『だから私は推しました』脚本家・森下佳子が語る「地下アイドルの“危うさと美しさ”」

『だから私は推しました』脚本家・森下佳子が語る「地下アイドルの“危うさと美しさ”」

©文藝春秋

 現在、毎週土曜日に放送中のドラマ『だから私は推しました』(NHK)。「地下アイドルと出会い、オタク沼にハマったOL」を主人公に、コメディ、サスペンス、成長物語と、どのジャンルにも収まりきらない“予想外のストーリー”が話題を呼んでいる。脚本を手掛けるのは『JIN-仁-』『ごちそうさん』『おんな城主 直虎』など、これまで数々のヒット作を生み出してきた森下佳子さん。森下さんはなぜ、いま「地下アイドル」を描いたのか? 創作の裏側を聞いた。

(全3回の1回目/ #2 、 #3 へ続く)

◆◆◆

――ここまでの第1回、第2回と、まさに怒涛の展開ですね。

森下 そうですね。やっぱり1回につき30分、全8回しかないというくくりの中で、どうすれば効率よく色々なものを詰めていけるか、そこは考えて作っています。

――第1回のラスト、主人公の遠藤愛(桜井ユキ)が地下アイドルの栗本ハナ(白石聖)に心を動かされ、握手を交わす。この感動的なシーンで終わるかと思いきや、突如サスペンスの要素が登場し、ドラマの空気が一変しました。

■「推して、推して、推していった先には何がある?」

森下 そもそも脚本のオファーを受けたときは、なんだか生活に疲れて、生きづらさに直面してしまった女の子が地下アイドルにはまって変わる、そして地下アイドルのほうも変わっていく……という、基本的には青春の物語だったんです。そこから「じゃあ、どう変わっていくのか」を考えるんですが、何度か打ち合わせをしているうちに、「推して、推して、推していった先には何があるんだろう?」というテーマが出てきたんです。

――そこでサスペンスの要素が?

森下 スタッフさんもエネルギーのある若い方が多くて、前向きに色んなものを取り入れたい、と意欲的でもあるんです。だから今回は演出も編集もすごい凝ってるんですよ。

■第1回のラストで飛んでいた意外なセリフ

――個人的には、第1回でハナが前髪を切っているシーンにはグッときました。

森下 あそこ、良いですよね。でも、実はあのシーンを美しくまとめるために、私が書いたセリフが1つ飛んでるんですよ。

――えっ、どんなセリフだったんですか?

森下 1つギャグのセリフを入れていたんです(笑)。

――なるほど(笑)。

森下 でも、あのシーンはすごく良かったし、あそこで掴まれたという人も結構いるので、そのセリフは切って良かったんだなって思います(笑)。ドラマは演出によって決まる部分が大きいので、私も毎回「こう撮ってくるのか!」と楽しんで観ています。

■地下アイドルのライブにも参戦!

――今回のドラマは「地下アイドル」がテーマですが、脚本の執筆にあたって取材などはされたんでしょうか?

森下 はい。もともと地下アイドルについてはほとんど知識がなかったので、そこは取材しなければ、と。たとえば、NHKは『ねほりんぱほりん』(Eテレ)という番組で「地下アイドル」や「トップオタ」がテーマの回を放送していたんですが、それを参考にさせてもらったり、その時のスタッフさんにも追加で話を聞いたり。あとは、今回は監修に姫乃たまさんという、元地下アイドルの方が入っているんです。すごく頭の良い方なんですが、彼女にも話を聞いたりしました。もちろん私だけじゃなく、スタッフさんもかなり取材してくれて。

――実際に地下アイドルのライブにも足を運ばれたんでしょうか?

森下 何度か行きました。ただ、そのグループのファンではないので、ただただ足が痛くて(笑)。

――立ちっぱなしで(笑)。

森下 一方でファンの方たちは、私よりも年上の人もいらっしゃったんですが、みなさんすごく楽しんでいて。ライブが終わったら並んで“推し”と写真を撮って、仲間とワイワイ喋って、という。なるほど、愛があれば疲れないんだ、と思いました。女性ファンもたくさんいましたね。

■女性が女性を“推す”ということ

――そもそも今回のドラマで「女ヲタ」を描くことにしたのはなぜなんでしょうか?

森下 このドラマの企画を立てたプロデューサーが20代の女性で、彼女もアイドル好きなんです。それで、いまは女の子のファンも多いですよ、ということで。

――主人公の愛は、ハナを「分身」「もう1人の自分」と表現しています。ファンとアイドル、この2人を同性同士にすることで、恋愛感情とは違う“推し”のあり方を描こうとされているように感じました。

森下 女の子が女の子に憧れる、というのは、わりと普通にあることだと思うんです。たとえば安室ちゃんに憧れるとか、浜崎あゆみさんに憧れるとか、今だったら乃木坂46の白石麻衣さんとか西野七瀬さんとか。もっと小さい子だったらプリキュアが人気ですよね。圧倒的なかわいさであり、圧倒的なカリスマ性であり……。

――キラキラしたものに憧れる。

森下 憧れ方には色々あると思います。「自分が持っていないものを彼女は持っている」という憧れや、同性の場合は「ああいう風になりたい」という憧れも強いのではないでしょうか。色々真似したり、参考にしたり。ただ、自分と対象は似ている場合も真逆の場合もあって、その辺はケースバイケースかな、と。

■「私が推さなきゃ」という育てゲーの要素も

――愛がハナにはまっていくのも、そうした憧れがあるということでしょうか?

森下 地下アイドルを応援する気持ちというのは、そこにプラスして「私が推さなきゃ」という育てゲーのようなところもあるのかなぁ、と思います。とはいえ、これはなにも女の子同士に限った話ではないかもしれないですね。

――そうした心理的な距離感の近さが地下アイドルの特徴だと思うのですが、第2回ではその危うさにも正面から踏み込まれています。特にストーカーについては現実でも大きな問題になっていますが、こうした部分を描く際にはどんなことを意識されたんでしょうか?

森下 アイドルとファンの距離感というのは本当に難しい問題で、まず前提として思ったのは「現実にこの問題と戦っている人がいる。そうした人を馬鹿にするような描き方は絶対にしたくない」ということでした。その上で、実際こうなったときに寄り添える、できる範疇はどこまでだろうと。

――ドラマの中で、愛はハナから瓜田勝(笠原秀幸)の話を聞きますが、最初は「面倒くさいことに足突っ込んじゃった」と、距離を置こうとしたのが印象的でした。

■主人公にはあなたでも私でもあり得る存在でいてほしい

森下 愛という人間には、あなたでも私でもあり得る存在でいてほしいんです。そう考えたときに、やっぱり自分がストーカーまがいの問題に関わるというのは、端的に言ってすごく怖いんですよ。どうしていいかもわからない。ハナちゃんがこれだけ困っていると聞いてしまったら、なんとかしてあげたいけど、ああ、でも正直なんで聞いちゃったんだろう……という気持ちが出てくるのも、リアルなところだと思います。

――確かにあそこで「私が解決してあげる」と言ってしまっては、嘘っぽくなりますよね。

森下 嘘っぽいし、たぶんそんなことはできないですよね。実はここはスタッフ含め、みんなでかなり考えたんです。たとえば法的な手段もとれなくはないけど、それで逆上されてしまったら危ない。やっぱり24時間、誰かがついていてくれるわけではないので。だから相手を突っつくというのは、結構怖いことだな、と。そんな風に「愛ちゃんにできることはなんだろう?」と考えていった結果、あのようなシーンになりました。

――瓜田がハナのチェキ券を買い占めていて、それに対してハナが「瓜田さんに養われているような状態」と表現していましたが、あのような描写も取材をもとに書かれたんでしょうか?

森下 そうですね。取材で聞いた話をちりばめています。実際はチェキ券からのキックバックだけで生活するのは難しくて、バイトもしなきゃいけないとは思いますが。ただ、ギャラが物販に結びついているというのは、特に地下アイドルでは多いようです。そのパーセンテージに関しては、さまざま問題になっているところかと思います。酷いところでは、ライブを発表会か何かと勘違いしているのか、運営側がちゃんとギャラを払わないところもあるみたいです。

■地下アイドルとファンの関係を象徴する「握手」

――やりがい搾取の構造ですね。そうした問題も抱えつつ、ひとたびステージに立てばファンになるべく近づいて、同時に適度な距離感も保たなければいけない。

森下 その象徴が「握手」ですよね。ただ、握手というのも、地下アイドルにとってはすでに存在している仕事で、単純に「危ないからなくせばいい」というものではないと思います。

――一方で、第1回も第2回も、ラストで愛とハナが握手をして終わりますよね。あれは1対1の、等身大の関係での握手という感じがして、観ていてじんときました。

森下 本来、握手というのは美しいものだし、誰かを推すというのも美しい行為だと思うんです。ただ、そこに別のもの、応援するという気持ち以外のものがくっついてきたときに、おかしなことになってしまう。今回、「地下アイドル」を描くにあたっては、ここの難しさとも向き合わなければいけないな、と感じました。

写真=末永裕樹/文藝春秋

森下佳子(もりした・よしこ)
1971年大阪生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。2000年『平成夫婦茶碗』(日本テレビ)で脚本家デビュー。『世界の中心で、愛を叫ぶ』『白夜行』『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』(以上、TBS)など、話題作を多数手掛ける。2013年度下半期に放送された朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』で、第32回向田邦子賞と第22回橋田賞を受賞。2017年には大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)の脚本も手掛けた。

「ドラマファンがオタクと呼ばれる時代が来る」“朝ドラ脚本家”森下佳子を突き動かす危機感 へ続く

(「文春オンライン」編集部)

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