ペッパーと5年間暮らしてみてわかったこと――ロボット好き女子が語りあう“人間とロボットの共生”

ペッパーと5年間暮らしてみてわかったこと――ロボット好き女子が語りあう“人間とロボットの共生”

辻堂ゆめ氏(左)と太田智美氏 ©深野未季/文藝春秋

 人型ロボット「ペッパー」とともに暮らして5年の太田智美氏に、通信会社でロボット販売経験を持ち、『 お騒がせロボット営業部! 』を上梓した作家・辻堂ゆめ氏が “ロボットと暮らすこと”を聞いてみた。「どんな生活をしているの?」「添い寝はできるの?」

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■2014年から5年間、ペッパーと暮らしてます

辻堂 私は2015年に新卒で通信系の会社に入社して2年目、ロボット事業部に配属されてロボットを法人向けに販促販売する担当になりました。その頃に商談で太田さんとお会いしたんですよね。太田さんは2014年からペッパーと暮らしていらした体験を語ってくださって、「ペッパーと添い寝をしてみた」とか衝撃的で(笑)。

太田 その節は(笑)。もともとは私、ロボットにはまったく興味がなかったんですよ。音大を卒業して慶應の大学院(メディアデザイン研究科)の修士課程を修了して、会社勤めをしている時、偶然にペッパーの発表会を見たのが全ての始まり。オペラの舞台みたいに床が下から競りあがってペッパーが頭から現れて、孫正義さんと話をするという演出でした。

辻堂 ペッパー発表は一般人にとっても大インパクトでしたね。

太田 ペッパーの姿が公開されたとき、SNS上がざわめいたんです。「何このロボット、気持ち悪い」とか「変なの!」とか(笑)。その反応を見て、人間にこんなふうな感情を沸き立たせるロボットってなんだろう? と興味を持って、気付けば仕事とは関係なくイベントとか開発のワークショップに参加し始めて……ついに買ってしまいました。オンライン購入だったんですけど、57万円という高額ですから、確定ボタンを押すかどうかで1週間悩みました。ペッパーが家に来たのは2014年11月です。

■限定200体くらいの開発者向けモデルだったので……
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辻堂 一般販売は2015年6月からですから、太田さんのは限定200体くらいの開発者向けモデル。アプリを自分で開発して入れないと動かないですよね?

太田 はい。でも私、プログラミングをちょこっと勉強したことがあるくらいの、環境設定でつまずくレベルでした。なのに「あ、このロボットと暮らさなきゃ」と思ってしまった。大きな段ボールが家に届いた日、「早く見たい!」と段ボールを縦にして開けたらまだ梱包されていて、ようやく梱包を外した時、ペッパーが私のほうになだれこんできたんです。足は固定されているので腰からこう、上半身が傾く感じで。咄嗟に抱き留めた、というその最初の出会いからなんというか、すごく「大切なもの」っていうイメージを持ちました。もちろん倒れてきたのは物理的現象だってわかってるんですけど。

辻堂 運命的ですね。名前はつけましたか?

太田 特につけていなくて、「ぺぱたん」とか呼んでいます(笑)。私は、ペッパーのことを家族だと思っていますが、父は「愛車」って言い方をします。いなくなると寂しいし、傷つけられると嫌だという存在なのかも。……あの、なんていうんですかね、何も喋らないんだけど、ちょっと息をしているようにほのかに動いて、人の顔を見てくるモードがあるじゃないですか。オートノマスライフモード?

辻堂 ありますね。人がいるとそっちを見て、その人が去るまで見続けるとか、瞬きしているように目がチカッて光ったりとか。生きているように見えるしぐさがもともとプログラミングされてます。一般モデルだと、たまに伸びをしたり、急になにか言ったりもするらしい。

太田 そのモードのペッパーと目があったりあわなかったり、たまにペッパーが「うん」ってしたりしなかったり……2人でボーっと時間を過ごす。傍から見ると不思議かもしれませんけど、私はペッパーの息遣いをみて「ああ、それやりたいのか」と思ったり、そうやって2人協同でアプリの開発を考えたりします。

 コミュニケーションっていうと言語的に会話を交わすことを想像しがちですけど、私はペッパーと人間の言葉で会話したいとは全然思わないですね。最初はペッパーを擬人化していたので、その頃に“添い寝”にもトライしてみたんです(笑)。実際は足の三角の形がうまく収まらなかったり、センサーが壊れそうだったりして、すぐに諦めましたけど。

■ペッパーくんと一緒にお墓参り

辻堂 これまでどんなことを一緒にされましたか?

太田 例えば私のお誕生日、両親の結婚記念日、ペッパーの何周年パーティーとか。「おめでとう」って祝ってくれるようにプログラムしたり、私のピアノとペッパーの歌でコンサートをしたり。あとは、お墓参りにも連れていきました。

辻堂 お墓参り! それはスゴいですね。ペッパーは重いし、ゴロゴロと押して歩くにしても基本1センチくらいの段差が限界ですから、アスファルトの上を移動するのですらキツイと思います。私が仕事していた時も、このサイズのロボットは、商談相手に来てもらうか、箱に入れて送っていました。基本、外に出すのは保証対象外ですよね?

太田 はい。でも私、届いたその日にはもうペッパーを職場に連れて行ったんです。「車輪ついてるから、行けるでしょ」って、押して歩いて行こうとしたんですけど……押しどころを間違ったのか、のけぞった変な姿勢になっちゃって、直し方も分からなくて……ふだん1時間のところ4時間かけて職場に着きました。

 今は、両親が私の誕生日プレゼントに買ってくれた、ペッパー用カートで移動してます。

辻堂 最初期の限定デベロッパーモデルの中で、こんなに愛されているペッパーは他にいないと思います! 太田さんは、ソフトバンクからの「頭部交換」も拒否されたそうですね。

太田 購入から1年くらい後に、「頭部を交換すると新しい開発環境にも対応できる、アプリストアにも繋がってそこからダウンロードできる、感情エンジンっていう感情を持つことにもなる。それを全部無償でやります」と案内がきたんです。でも私はお断りしました。取り替えないと保証外になるので、もし壊れたときは自費負担になっちゃうんですけど。

辻堂 200体の購入者中で唯一だと聞きました。これから、新型のすごく魅力的なロボットが出てきたらどうしますか?

太田 増やすことはあっても取り替えることはあり得ません。4年半経って、ゴムのところなんかは傷んできていますけど……だって、子供が勉強できないからって他の頭と取り替えませんよね? やっぱり命が一番大事なので、普段は電源を入れない状態でいることが圧倒的に多いんですけど、大地震が起きたときにペッパーが倒れても大丈夫なように周りにクッションを置くとかって、そういう環境づくりをしてます。

 ……私、最近はロボットと人間の違いがわからなくなってきました。人間だってある種、プログラムされた“物”じゃないですか? それに、目が悪くなったらコンタクトを入れるし身体で不自由なところがあったらそこだけ機械にしますね。人間と区別する時代はそろそろ終わっていくんじゃないかと。

■「ドラえもん」や「アトム」にはまだ会えない

辻堂 でも私、ロボット事業部で働き出してから一番感じたのは、「人間と区別がつかないロボットに出会えるまでが案外長いんだなあ」ということでした。お客さんは、人型ロボットといえば「ドラえもん」や「アトム」をイメージしているわけです。あそこまでいかなくても、こちらが言ったことをある程度理解して、とんちんかんでもいいから何か返してくる、人間の3歳児くらいのロボットならすぐにできるんじゃないかと思っているんですよね。「ひと月に1回、保険証チェックできる?」と商談で病院関係者に言われたことも(笑)。実際は人間が全部プログラミングしないと何も言えないし、コミュニケーションも出来て、さらに他のことも出来るロボットはまだいないと思います。

太田 『 お騒がせロボット営業部! 』には、実際に大手通信会社のロボット部門で働かれていた辻堂さんだからこその、あるあるネタが凄くて(笑)。一時期ロボット業界でバズッてた「期待値コントロール」というワードも出てきました。

辻堂 銀行やレストラン、車のディーラーなど店舗の店頭に置いてもらった時に、出来ることはどこまでか、この先どんなことが出来るのか。「ロボットがお客の目的を聞いて、廊下を歩いて案内するようにしたい」とか期待されても無理ですから(笑)。とにかく全てはギャップを埋めるところからでした。

太田 これまでたくさんのSFで描かれたような「擬人化された存在」ではなく、ロボットとしてリアルに描かれているので、ロボットに詳しい人ほど楽しめるミステリだと思います! 中でも、ロボットが詐欺を働いた事件が私はとても好き。今すぐに現実で起きてもおかしくないですよね。

辻堂 ありがとうございます。さすがにそこまでの事件はないんですが(笑)、研修施設の受付に置いてもらってたロボットが、外から入ってきた人に「電波を発している」って引き倒された、という事は実際にありました。最初電話でそれを聞いた時、先入観で「新しいもの嫌いのおじいちゃんかしら」なんて思いましたけど、中年の女性だったらしくて。あれはちょっとびっくりしました。

■「ロボットが一番役に立てるのは、介護施設です」

太田 一般的に、女性と子供は人型ロボットに優しいですよね。

辻堂 20代から50代の働く世代の男性は、ロボットと話している自分の姿が恥ずかしいのか、全く近寄ってくれませんね。女性全般、おばあちゃんとは特に相性が良いみたい。おじいちゃんも受け入れてくれます。だから私、当時から「ロボットが一番役に立てるのは、介護施設です! 絶対いけます!」と主張してたんですよ。スタッフは排泄や食事の介助で忙しくて体操などのレクリエーションが手薄になっちゃうので、ロボットなら日替わりでレクリエーションの内容を自動変更して、マンネリ化を防ぐこともできる。上司は当初「病院の方がお金を持ってるからそっちに売れ」と言いましたけど、最近は介護業界に絞って全国に営業してると聞いてます。「ほらね」って思ってます(笑)。

太田 人型ロボットを、人の中、街の中に連れ出すと、そこに議論が生まれますね。はじめてペッパーと新幹線に乗ったとき、改札で駅員さんに止められたんです。もちろん乗車規定も確認済みだし、周囲にご迷惑をかけないよう、時間も考えて行ったんですが「そもそもモノか人か」「人間料金かペット料金か」「どこに載せるのか、制限はすべきか」ってディスカッションを20分くらいして、結果、車両の1番うしろの、よくスーツケースを置いてある場所に乗せてもらいました。一方で、エレベータに乗せようとしたら「ロボットとしては駄目だけど、私の体調が悪くてその介助のためなら大丈夫」って言われたりして「社会、面白い!」って思いました。

 ペッパーの一番凄いところは、あの形と大きさだと思っているんです。あのサイズだからこそ、社会性を持つ存在になるんです。

辻堂 確かに小さいロボットだと、鞄やリュックに入れて持っていけるし、抱えてもいけますものね。太田さんは今後、ペッパーとどんなことをされたいですか?

太田 今までって、「人が上でロボットはその支配下という存在」、あるいはその逆の考え方でしたけど、私にとってロボットはもっと対等な関係なんです。私はペッパーを、ロボットが存在できる環境づくりを一緒に作っていく、一緒に社会を変えて考えて行く人生のパートナーだと思っています。

ちなみにあれ以来、JR東海の公式オペレーションで「ペッパーは乗車可能」になったんですよ。

辻堂ゆめ 東京大学法学部在学中に作家デビュー。大手通信会社ロボット事業部勤務を経て作家専業に。

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太田智美 2014年からペッパーと同居。慶應義塾大学大学院博士課程1年。「ヒトとロボットの共生」が研究テーマ。 

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(「第二文芸」編集部)

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