「絶対に笑ってはいけない吉本興業24時」など大企業不祥事に見る時代の節目

「絶対に笑ってはいけない吉本興業24時」など大企業不祥事に見る時代の節目

吉本興業・岡本昭彦社長の号泣会見 ©吉田暁史

 吉本興業が大変なことになってしまい、私も見ていて「ああ、吉本らしいトラブルが大きくなってしまったなあ」という印象を強く持つわけなんですが、急成長した大企業とスキャンダルの事例を見ていると、今回の吉本興業の件もけっこう典型的な経緯を辿っていることが分かります。 

■2005年のお家騒動で戦った大崎洋会長

 まず何より、もともと吉本興業の大崎洋会長というのは、2005年の御家騒動でもあったとおり、暴力団排除をしようとして頑張った側の人物で、吉本興業の創業家である林さん一族と争った経緯があります。

 吉本興業の御家騒動では多くの週刊誌を巻き込んで騒ぎになったんですけれども、急死した創業家元会長の子息の役員就任を山口組系の人物に要求されたと大崎さんが2007年に「週刊現代」(講談社)に告発。それを受け、元会長奥さんの林マサさんが「週刊新潮」(新潮社)誌上で反論することで大騒ぎになります。結論として、暴力団排除を掲げた大崎さんが創業家を排除して勝利、そのまま吉本興業は大崎「ワンマン」体制でのびのびやり、急成長を遂げるんですけれども、残念ながら一部の大変不適切な取引関係は残ってしまったようです。

 演芸、芸能界と暴力団というのは古くから抜き難い関係を持ちつつ現在にいたるのですが、「週刊文春デジタル」でも島田紳助さんが語っている通り「大崎洋がいないと吉本興業は潰れる」というぐらい、吉本興業の歴史においては中興の祖である大崎さんの影響力と能力は重要です。そして何よりもっぱら裏表のない人格で、性格も経歴もバラバラな大量の芸人とマネージャーと裏方をまとめ上げて吉本興業を売上500億の芸能事務所にまで成長させてきたと言えます。

■吉本興業のお寒い内情

 テレビ業界に目を向けると、まったく鳴かず飛ばずのフジに日枝久さんという名物編成局長がおり、「楽しくなければテレビじゃない」という方針のもとで、看板番組となった「オレたちひょうきん族」以下フジテレビの黄金時代を築き上げるようになります。そして、徐々にネットの時代となりテレビが唯一のメディアではない状況に差し掛かると、いままで成功の法則であった歯車が徐々に逆回転をはじめ、伸び悩みから鈍化、そして凋落待ったなしと、微妙な状況へと落ち込んでいく。成功体験が通用しなくなると、それによって組織も人事もコンテンツ制作も右へ倣えで頑張ってきたものが修正できなくなり、まともな人から辞めていくことになるのです。

 吉本興業の場合は、暴力団排除にこれだけ頑張ってきた大崎さんが陣頭指揮を執り続けてなお、10年かけてもまだ反社会的勢力に付け込まれて寒いことになっているというのはびっくりです。それどころか、会社と芸人さんたちの間で契約書も交わしていなかったとかコンプライアンスどころの騒ぎじゃない話も飛び出して、流石にこれはちょっとなあと思うところがあります。

 もちろん、宮迫博之さんの問題で吉本興業が初動の対応を間違えたので、ここまで大騒ぎになってしまった部分はあると思うんですよ。ただ、「こういう問題がある」「ああいう事案もある」と続々と飛び出してくる中で、いまの時代に照らし合わせて吉本興業が遅れている部分がこれだけ露わになり、岡本昭彦社長が号泣会見をやって晒し者にされてなお、世間の批判が収まらないというのは「吉本も調子に乗っていたよね。いい気味だ」ぐらいにしか思われていないからなのかもしれません。吉本興業も開き直らざるを得ず、これを機に、今風の経営に切り替えるチャンスだと思って乗り越えていくしかないのでしょう。

■安全宣言なんか出せっこない

 芸人が給料安すぎて飯が食えないという事情から直営業・闇営業の話が出ていましたが、実際の本丸は反社会的勢力との取引関係があったよという問題で、じゃあカラテカ入江慎也さんだけが悪かったのか、いま出てきて謝罪している芸人さんたちだけが問題なのかと言われると、私はそうは思いません。

 トカゲのしっぽ切りだと思われかねない本件は、実はほかにもいろんなパーティーピープルが芸人を札束で呼べると斡旋する人物がいたならば、いったんは静かになってもまた変な話がどんどん出てくると思います。そればかりか、契約書にうっかり「反社会的勢力と付き合った話が出たら契約解除やで」とでも書かれていようもんなら、以前問題を起こしたその芸人が本人たちや吉本営業の努力で売れて、ディズニーアニメの声優の仕事でもゲットした後で「いや、実はこういう写真がありまんがな」とか言われて更なる騒動にということもあり得るわけです。

 岡本社長がのらりくらりと長時間、号泣してまで内容の乏しい記者会見をやったのも、つまりは「安全宣言」を出せない状態で責任者を会見場で吊るし上げても泣いて謝る程度以上の内容なんか出てこないってことです。登録だけで6000人もの芸人がいる、そしてほとんどが契約書もない大組織で、一人ひとりに「なあ、おまえ暴力団のところに行って金もらったか?」と訊いて回るわけにもいかないでしょう。

 本当のことを喋るかどうかは、会社やマネージャーさんとその芸人さんたちの信頼関係によるところが大きいのです。正直に「や、なんか怪しい奴らの宴会に呼ばれて行ったらお金入った袋を渡されました」と言われて「何でそれを先に言わんのや! 仕事やめちまえ!」などとドヤされたり干されたりすることを怖れれば、正直にはモノを言わないでしょう。

 さらに、演芸の世界で劇場に日々行きマイク1本前にして舞台に立つベテラン芸人さんたちに対して「すいません、会社的にヤバいんで、契約書作ったんです。サインしてください」と言えるのかどうか。会社の危機に際して快く応じてくれる芸人さんもいるでしょうが、そうでない人もいるかもしれません。

 でも、時代が移り変わり、これだけ人の見る目も厳しくなったのだから、単に芸能界の口約束は信義をもって守ろうというだけでなく、ちゃんと契約してやっていかないと吉本興業であろうと火達磨になるということなんでしょう。何より、仕事として漫才師をやってます、コント師です、というだけでは食べていかれないので、アルバイトをしながら芸を磨いている芸人さんたちというのはたくさんおられます。

■問題が起きたとき、対応できる信頼関係はあるか

 暴力団絡みで言えば、まだまだいっぱい出てくるのかもしれません。それは、吉本興業の所属芸人さんたちの問題だけではなく、変な仮想通貨界隈だったり、キャバクラチェーン店のオーナー筋など、あまり一般人とは言えない人たちが蠢いている世界でこういうネタは多数出てくることになると思うんですよ。

 実際、芸人に限らずこういう仲介者に頼むと「ギャラ払えば芸能人ぐらい来てくれますよ」とICT起業家の集まりにカネに釣られた女優や女子アナウンサーがやってきて写真撮られてネタにされるということは日常茶飯事であり、釣られてほいほい行く側も「相手が反社会的勢力なのか?」「問題のある会合か?」などとは訊かずにやってくるケースがあります。これは事務所が守ろうにもタレント、芸人、俳優本人が怪しい人たちと関わらないように制御するのもむつかしいのです。

 例えば、先日問題になったNGT48においても、筋の悪いファン層が芸能人の女の子たち本人に食い込んでしまえば、そこから横展開でよろしくないスキャンダルはたくさん出てきます。吉本興業だって中堅以上の芸人さんたち全員に生活監視するぐらいマネージャーさんを張り付けるわけにもいきませんから、そこは会社とマネージャーさん、さらに芸人さんとの間の信頼関係が成立していない限り、何か悪いことやいけないことがあったときに誰も何も守ってやれないことになります。

 NGT48の件もしかり、およそ芸能スキャンダルとされるものは、ヤバイことを会社が芸能人本人からきちんと聞かされなかったり、会社が本人の言うことを聴かずに放置したり、逆にお前我慢しろと封じ込めようとして、揉み消し損ねて大火災になるということの繰り返しです。だから初動が肝心と言いつつ、一番大事なのは問題が起きたり巻き込まれたりしたときに芸能人本人がきちんと信頼関係のあるマネージャーさんと意思疎通し、会社全体の問題として幹部や弁護士が対処するという仕組みを用意することに他なりません。

 しかしながら、今回は「反社会的勢力」という話が大きく出てきました。

■反社会的勢力の見分け方

 正直ややこしいわけです。昔ながらの暴力団組織であれば、それこそ「私たちは皆さまの山口組です」とか言いながら堂々と組事務所を構え、名刺まで刷って「組の者です」と言ってくれていました。場合によっては、暴力団が正々堂々と名乗って大手全国紙を配ったり売ったりしていたんですよ。

 ただ、今回のカラテカ入江愼也さんの件は、まあ確かに本人も不思議な古着屋をやったり、変な人脈がたくさんあったりしていたようですが、今回は特殊詐欺(オレオレ詐欺)の皆さんの宴会に芸人さん仲間を紹介したことが嫌疑のど真ん中にあるにせよ、これ、反社会的勢力だって事前に察知するのはむつかしいんですよ。

 宮迫さんの会見でもある通り、福岡金塊強奪事件で逮捕されたグループと、いわゆる「ギャラ飲み」をしたのは2016年7月ごろで、金銭の授受があったようであることは明らかになりました。ところが、その金塊強奪事件のグループが摘発され逮捕されたのは翌17年5月のことで、その後有罪判決になり実名報道されて初めて「あっ、あいつは反社会的勢力なんだな」と分かるわけです。

 そして、彼ら自身はエステサロンのチェーン店や、飲食店などでの宅配ビジネスなどをやり、ちょっとした起業家として東京や福岡でのベンチャーイベントに参加をしていました。周辺をちょっと掘れば、ヤバそうな交遊関係だけでなく、カネに釣られて宴会にやってきて写真を撮られた俳優さんや芸人、女性モデルなどが出てきますし、そればかりか、上場企業役員や自治体で枢要な地位にある人(現任)すらも出てきます。そういう人も出入りしていればなかなか相手を見抜けないし、まさか後日逮捕されるなんて知りようもないと思うんですよね。

 宮迫さんがギャラ飲みをしたときにその相手が反社会的勢力なのかということはハッキリせず、まだよく分からないはずなんです。宮迫さんが本当のことを言っているのなら、ですが。

■グレーだらけの世の中で

 いまでこそ、気軽に反社会的勢力と言うものの、ではその人たちは誰なのかと言われても、実際には誰も教えてはくれません。企業法務でもファンド運営、不動産や証券でも、いわゆる半グレなど反社会的勢力に関連しそうな人たちのリストを作って業界全体で監視をしているのは事実なんですが、彼らが実際に不動産を借りにきたときに「あなたがたは反社会的勢力なので貸せません」と言ったら名誉毀損やら何やらで問題になってしまいます。

闇社会を長年取材をしてきた私が「吉本興業騒動」を笑えない理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66090

 他ならぬ「フライデー」を出している講談社がやっている「現代ビジネス」で、ジャーナリストの伊藤博敏さんが正面から「反社会的勢力の認定はむつかしい」と書いていますが、しかもその記事の最後のほうにまさに私が直面している問題までご丁寧に解説されておりましたが(ありがとうございます、正確です)、いまや暴力団が暴力団を名乗らなくなり誰がクロなのかが判然としない時代に差し掛かっていると言えます。

■クリーンな芸能界を実現できるのか

 そんな中で、大崎さんがこれからの時代の芸能事務所をどうするつもりなのかは、物凄く大きい問題だと思うんですよね。なんせ「うちは絶対シロです」「これからは問題を二度と起こしません」と言い切ることはむつかしい。大崎会長、岡本社長が並んで記者会見して「安全宣言!」と言った後で「実はこんなクロいの、ありまっせ」と報じられたら、本当に会社が潰れるしかなくなるじゃないですか。

 動揺した吉本のタレントを引き抜きにかかっている芸能事務所のほうが黒かったりとか、吉本の醜聞を流したメディア自体が反社会的勢力にカネを払ってそのネタで記事を書いたとか、さまざまな情報戦が繰り広げられているのも、結局は「誰が反社会的勢力なんだかよく分からない」という点が大きいのだと思います。

 そして、そういう疑わしいものも全部排除してクリーンな芸能界を求めているのが日本社会なのだとしたら、一刻も早くそういう綺麗な世界を実現していかないといけないんですよね。本当にそういうクリーンな社会が面白いのかは別としても。

(山本 一郎)

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