【イースタン・ヤクルト】戸田球場に響き渡るブルペン捕手・小山田貴雄の声

【イースタン・ヤクルト】戸田球場に響き渡るブルペン捕手・小山田貴雄の声

©時事通信社

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2017」に届いた約100本の原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】HISATO(ひさと) 東京ヤクルトスワローズ KK歳
 KK世代の野球女子。野球ファンを40年、ヤクルトファンを四半世紀。戸田と神宮中心に、バイクで行けるところに出没する。好物は「高速スライダー」、合言葉は「ノー鵜久森、ノーライフ」、座右の銘は「言い訳は進歩の最大の敵である」(パクリ)。記憶力は皆無だが、選手の顔と名前と背番号はよく覚える。ほぼ毎週戸田に行って写真を撮るが、カメラ女子よりメカ音痴寄り。バイクなので神宮でも飲まないが、野球があればいつでも酔える。

◆ ◆ ◆

■戸田球場の魅力

 空。風。ヒバリの声。緑溢れるヤクルト二軍の戸田球場。そこに通うようになったきっかけは、一軍選手がリハビリしていたから。でも、すぐに魅力にハマってしまった。至近距離の練習。プロの球。そして「人」に。

「OK! いい球だぁ!」

 一際大きな声がする。ブルペン捕手・小山田貴雄。戸田のムードメーカーで人気者。その存在感は圧倒的だ。190cm 95kg(公称)。一度宮出コーチと並んでいるのを見たが、あの宮出が華奢に見えた。「ガンダムみたい」とは友人の名言だが、白ユニに青赤の防具を着けた姿を見上げると頷ける。

 声もでかい。ブルペンではとびきりでかい声で投手を呼び、気合を入れる。ラップを歌って現れたり、物真似をしたり、変なあだ名で呼んだり、底抜けに明るいキャラが魅力の人だ。

 二十数年前から戸田に行ってはいたが、練習まで見たのは昨年3月が初めてだった。戸田球場にはブルペンシートがあり、練習時も入れる。初めて、目の前で生の投球を見て衝撃を受けた。

 プロの球って本当に唸るんだ。ミットの音がバン! と響く。その音に文字通り震えた。そして夢中で何十球と見るうちに、気付いた。

「ナイスボールだ!」「うーんもうちょい」。ブルペン捕手のミットの音、掛ける声を聞けば投手の調子がすぐ分かる。球数をカウントし、良い球悪い球をはっきりさせ、癖を指摘する、彼ら。申し訳ないが、それまでブルペン捕手といえば「壁」で、練習相手だと思っていた。現役の捕手に敵わない存在だと思っていた。

 いや、むしろ二軍の若手捕手には到底出来ないことをやっている。コーチの意思を受け、投手を導く重要な役割なのだ。

 以来、見方ががらりと変わった。生の球を見る。音を聞く。ブルペン捕手の言葉に感心する。笑う。戸田くらいそれが目の前で堪能できる所は他にない。試合の時も、次に誰が何回投げるのか、いつ肩を作るのか、ブルペンを通して見るのが楽しくなる。ブルペン捕手の目の前が定席になった。

■小山田シートで見た様々な光景

 二軍にブルペン捕手は3人いる。鮫島、新田は現役時代を知っていたが、育成で終わった小山田は、その現役時代を知らなかった。明るい性格は昔かららしい。彼らは守備練習の手伝いもすれば球拾いもし、打撃投手もする。投手陣の各塁送球を手伝えば、笑い無しに済まない。小山田がいればそこに目が行くので、戸田といえば彼の印象が強い。試合で座る席は小山田シートと勝手に命名した。

「昨日も来てましたよね?」

 彼が周りをよく見ているのにも驚く。通ううち声をかけてくれるようになった。そんなスタッフはそういない。あの笑顔が自分に向けられるのだから嬉しい。選手たちのこともよく見ているし、選手たちにしたらいい兄貴分だろう。彼のいる練習は活気があって楽しい。いない時は火が消えたよう。戸田が普通の練習場になってしまうから不思議だ。

 昨年投手陣崩壊と言われた時、SNSで「小山田を一軍に上げろ」という人がいた。何とも斬新な意見だと思ったが、そう思われる程、投手陣を盛り上げているのは確かだと思う。

 小山田シートに座って1年以上。その間、色々な光景を見た。彼とは同期入団の由規。ブルペンから試合へ、苦しみながら壁を乗り越え、神宮へ復帰を果たした。褒められて笑顔を見せた八木は、程なくトレードで旅立った。代わってやってきた近藤を、小山田はいきなり「カズキ」と呼んでいたから、ああ心配は要らないなと思ったこと。

 ペレスが試合直前に登板回避した時に、急遽肩を作って出ていった徳山。あの時は「ジェフンに投げさせたら?」と冗談で話していた。二刀流は今、四国アイランドリーグplusで投打に活躍中と聞く。去年の平井は圧巻だった。5月頃、試合中のブルペンで投げ込んでいた球は、受けた小山田が「今日、滅茶苦茶速ぇ……」と呟く程。その後支配下となり、3年ぶりに一軍登板を勝ち取った。間近で見た光景は、どれもブルペン陣の姿と共に鮮やかに思い出される。

 秋の戦力外通告も殊更に強く焼き付いた。トライアウトに備える寺田や新垣、児山をブルペンで見た。熱心に励ます声を聞いた。骨折から一軍復帰したものの、木谷は打撃投手へと転身。リハビリのみだった中元は、怪我が癒えることなく引退した。1年間、一軍も二軍も全員を見ていたから、思い入れが募れば当然悲しいし寂しい。ただのファンでさえそうだから、毎日共に過ごした彼らはどんな思いだろう。それでも表には出さず、明るく元気な空気を作り続ける。

 去る者があれば、来る者もあり。また新人はやってきて、マウンドへと送り出されていく。大きな声で。

 一軍へ。全てはそのためだけれど、行ける者も行けない者もいる。戻って来る者。いなくなる者。厳しい世界だから余計に、見られる今を大切に。選手を。スタッフを。彼らの野球を。大好きな小山田シートで見守っていく。

「カモンお菊さん!」「奎二いいぞ!」。戸田の空は、神宮へと繋がっている。近くて遠い、そこへ。一人でも多くの投手を羽ばたかせるために、今日もあの声が響くのだ。

◆ ◆ ◆

※「文春野球フレッシュオールスター」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/3327でHITボタンを押してください。

■その他の出場コラム
【イースタン・ロッテ】いつまでも走れ、カルロス・ムニス
【イースタン・DeNA】1998年10月8日、池袋東口で
【イースタン・DeNA】35歳会社員の私が、なぜ須田幸太を応援したくなるか
【イースタン・ヤクルト】戸田球場に響き渡るブルペン捕手・小山田貴雄の声
【ウエスタン・オリックス】突然消えたマスコット「八カセ」への異常な愛情
【ウエスタン・広島】今井啓介にどのようなエールを送ればいいのだろう
【ウエスタン・広島】丸佳浩に花丸を! 『勝浦カットサロンまる』にて
【ウエスタン・中日】大事なことはすべて星野仙一様に教わった

関連記事(外部サイト)