関西人も擁護できない。「こんな吉本は見たくなかった。笑われへんわ」がホンネ

関西人も擁護できない。「こんな吉本は見たくなかった。笑われへんわ」がホンネ

谷口真由美氏 ©Natsuki Yasuda

“半グレ”を見分ける作法「タトゥーを首にまでいれているカタギはいない」 から続く

 吉本興業所属のお笑い芸人たちが、反社会的勢力の会合に参加したことをきっかけに騒動の続く”闇営業”問題。「週刊文春デジタル」では7月28日まで4日間、 緊急アンケート を行った。

 その結果、「吉本興業は所属芸人と契約書を結ぶべきか」では、「結ぶべきだ」との回答が71.1%と、「結ぶべきではない」4.8%を大きく上回った。吉本興業の“お膝元”といえる関西地区(大阪、京都、兵庫、奈良、滋賀、和歌山)では「結ぶべきだ」が61.3%と、関西地区以外に比べて10ポイント以上に低かった。

 Facebook上で「全日本おばちゃん党」を立ち上げた法学者であり、また大阪で生まれ育った生粋の関西人である谷口真由美氏に、今回のアンケート結果の感想を聞いた。

■「そんなに勉強できへんなら吉本いけ!」

 今回の騒動は、誰が悪いとかそういう個人の問題ではありません。吉本興業が抱える、もっと大きな構造的問題です。

 今回のアンケートでは、関西在住の回答者に「吉本擁護」の傾向が見てとれますが、私が思っていたよりもその“吉本びいき”の傾向は少なかった。さすがの関西人も庇いきれなくなった、ということなのでしょう。関西人は、子供の頃から「そんなに勉強できへんなら吉本いけ!」と言われて育っているほど、吉本は身近な存在なのです。

 ところが、今回の騒動で、吉本興業という組織と世の中との間に大きなズレが生じていたことが見えてきてしまった。関西人からすれば、「こんな吉本は見たくなかった。笑われへんわ」というのが本音です。

■「夢を追いかけるためには文句をいえない」?

 象徴的なズレの一つが、社会情勢が変化したにもかかわらず、吉本が前近代的なシステムの中に留っているというズレです。一般社会からあまりに乖離した感覚であるのにもかかわらず、構造的に芸人にはギャラの分配の詳細などは知らされない。「直営業」をやらないと食べていけない若手がいる。それが維持されてしまっていることが問題です。

 直の営業を自分で見つけてこないと食べていけないという業態が、今の時代に即していたのか。コンプライアンスにガバナンス……そういった新しい常識と、一般社会が痛みを伴いながらみんな戦っているのに、芸人や役者の世界だけが、「夢を追いかけるためには文句をいえない」というところに留まっている。芸能界やマスコミの「意識」が鈍いのです。

 吉本と芸人が契約書を交わしていないことも話題ですが、報酬などのルールを共有しておくべきです。たとえば「あなたは入りたてで売り出すのにお金がかかるから、当面の間は事務所と君の取り分は5:5ね。でも、何年かたって売り出す事務所の経費が減れば3:7にします」などと、話し合っていればよかった。お金の流れは、責任の流れに他なりません。報酬の詳細が分からないと、やり甲斐を搾取することにもなりかねません。

■政治との距離が近すぎる

 もう一つの大きなズレは、吉本が抱えていたはずの「社会的責任」に対する認識のズレです。

 テレビに出ている芸人の数でみてもその影響力は明らかですし、いまや政治との距離も近い。あの新喜劇の舞台に安倍総理があがったり、会長が沖縄の米軍基地跡地利用に関する有識者懇談会の委員になっています。

 本来、政治と距離が近くなりすぎるのは、大阪の笑い文化からすれば危うい話です。笑いのエッジは風刺にあって、権力者のことをネタにして、庶民に「そうそう」と思わせるところにキモがあった。それが、吉本の中の“大御所”と呼ばれる人たちが権力を持っていき、むしろ風刺される対象になっていった。

 結局、今回の登場人物もみんな「おっさん」。男性社会の出来事なんです。世のおばちゃんたちは「何やこのおっさんたちは」とドッチラケという感想です。

 吉本の社長にしても、家長のつもりなのか、「ファミリー」という言葉もしばしば使います。でも実際は、そのファミリーに「入れてもらえない」と感じる人もいる。大金持ちもいるけど、食っていけない人もたくさんいる。こんなファミリー、児童虐待で、DVですよ。

 一連の騒動を吉本の原点である「新喜劇」として見るなら、どこにもオチもなければ、落とし所もない失敗作です。座長が人を切り捨てたり、冷酷なことばかり言っていたら、だれも新喜劇を見て笑ってくれません。

 新喜劇は、みんなが幸せなハッピーエンドで終わる人情ものです。勧善懲悪もありつつ、なんなら涙がポロッと溢れる……そんな落としどころを見つけられる人が、吉本の責任者になるべきです。

(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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