マンガ家・東村アキコが語る「スマホで読む」ことでひっくり返った業界の常識

マンガ家・東村アキコが語る「スマホで読む」ことでひっくり返った業界の常識

「LINEマンガ」偽装不倫 #1より ©東村アキコ ©YLAB/LINE

 マンガのデジタルシフトの流れをチャンスと捉え「 LINEマンガ 」で『 偽装不倫 』を連載している人気マンガ家の東村アキコさん。2017年に日本で、2018年に韓国でも始まったこの連載は、スマホ画面を縦に読み進めていく「縦スクロールマンガ」だ。読むツールの変化によりひっくり返ったという業界の常識とは?

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■「縦スクロールマンガ」を始めたきっかけ

――スマホでの見やすさに特化した「縦スクロールマンガ」はどのようなきっかけて始めたのですか?

東村 韓国に「ウェブトゥーン」というマンガを縦にスクロールして読むプラットホームがあるのですが、そちらで連載をやりませんか? というお話をいただいたのがきっかけでした。

 以前からKポップが好きで、ソウルにも何度も訪れていたので、韓国の人たちに私のマンガを読んでもらえたらいいなと思っていたんです。ウェブトゥーンは韓国の若者の間でとても人気があったので、いいチャンスだなと。

――描き方において、紙メディアとの違いはどんなところにありますか?

東村 描く流れは今までと変わらなくて、紙のマンガと同じようにページごとに描き、コマをバラして縦に組み立てています。

 違う点といえば、縦に展開していくため、セリフをメインにしているところかな。キャラクターたちが会話していくだけの、いわゆる“顔マンガ”にしてほしいとウェブトゥーンから最初に言われました。

■ツールの変化によって漫画業界の常識がひっくり返った

 紙をめくって読む場合には寄ったり引いたり、俯瞰にしたりあおりにしたり、構図や視点を変えることや、動きをつけること、見せ場を作ることが大事なんです。だからかつては「顔マンガ」って言われたら、単調で「描くのがヘタ」という意味でしたが、電車で縦スクロールマンガを読んでいる人を見ていると、文字がないコマは飛ばして、セリフを追っている。ウェブは顔マンガのほうが読みやすいんだと思います。

 読むツールが紙からスマホに変わったことで、顔マンガがよしとされ、業界の常識が簡単にひっくり返ってしまった。私はその変化に対応していくことに抵抗はないし、流れに乗っていきたいと思っています。

東村 マンガを描くのはタブレットを使っていますが、最初はまったくやり方が分からず、アシスタントの子たちと手探り状態でソフトをいろいろと試しながら進めていきました。

 慣れてしまえばラクで、何よりトーンを貼るという手間のかかる作業がいらないから紙のときよりもスピーディに仕上げることができたりと、プラス面のほうが多いですね。

■「韓国の読者はアツイ!」 国によって違った読者の反応

――縦スクロールマンガの読者の反応はいかがですか?

東村 もう、反響しかないです(笑)。とにかく、拡散力がすごい!

 これまで私の単行本を買ってくれていたファンの人たちだけでなく、ふだんマンガに関心がない方にも読んでもらっている感じがします。

 よく行く着物屋の店員さんや銀行の窓口のおねえさんとかが、「『偽装不倫』、今週も読みましたよ!」と声をかけてくれるんですよね。会う人、会う人からこの連載の話をされます。

 ウェブマンガ連載の醍醐味は、読者からのコメント。リアクションがすぐにわかるのが楽しいです。

 日本と韓国で連載しているので、国によって読者の反応の違うのもおもしろいんですよ。韓国の読者はとにかく熱量がある。みなさん日本のマンガをよく読んでいて、伏線に関して「これって、おかしくない?」と疑問を投げかけられたり……。自分があいまいにしていたところを突かれ、鋭い! と思うことが多々あります。褒めるときも情熱的なので励みになりますね。

 日本の方からのコメントを含めて、読者の反響を見ながらストーリーを作っていく。それが縦スクロールマンガに挑戦してみて、勉強になったことです。読み手が求めている方向に進んでいったほうがおもしろい展開になるな、と手応えを感じています。

 今は「LINEマンガ」で毎週土曜日に更新していて、そのつどコメントを見ながら進めているので、描き溜めはできない。というかしたくない。締め切りもタイトでしんどいですが、がんばっていきたいです。

■目の前に雑誌があってもスマホでマンガを読む子どもたち

――マンガのデジタルシフトは今後も進んでいきそうですか?

東村 紙のマンガで育った人間なので、雑誌や単行本は残って欲しいですけど、スマホで読む手軽さを一度知ってしまうと戻れないんじゃないかな。

 うちの子供が中学生なんですけど、学校が終わって友達が家に遊びに来たときに『進撃の巨人』が載っている別冊少年マガジンとかをわざと机に置いたんですよ。「今日、発売のやつだよ」ってね。でも、彼らの反応は「そうなんだ!」って言いながらそれぞれのスマホで最新の『進撃の巨人』を読むわけです。目の前に雑誌があるのにですよ。これはもう戻れんわ、と思いました。

 私自身も、この間マンガ賞の審査員をやったんですけど、候補作が大量にダンボールで送られてきて、結果的には電子版を買いiPadにダウンロードしました。移動中やお風呂で読めるし。お金がかかってもラクなほうを選んじゃうんですよね。

――『偽装不倫』は「LINEマンガ」で更新されたあと、コミックでも出版されています。

東村 そうなんです。縦スクロールをメインに考えながら、ゆくゆくは単行本になることも意識して、横展開での流れも頭に入れながら、描いています。

 デジタルではキャラクターの気分を色で表現していて、リアリティを出すために色の存在感を出しすぎず、淡いトーンで見せるようにしています。単行本もカラーのまま収録しているので、色を楽しんでほしいですね。

スマホマンガから単行本という展開から生まれた、東村作品の初のカラーバージョンコミック。デジタルシフトにより作品の拡散力、読者と共に作る制作の形、色を使った表現など、東村さんに期待以上の“産物”をもたらしたことは間違いない。

LINEマンガ「偽装不倫」

毎週土曜連載中

「出会って、恋をして、結婚」が困難なアラサー世代へ。人気漫画家からのメッセージ へ続く

(梅崎 なつこ)

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