【ヤクルト】伊藤智仁のここだけの話 小川泰弘のストッパー転向の経緯とは

【ヤクルト】伊藤智仁のここだけの話 小川泰弘のストッパー転向の経緯とは

©長谷川晶一

 交流戦では1引き分けを挟んで、まさかの10連敗を喫し、その後もなかなか波に乗れない東京ヤクルトスワローズ。現役の一軍投手コーチである伊藤智仁が、日々の戦いを赤裸々に振り返る定期連載の第3回目。6月の戦いを総括する「月刊伊藤智仁」6月号、現役コーチならではの生々しい告白に要注目だ!

■悪夢の交流戦を振り返る

――……交流戦は5勝12敗の最下位。まったく勝てなかったですね。

伊藤 勝てなかったですね……。

――改めて交流戦を振り返っていただけますか?

伊藤 交流戦はパ・リーグのバッターに圧倒された印象です。対戦してみて、「この打線はすごいな」と感じたのは、1ソフトバンク、2西武、3楽天という順番かな? でも、この3球団は、確かに打線はいいけど、きちんと投げることができれば試合は作れましたね。

――6月2日、西武との1回戦は原樹理の好投もあって2対3の惜敗、6日のソフトバンク初戦はブキャナンが好投したものの、延長戦の末1対2で敗戦。14日、15日の楽天戦では、それぞれ由規の今季2勝目、原樹理のプロ初完投と見事に勝利しました。

伊藤 先発投手がきちんと試合を作ってくれれば互角には戦えましたけど、先発が打ち込まれて、ちょっとランクが落ちたり、意図する球を投げ切れない投手が出てくると、全く通用しない。それがこの3球団でした。

――3日の西武戦では2対11、8日のソフトバンク戦では0対15。まったく手も足も出ないゲームでした。

伊藤 (8日に先発した)ルーキーの中尾輝にしたら、いきなり12球団有数の打撃力を誇るソフトバンク戦がプロ初先発だったので、かなり酷ではあったと思うけど、彼の持っている力はある程度は出せたし、いいボールも投げていたのかなと思います。この日は結果が出なかったけど、これを今後の糧にしてもらえば、後に「あの試合も無駄ではなかった」となると信じています。

■原樹理はなぜ、覚醒したのか?

――今月、個人的に最も印象に残ったのは、楽天のエース・則本昂大に投げ勝って、プロ初完投を記録した15日の原樹理投手でした。この試合については?

伊藤 「今月」というよりも、「今シーズン」と言ってもいいぐらいのナイスピッチングだったと思いますよ。彼は今、どんどんピッチングが上手になっています。

――「上手になった」という点を、「肉体面」「技術面」「精神面」に分けて、具体的に解説していただけますか?

伊藤 「肉体面」で言えば、彼は元々かなり身体が強いんです。身体が強い選手は、いい練習ができる。いい練習をすれば技術は当然、向上するんです。「体力がある」というのは、プロ野球選手にとって才能ですよ。そして、身体が強いから回復も早い。去年はケガはしたけど、きちんと練習できる身体を持っていました。今年のキャンプでも、ランニングなどの基礎練習においても、「オレが一番になってやろう」という意志が感じられましたね。

――「技術面」ではどうですか?

伊藤 質のいい練習をすれば、間違いなく技術は向上します。今年で言えば、まずはストレートの質が格段に向上しました。回転、回転軸が理想に近づいています。ストレートがよくなったことで、カットボールも質が上がった。去年までは「シュートありき、困ったらシュート」だったので、相手打者はそのシュートを見逃して外のボールを狙い打ちしていました。でも、今年はストレートでストライクが取れるようになり、アウトコース低めに投げ切れるパーセンテージが上がったことによってシュートが生き始めてきた。いい循環ですね。

――では、「メンタル面」の変化は?

伊藤 明らかに自信が芽生え始めていますよね。去年までは「打たれたらどうしよう」という感じがあったけど、今年はきちんとバッターと勝負できているし、ベンチから見ていても次に投げるボールを怖がっていないのがわかります。

――心技体が充実していて、原樹理に対しての心配はないですか?

伊藤 まだまだありますよ(笑)。落ちるボールをマスターしたり、マウンドでの振る舞いだったり、まだまだ発展途上、まだまだ伸びます。とは言え、彼の成長具合は僕もビックリですね。今月のMVPは原樹理でしょうね。則本と投げ合った試合も、序盤から内容的には原樹理の方が勝っていましたよ。あの試合、9回のピンチで降板する可能性もあったんです。

――6対1で迎えた9回表。1点を奪われて4点差になりました。さらにランナーを二塁において、打席には四番のウィーラーという場面ですね。

伊藤 正直言えば、あそこでウィーラーが出塁していたら二番手に交代していました。でも、彼はウィーラーを三振に切って取った。しかもカーブで。このカーブはその前の登板(9日・ロッテ戦)のときに鈴木大地にホームランを打たれた球種です。ここでカーブを投げ切った彼にたくましさを感じましたね。

■ライアン小川のストッパー転向の経緯

――今月は原樹理の話だけをずっとしていたいです(笑)。さて、誰もが驚いた「ライアン小川のストッパー転向」。この経緯を教えてください。

伊藤 交流戦の後半、石山泰稚、ルーキ、秋吉亮とそれぞれ調子を崩したりして、リリーフが不安定な状態が続いていました。そうなると、ゲームプランにおいて逆算ができなくなってくるんです。そこで、もう一人ビシッと抑えてくれる人材を考えていました。その条件としては、「真っ直ぐが速いこと」「コントロールがいいこと」「ボールに力があること」「落ちるボールがあること」、つまり「三振が取れること」、ここで頭に浮かんだのが小川でした。

――でも、先発投手が慢性的に不足している状況の中で、小川をリリーフに回せば、さらに先発ローテーションが苦しくなるのは自明の理ですよね?

伊藤 小川ならば一週間に一度先発をして、必ず長いイニングを投げて、試合を作ってくれます。使う側としては計算できるし、非常にラクです。去年のような先発事情であれば、小川の配置転換は考えなかったと思います。でも、今年はブキャナンがいて、原樹理、星知弥がいて、石川雅規もローテーションを守っている。そして、山中浩史も故障から帰ってくるめどが立った。さらに、由規も順調に回復している。ここに小川が加わるのがベストなのはわかっているけど、この現状を打破するための起爆剤として「小川リリーフ」を考えていて、ある日、真中満監督と話していた時に、監督が「小川にさせてみるか」とポツリと言いました。それが交流戦の終盤のことでした。

――伊藤コーチが考えていた「小川リリーフ転向」を、真中監督も考えていた?

伊藤 チームのエース格ですから、僕としてはものすごく葛藤がありました。でも、小川が左の脇腹を痛めてファームで調整しているときに、監督と話し合ってみると考えが一致しました。そこで、まずは高津臣吾二軍監督から本人に告げてもらいました。その上で、僕から本人に伝えました。これがうまくハマれば、いい形になると思います。でも、もしもハマらなければ……。正直大きな賭けだと思います。でも、チームは最下位なのだから、これ以上下がることはないと開き直って、思い切ったことをしなければ何も変えられない。もちろん不安はありますけれども、「勝利の形」を作ることで、選手たちにも安心感を与えたいという狙いもあります。

――昨年からずっと奮闘してきたリリーフエース・秋吉亮については?

伊藤 去年から今年にかけて、秋吉はこちらの期待には十分に応えてくれました。でも、彼の本来の持ち味はクローザーよりもセットアッパーだと思います。小川に最後を任せることによって、秋吉が本来の持ち場であるセットアッパーに戻って、さらに力を発揮してくれることを願っています(※その数日後、秋吉は右肩肉離れのため戦線離脱……)。

――さて、先月予告した「今月のルーキ」ですが、6月のルーキはいかがでしたか?

伊藤 いよいよ始まる「今月のルーキ」(笑)。でも、6月のルーキは芳しくなかったですね。同じ失敗を何度も繰り返しましたね。ボール自体は、日本人にはないすごいボールを投げるんだけど、僕の教育不足でなかなか伝わらない。歯がゆい思いばかりです。

――「同じ失敗」とは、どんな失敗ですか?

伊藤 「ここは慎重に」という場面で、簡単にストライクを取りに行ったり、キャッチャーの配球の意図をきちんと理解していなかったり……。それがアメリカの野球なのかもしれないけれど、ちょっと幼稚な部分がありますね。せっかくいい球を持っているだけに、その点が歯がゆいし、地道に話をして何度も繰り返し伝えている点です。

――最後に、巻き返しに向けて、7月の展望を教えてください。

伊藤 小川の配置転換がハマればある程度、勝利の形ができてくるはずです。ゲームプランが見えてくると、他のリリーフ陣、近藤、石山、松岡、山本がより一層、いいコンディションで起用できるようになります。連敗中のファンの方からの声援は本当にありがたかったし、結果を出せずに本当に申し訳なかったです。7月、8月で何とか巻き返します。投手陣は腕がちぎれてもいいという覚悟で投げています。ぜひ、これからも応援をお願いします。

――来月は、明るい話題で陽気に酒を飲みたいです!

伊藤 ホンマにそうやね。7月は巻き返します!

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(長谷川 晶一)

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