日本人の生活を支えるインフラ“コンビニ”で、なぜ“エロ本”が売られているのか?

日本人の生活を支えるインフラ“コンビニ”で、なぜ“エロ本”が売られているのか?

『エトセトラ VOL.1 特集/コンヒ?ニからエロ本か?なくなる日』(田房永子 著)

 今年5月創刊の「エトセトラ」は、毎号ちがう責任編集長が“いま伝えたい”フェミニズムやジェンダーにかかわるテーマを特集するフェミマガジン。発行元は編集者の松尾亜紀子さんが設立した出版社「エトセトラブックス」だ。

「もともと、河出書房新社に15年間勤めていて、2011年頃から明確にジェンダーやフェミニズムをテーマにした本を作っていこうと思いました。それから『ママだって、人間』(田房永子著)、『問題だらけの女性たち』(ジャッキー・フレミング著、松田青子訳)などを手掛け、その流れでごく自然に独立し、フェミニズム専門の出版社を立ち上げました。トランプ政権発足後、アメリカでフェミニズム運動が盛り上がり、その影響で日本におけるフェミニズムの再受容が進んだことも追い風になりました。さらに、日本ではSNS、特にTwitterとフェミニズムの親和性が高く、私が手掛けた本が、ある一定数の人たちに届いている実感もありました。ならば自分で出版社を立ち上げたほうが、すぐそこに見えている読者に対してよりストレートに本を届けられるのではないかと思ったんです」

 創刊号の責任編集長は漫画家の田房永子さん。テーマは「コンビニからエロ本がなくなる日」だ。2019年1月、大手コンビニチェーンが同年8月で成人向け雑誌の販売を原則中止するというニュースが流れた。本誌では、これに賛成する人の声はもちろん、反対する人の意見も掲載されている。特に、コンビニからエロ本がなくなることについての意見を公募した「投稿フォーラム」のページが興味深い。

「当初、私は両論併記に懐疑的でした。これまでメディアではフェミニズム的な問題を“どっちもどっち”という形で取り上げることが多かったので、どうしてフェミマガジンでそれをやらなければいけないの? と。ところが蓋を開けてみたら田房さんの意図がよくわかりました。『投稿フォーラム』には120通以上のお便りが届き、その多くが『うれしい』という意見でした。でも、なかには女性を性の消費の対象としか見ていないような意見もあり、こういう構造があるからコンビニにエロ本があったのだとようやく腑に落ちました。両論の一方を消してしまうと、このグロテスクさも違和感も浮き彫りにはならなかった。コンビニからエロ本がなくなる日を記録することは、なぜコンビニにエロ本があったのかを記録することでもあるんですよね。また、田房さんがその記録を残したかったのは、すぐ“なかったこと”にされてしまうから。今年1月の報道の直後に取り扱いを止めた店舗もあり、8月に一斉撤去されたら、エロ本がコンビニにあったこと自体が忘れ去られてしまう。なぜ日本人の生活を支えるインフラ的な場所に、敢えてエロ本が置かれていたのか。そこを強調したかったんです」

 発売後、どんな反響があったのだろうか。

「特に男性から『コンビニにエロ本があることの暴力性や性差別の構造に全然気づいていなかった』という感想があり、“全然気づかない”ことがあるのだと改めて驚きました。私たちは決してエロそのものが悪いと言いたいのではなく、男性向けのエロだけが置いてあり、それがかなり暴力的になっていることを問題提起したかったのです」

 気になる第2号の責任編集長は作家の山内マリコさんと柚木麻子さんで、テーマは「We?Love 田嶋陽子!」。今年秋に発売するという。

まつおあきこ/1977年、長崎県生まれ。編集プロダクションを経て、河出書房新社に編集者として15年間勤務したのち、2018年に独立。フェミニズムにかかわる書籍を手掛ける出版社「エトセトラブックス」を設立。2019年5月、フェミマガジン「エトセトラ」を創刊。

(松尾 亜紀子/週刊文春 2019年8月1日号)

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