【ロッテ】次世代に伝えたい井口資仁のオンとオフの切り替えの早さ

【ロッテ】次世代に伝えたい井口資仁のオンとオフの切り替えの早さ

©梶原紀章

■疾風のごとく、球場を去る男

 オンとオフの切り替えがしっかり出来ている人に成功を収めている人が多いというのはビジネスの世界でも芸能界でもよく言われることである。もちろんプロ野球界も同じだ。千葉ロッテマリーンズでもっとも切り替えがしっかりとしているのは間違いなく井口資仁内野手だ。とにかくホームゲームの試合後は帰るのが早い。疾風のごとく、球場を去っていく。少し目を離すともうロッカールームにその姿はない。だから広報としては何か打ち合わせをしたい事項があるときは試合前に行ってしまうか、もしくは徹底マークをするというのが鉄則だ。それはマリーンズに移籍した09年から一貫している。

「帰るのが早い? そうだね。でもそれは若い頃からずっとだね。別にメジャーでそう感じて実践しているわけではないよ。ホークス時代から自分はそういうスタイルだった」

 てっきりアメリカンスタイルを導入しているのかと思い、その点を聞くと、意外にもそれ以前、はるか前からそうだったとの事。その姿勢は一貫しているようだ。どうしても選手は試合後に勝利の余韻に浸ったり、敗れれば、ずっとロッカールームで考え事をしてしまうことが多い。が、そこの切り替えが大事なのがプロ野球。ペナントレースは143試合の長丁場で、すぐに明日は訪れて試合が行われる。どんなに劇的なサヨナラ勝利をして嬉しくても、ショッキングな負けを喫して悔しくても、平常心で少しでも早く気持ちの転換が必要なのだ。

「そうだね。元々、あまり引きずるタイプではないけど、そういうメリハリは大事。球場にいてしまうと、どうしてもいろいろと考えてしまうし、負けているとなおさらグチグチと言ってしまう。そういう風に傷のなめ合いをしてしまうのは嫌だよね」

 どんなに劇的な一打を打っても試合後はシャワーをさっと浴びて、私服に着替え新たなる次の日へと向かう。逆に悔しい結果に終わっても、ため息をついてロッカーでボーッと天井を見上げているのではなく自宅に戻り美味しい食事をとったりテレビを見たりして明日に向けて気持ちを前に向かせる。プロ野球ではそのような精神がどうしても必要となってくる。

「打てなかったから、試合後に練習するというのはどうかなとも思う。試合が始まる前に最善の準備をして向かっているはずだから。結果に左右されて練習量やメニューを変えたりするのは違うような気がする。自分は朝、自宅にいる時から球場入りして試合に入る前ですべての準備を整える。だから試合後は帰るだけ」 

■「意味のない過ごし方はして欲しくない」

 もちろん試合後に気になってフォームチェックをすることもある。しかし、それは稀。基本的には悔いなきように試合前にすべての準備を完了している。特にこの選手の朝は早い。ナイターでも午前6時には起床しているのが通常。そこから治療したり、ウエイトトレーニングを行ったり自宅のパソコンでデータ分析をしたりしながら、球場入りまでの時間を濃密に過ごす。そして球場入りしてまた全体練習までしっかりと準備を繰り返す。だから試合後はどんな結果が出ても感情の変化でスケジュールを変更することはない。ユニフォームを脱ぎ、シャワーをさっと浴びて着替え、自宅に戻り、ゆっくりとした時間を過ごす。

「ほぼ1年間、ルーティンは一緒だね。やることをしっかりとやっているのならば問題はない。若い子はどうしても早く球場に来ないといけないとか、逆に先に帰るのはどうかということで球場にいる時間が長かったりするけど、意味のない過ごし方はして欲しくない」

 思えばマリーンズ移籍1年目の09年に劇的なサヨナラ満塁本塁打を放ったことがあった。この時もヒーローインタビューを終え、メディアの取材対応を終え、少しばかり時間が経つと、もう私服姿で駐車場に向かう廊下を颯爽と歩いていた。まだチームメートの誰もが劇的なサヨナラ勝利の余韻に浸り、ロッカールームでユニフォームを脱ぎながら談笑を繰り返している時にその中心人物は一人、スイッチを切り替え、明日に向かっていた。「お疲れ。また明日!」と言い残して球場を後にした背番号「6」。あの時の頼もしい背中が今も忘れられない。大きな仕事を一つ終え、次なる任務へと向かうプロフェッショナルな背中だった。私がオンとオフの切り替えの大切さを肌で感じ、男はこうあるべきだと悟った瞬間だ。

 そんな井口資仁内野手は今シーズン限りで現役を引退する。レジェンドプレーヤーのオンとオフの切り替えの素早さを目の前で見ることが出来る日々を貴重な体験として胸に刻み、今後の次なる世代へと伝えていきたい。

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/3640でHITボタンを押してください。

(梶原 紀章)

関連記事(外部サイト)