複雑なメロディをこなす上坂すみれの職人的歌唱――近田春夫の考えるヒット

複雑なメロディをこなす上坂すみれの職人的歌唱――近田春夫の考えるヒット

踊れ!きゅーきょく哲学/上坂すみれ(キングレコード)上智大学ロシア語学科出身のソ連文化趣味で知られるカルト的人気の声優アイドル。

『踊れ!きゅーきょく哲学』(上坂すみれ)/『君のとなり』(Dream Ami)

 片や俗にいうところの“アニソンうたい”のお姉さん方、対するはいわゆる人気商売専門に徹して生きる決意の、いまどき女子アイドルの皆さん。音楽表現者という文脈で捉えたとき、果たしてこの二者はいっしょくたに語っても構わぬ、すなわち“競合”の関係になるのでありましょうか? いやいやそうではなく“稼業違い”なのでありましょうか。

 さすがに私ぐらいの歳まわりだと、もう世代的に“オタク”という生き方のそれ自体、何が楽しいのやら理解不能なところもある。従いまして、「ジジイがなんかまた的はずれなことをいってやがる!」とかなんとか非難されること百も承知で申しますけれど、それぞれともに坊やちゃんをメイン相手のサービス業とはいえ、やはりこのふたつは一括りには出来ぬ気がするのだ。

 上坂すみれ(声優)の新曲を聴きながら、何となくそんなことを考えたりしていた。

『踊れ!きゅーきょく哲学』は、メロディラインが結構複雑な上に、騙し絵のような転調まで盛り込まれていて、歌い手にとっては、普通に申して、こなすのもなかなかやっかいな作りとなっている。いずれにせよこの曲を歌うには、ある程度の楽典的な構造の把握――解釈力とでもいおうか――も求められるだろう。いい換えるならば、たとえば譜面が読めるかどうかとか。そうしたスキルの有無が、歌の吹き込みにあたって、思った以上に重要になってくる。

 或いは発声法しかり。今回の上坂すみれを聴く限り、要するにこれは“専門職”ならではの歌唱なのである。

 無論、ひとり彼女のみが例外であって他の声優はそこまで“歌の玄人”ではないのやもしれぬ。だとして、これはアティチュード/メンタリティの話である。

 ちょいとアニメのシーンの一つ二つでも思い出してみてほしい。声優に“素人臭い”声の人はまぁ先ずいないだろう。歌もそれと同じ意味だ。

 声優の世界は要するにプロの世界だ。誤解を恐れずいえば、彼女らは――アーティストではなく――敢えてアルチザン(技術者)の道を美学として選ぶような人たちなのだ。

 そのような観点から昨今のアイドル嬢たちを眺めれば、こちらは楽曲より歌唱より何より、自身の発揮するフェロモン/オーラこそが一番の商品価値だという哲学を持っているようにも思える。意識は完全に“アーティスト”いや“スター”のそれであろう。歌の上手い下手向き不向きなど(どう考えても)ファンとてまったく興味の対象としていないではないか(笑)。

 もう一度整理すると、声優は技術、アイドルは存在。売っているものが根本的に違う。似て非なるとは、まさにこのことなのでは?

 ただし。そのどちらが優れているかといった問題では決してありませんので誤解なきよう。双方安心して業務に励んでいただければ幸いです。

 Dream Ami。

 このまんま、どんどん平和な世界に入って行くのかなぁ。

(近田 春夫)

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