「ネットで共感される人ばかり書くのは抵抗がある」??脚本家・岡田惠和が語るドラマづくり

「ネットで共感される人ばかり書くのは抵抗がある」??脚本家・岡田惠和が語るドラマづくり

岡田惠和さん

「最後から二番目の恋」や連続テレビ小説「ひよっこ」など、数々の話題のドラマを生み続けている脚本家の岡田惠和さん。最新作、WOWOW の「連続ドラマW そして、生きる」は、有村架純と坂口健太郎が主演のヒューマンドラマ。東日本大震災の気仙沼でのボランティア活動をきっかけに、交差する男女。人生のままならなさをリアルに、深く切り込んだ意欲作である。最新作の話を中心に、ドラマ作りについて語ってもらった。

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■「震災とはずっと距離を置いていました」

――「連続ドラマW そして、生きる」は、何を描きたいとまず思われたのですか?

岡田 僕はいつもテーマからは入りませんが、有村架純さんとは何作もご一緒しているので、一段深いところを描いてみたいという思いがまずありました。そこから、有村さんと坂口健太郎くんで人間ドラマを書きたいと思い、彼らがどんな経験をした世代なのかを年表を作って調べてみたところ、一番繊細な時期に震災が起きていた。そこで、大人になる手前、どう生きていくかを考える時期にボランティアとして集い、濃密な時間を共に過ごした二人の出会いを書いてみたいと思ったんです。

――実際に震災ボランティアの方を取材したのですか?

岡田 次男が大学生のときに東北にボランティアに行っていたんです。取材元はそこですね。

――映画『いちごの唄』にも震災が少し登場しますが、いま書いておきたいというお気持ちがあったのでしょうか。

岡田 僕は登場人物の気持ちになって書くタイプなので、震災は、自分のドラマで扱えるようなものではないとずっと距離を置いていました。でも、皆の共通体験としてあった出来事ですし、逃げない方がいいだろうと思うようになりました。そこで、被災者ではなく、距離のあるスタンスならば書けるかもしれないと、震災に初めて触れたのが『いちごの唄』です。がっつり書いたのは今作が最初で最後じゃないかと思います。そのくらい繊細に向き合いたいと決めていました。

――ボランティアの現場に限らず、今回の物語は厳しい現実に切り込んでいらっしゃいますね。

岡田 世界はそんなに美しいことばかりではない。美しい行いも、ともすると悪くとられることがあり得るのが現実です。そういう要素は取り入れようと企画段階から考えていました。ただ、厳しい場面は、書いていても辛かったですね。

――「最後から二番目の恋」を筆頭に、会話の面白さは岡田さんの脚本の魅力の一つ。ご自身でも、会話を書くのは好きと語っていらっしゃいますが、今作は言葉以外で表現する場面が多くあります。

岡田 WOWOWは、「ながら見」ではなく、映画の視聴に近いというか、その番組を積極的に選んでじっくり観てくださる方が多いと思うので、作り手としては密度を込めたい。なので、俳優さんたちのお芝居を信じ、言葉の裏側の気持ちを込めて書いていました。極論ですが、朝ドラなどは、朝の8時にじっくり座ってテレビを観られない方が多いので、ながら見を想定して書いています。もともとラジオドラマから始まったという伝統もありますしね。

■「50代後半〜60代のシナリオライターはツイている」

――いまは、ドラマをスマートフォンやタブレットで観る人も増えています。90年代からドラマを書いていらして、書く上で視聴環境の変化は意識されますか?

岡田 僕がドラマを書き始めたころに比べると、視聴者が「待ってくれない」感じはありますね。◯曜日◯時の放送を心待ちにする、という感覚ではない。いまや全番組を録画できますし、オンデマンドもあり、番組を見逃すことがなくなりました。2000年代になって、アメリカや韓国のドラマが入ってきて、まとめて観る気持ち良さを皆が知ってしまったという影響もあると思います。ただ、ラッキーなことに、僕はもともと展開を次週まで引っ張る構成のドラマを書いてこなかった (笑)。なので、時代に合わせて、書き方を変えなければいけないということはなかったですね。

――なるほど。

岡田 僕の世代、50代後半〜60代のシナリオライターはツイていると思います。デビューした30歳くらいのころは、視聴者と親和性がありました。若い人が観るドラマは人気が出たし、脚本家が視聴者の代弁者でいられました。やがてベテランになると視聴者と乖離しはじめて、「オワコン」と言われるものなんですが(笑)、日本の人口分布上、僕らが年をとるのと同時に想定視聴者の年齢も上がっていった。いまのテレビは、年配の人に向けて作らないと視聴率がとれません。50歳を過ぎて、「最後から二番目の恋」のようなことができたというのは幸運でしたね。プロ野球のピッチャーで言うと、中3日でずっと投げ続けている。抑えや中継ぎに行かなくて済んでいるのはありがたいことですよね。

■「エゴサーチ、大抵していると思いますよ(笑)」

――ネットやSNSの普及が、ドラマ作りに影響することはありますか?

岡田 意識して変えていく部分と抵抗する部分があるかもしれません。SNSを見ると、すごく倫理的で、正しい人が支持される空気があります。でも、本来、ドラマや物語はそれだけではなかったはずです。フィクションだからこそ、間違った人も描けました。意識はしますが、そこに引きずられてネットで共感される人ばかり書いてしまうと、自分のドラマではなくなってしまうので、微妙な抵抗は示しています。「そして、生きる」も、けっして共感100%の選択を登場人物はしませんし、人生のリアルを追求する限り、そこはギリギリのせめぎ合いですね。

??SNSでエゴサーチ、作品の評判を調べることもあるのですか?

岡田 「しません」という人がいますけど、大抵していると思いますよ(笑)。「ひよっこ」を書いているとき、放送時間中の投稿が一番面白かったです。ここで引っかかるのか、こういうときイラっとするのか、など、視聴者の瞬時のリアルな反応を知ることができました。これまでのテレビ作りでは、味わえなかったこと。舞台の客席の反応のようなものですよね。

■ファンタジー路線と現実路線の2本柱を行き来

――昔は、視聴者の憧れの世界が描かれることの多かったテレビドラマですが、いまの視聴者にとってはどういうものなのでしょう?

岡田 難しいですね……。僕が脚本家になったころは、ドラマには「現実を忘れるもの」と「身につまされるもの」の2種類あると言われていました。僕は初めて連ドラを全部書いたのは1994年で、「南くんの恋人」でファンタジー的なものを描き、「若者のすべて」は現実路線を書きました。その2本の柱を行き来していれば、飽きずに書き続けられるだろうと思ったんです。当時は恋愛ドラマ全盛期だったので、そうじゃないポジションを2つ作ろう、と考えたんだと思います。北川悦吏子的でないものを(笑)。そこと勝負しても仕方ないので。

――いま放送中の「セミオトコ」も、現実を忘れるものですね?

岡田 はい。恋人が小さくなるとか、セミになるとか、現実にはあり得ないんだけど、その設定だからこそ描けることがあります。一方、「身につまされるもの」は、作家の人生観や世界観、人間観が問われます。放っておいても、主人公の生き方なりセリフに滲み出てきてしまう。僕は今年60歳になるんですが、「そして、生きる」は久々にガツンと、いま自分が思っていることの全てが出ている感じがします。

――岡田さんが脚本を書くときに一番大事にしていることは何ですか?

岡田 気をつけているのは、登場人物のなかに自分をいないように≠キるということです。僕自身が思っていることではなく、あくまで、登場人物たちの言葉や考えであること。自分をどこかに置いてしまうと、それと敵対するものが出てきてしまう。そういうバランスがあまり好きではないので、基本的に自分はいなくていいと思っています。

――フェアでいたいということですか?

岡田 はい。登場人物の全員に対してフェアでいたい。全員の気持ちをフェアに考えたいんです。今回のドラマでも、主人公に苦言を呈する人を嫌なふうに描くのは簡単なんですが、その人の言っていることも真っ当だと思えるふうにしたいんです。

――だから、岡田さんのドラマの登場人物は、皆、魅力的なんですね! どの人の立場もわかるので、応援したくなったり、やるせなくなったりします。

岡田 そうですね。実人生でも、苦手な人はいるけれど、悪党みたいな人のせいで自分の人生が台無しになったというような経験はありません。うまくいかなかったことは全部自分のせいだと思うので……。こんなことを言うのはちょっと恥ずかしいですが、彼ら(登場人物)は本当に生きていると思っているところがあります。できることなら、どのドラマも続きをやりたい。普通に生きていると、身近な人のことしかわからないし、体験できることも限られますが、知らない人の人生を見せられるのがドラマだと思います。人生に最終回はないように、そのまま彼らの人生が続いていくというような最終回が、僕は好きです。

――岡田さんのドラマに出てくる人々のことを時々ふと思い出します。「最後から二番目の恋」の千明は、「ひよっこ」のみね子は、いまごろどうしているかなとか(笑)。

岡田 それはとても嬉しいです!

写真:杉山拓也/文藝春秋

INFORMATION

「連続ドラマW そして、生きる」

8月4日(日)WOWOWプライムにて放送スタート(全6話)第一話無料放送。
毎週日曜夜10時
脚本:岡田惠和
監督:月川翔
出演:有村架純、坂口健太郎、知英、岡山天音、萩原聖人、光石研、南果歩 ほか
https://www.wowow.co.jp/dramaw/ikiru/

(黒瀬 朋子)

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