たことのない滝壺水槽の中を見せるために、アクリルトンネルを低予算ゆえ半分だけ使って、世界初の下から見上げる半トンネル水槽に仕立てあげた。これにより、瀑布による激流の泡の中で、きらめくオショロコマたちの泳ぎが見られる魅力的な水塊が誕生した。

 また、運営費を抑えるために廃業した地元の温泉のお湯を飼育に使っていたのを逆手に取り、魚が美しく育つ「魔法の温泉水」を使っているとアピールし、水族館の話題づくりと温泉旅館の復興も行った。実際、この水族館の淡水熱帯魚は良質の温泉水と豊かな地下水のおかげで、怪我の治癒も早くスベスベと綺麗に輝いている。

 仕上げには、酷寒の地にある寂れた温泉地の貧乏水族館だが、「世界初」も「世界一」もある水族館が誕生したとして、日本人の判官贔屓に火をつける作戦に出た。その結果、オープン後の1年間で、旧水族館の15倍という集客を果たし、地元への経済効果は43億円とはじき出される水族館が誕生したのだ。考えてみて欲しい。もし、弱点が半分しかなかったなら、この結果を出せただろうか? 否!

 自らの弱点を自覚している方には、ぜひ一度お越しいただきたい。我が門下生の館長が、運営の上でも弱点を武器にした新たな取り組みを次々にやっている。弱点を武器にするあなたなりの方法を見つけられるはずだ。

CHECK!
大人気のプログラム「いただきますライブ」を狙いたい。巨大なイトウ(日によって南米の巨大魚)に生きたニジマスを与えて、「襲う×逃げる」捕食行動を観察できる。私たちヒトも含めて、地球上の動物は命を奪い合うことで生きているというメッセージを水族館から発信するための食育プログラムだ。スーパーに並んでいる魚も肉も野菜も、誰かがその命を断ってくれたからそこにある。「いただきます」の本当の意味を実感できるはずだ。

DATA

北の大地の水族館 山の水族館
TEL.....................0157-45-2223
住所....................北海道北見市留辺蘂町松山1-4
URL.....................http://onneyu-aq.com/
開館時間.............8:30〜17:00(4〜10月)、9:00〜16:30(11〜3月)
休館日.................4月8〜14日、12月26日〜1月1日
入館料.................大人670円、中学生440円、小学生300円
交通....................JR留辺蘂駅から道の駅おんねゆ温泉行きバス約20分、終点下車徒歩約2分
車=旭川市街から国道39号で約2時間30分

データは2017年5月現在のものです。

文・写真 中村元

(中村 元)

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