八村塁のNBAドラフト9位指名は何が凄い? これだけは知っておきたい3つのポイント――2019上半期BEST5

八村塁のNBAドラフト9位指名は何が凄い? これだけは知っておきたい3つのポイント――2019上半期BEST5

八村塁の入団会見 ©AFLO

2019年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ部門の第4位は、こちら!(初公開日 2019年6月26日)。

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「世界でもっとも多くの人にプレーされているスポーツ」を皆さんは御存知だろうか?国際バスケットボール連盟(FIBA)が発表する競技人口は、男女合わせて4億5千万人。これはサッカーさえも凌ぐ人数だ。

 バスケはアメリカ発祥のスポーツだが広がりは全世界。Bリーグでプレーする外国籍選手の前所属クラブを見ると北米はもちろんヨーロッパ、南米、中近東と全世界に散らばっている。アジアの近隣諸国でも中国や韓国、フィリピンの人気は率直に言って日本よりも高い。

 NBAの総チーム数は「30」で、1チームのロースターは15名以内と決まっている。世界中にあるプロリーグの中でも、レベルと経営規模は別格中の別格だ。

 富山県出身の青年が、そんな異次元の領域に足を踏み入れる。6月20日(現地時間)に行われたドラフト会議で、八村塁がワシントン・ウィザーズから全体9位の指名を受けた。

 難関にチャレンジし、壁を乗り越えて全体9位の高評価を受ける――。それは控えめに言っても快挙だ。「凄いぞ」といきなり絶叫したいところだが、今回は理由を大きく3つに絞り、客観的にその凄さを説明したい。

■指名されるのは60名……「倍率」が凄い

 1つ目の理由は「倍率」だ。NBAは億単位の競技人口から選び抜かれた450人が集うリーグ。にもかかわらずドラフトの指名は1チーム2名までで、そこに入るのは合計60名しかいない。

 2018-19シーズンは42カ国、108名に及ぶ外国出身者がいた。裏返せば残りはアメリカ出身だ。日本人では過去に田臥勇太(現栃木ブレックス)、渡邊雄太(現メンフィス・グリズリーズ)の2人がNBAのコートに立っているものの、いずれもドラフト外だった。

 NBAドラフトの対象は全世界で、昨年はレアル・マドリーでプレーしていたスロベニア人のルカ・ドンチッチが全体3位の指名を受けた。彼は2018-19シーズンの新人王を獲得している。

 日本人では過去に230センチのビッグマン・岡山恭崇氏も、1981年にゴールデンステート・ウォリアーズから指名を受けている。ただし当時は10巡目まで指名が可能で、岡山選手の指名順位は全体171位だった。1984年にはシカゴ・ブルズが、陸上の金メダリストであるカール・ルイスを全体208位で指名している。今はお遊びの要素も完全に消え、ドラフトの濃さが上がった。しかも八村は「60名中9番」の高評価だ。

 アジアの人口は約45億人。ただし2018-19シーズンのNBA でプレーしたアジア生まれの選手は渡邊(15試合)と周g(ヒューストン・ロケッツ/1試合)の2名しかいない。

 アジアの先駆者としては2000年代に活躍した中国出身の超大型センター姚明が有名だ。一方の八村は204センチ・108キロというNBAの「標準体型」だし、ポジションもパワーフォワードかスモールフォワード。動きの鋭さ、速攻の先頭を走る走力、ミドルシュートの正確性といった総合力が評価されている。

■アメリカで3シーズン……「渡米からの速さ」が凄い

 八村の凄さを物語る2つ目のポイントは「渡米からの速さ」だ。彼はゴンザガ大3年のシーズンを終えた段階で、ドラフトにエントリーをしている。これも日本人選手としては異例のスピードと言える。

 NBAドラフトにエントリーできるのは19歳から。アメリカの高校を出た選手は卒業から最低1年経過していなければ資格を得られない。ただし逸材は最短コースでエントリーする「ワン・アンド・ダン」を活用している。今回の全体1位だったザイオン・ウィリアムソンも、デューク大でのプレーは1シーズンだけだった。

 NCAAは大学スポーツの統括団体で、特にバスケはNBA以外のプロリーグを凌ぐレベルと人気を誇っている。アマチュアではあるがスカウトされ、奨学金などで特別扱いをされた選手たちがプレーするカテゴリーだ。日本人選手にとっては学業も含めてNCAA入りがまず難関となる。日本代表の富樫勇樹(現千葉ジェッツ)はアメリカの高校を卒業し「言葉の壁」がなかった。しかし希望した大学からのオファーを得られず、帰国せざるを得なかった。

 日本人がNCAAに進もうとする場合はまず、プレップスクールと言われる「大学進学のための準備校」に入るケースが大半だ。英語が母国語でない限り適応の時間は必要だろう。また現地で実際のプレーを見てもらえれば、大学のオファーも得やすい。

 渡邊は2013年3月に高校を卒業した後、同年の9月からセント・トーマス・モア・スクールに通い、1シーズンプレーした。ジョージ・ワシントン大でも4年間プレーしたため、高卒から5年半後のプロ入りだった。

 しかし八村は明成高を卒業して半年後には、ゴンザガ大のユニフォームを着ている。2014年のU-17世界選手権では得点王に輝いており、スカウトの網に早くからかかっていた。

 日本のスタンダードは高校を卒業したらすぐ大学に入り、4年で次のステップに進むルートだ。しかしアメリカは高卒から1年でNBA入りする特別な逸材もいるし、5年6年とかけてじっくり次のステップに移る選手もいる。

 例えば「レッドシャツ」と呼ばれる仕組みがある。5年間以上の在学を前提に、1年目はチームで練習を積みつつ登録せず、残りの4年間に備える方法だ。八村もレッドシャツを勧められたと聞くが、彼はそれを断った。そして誰もが驚く成長を見せ、1年目からプレータイムを得て経験を積み、2年目はもう全米的な注目株になっていた。

 八村は日本でいう大学4年世代で、2月8日生まれ。アメリカの学校は9月が新学期だが、早生まれの彼はズレの影響を受けていない。10月の開幕を満21歳の若さで迎えることができる。

■年俸約4億円……「お金」が凄い

 ここまで説明すれば凄さは伝わったと思うが、3つ目のポイントとして「お金」に触れよう。NBAはサラリーキャップ(年俸総額制限)があるため、有力選手の突出が抑えられている。にもかかわらずステフィン・カリー、レブロン・ジェームズと言った大物選手の年俸は40億円前後。全選手の平均が7億円程度とされる。

 新人選手の年俸額も「ルーキースケール」と称する順位ごとの基準がある。2019-20シーズンのドラフト9位は371万9500ドル(4億円)だ。変動幅もこの額の80〜120%に設定されており、大きく値切られる懸念はない。

 Bリーグでは先日、富樫の基本報酬1億円超えが発表され、大きく報道された。しかし八村は新人ながらそれを大きく超えることになる。

(大島 和人)

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