箱根駅伝、勝負を決めたのは東海大8区“三上の給水”だった――箱根駅伝2019「TVに映らなかった名場面」復路編――2019上半期BEST5

箱根駅伝、勝負を決めたのは東海大8区“三上の給水”だった――箱根駅伝2019「TVに映らなかった名場面」復路編――2019上半期BEST5

なぜか文春オンラインに何度か登場している中央・舟津

2019年上半期(1月〜6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ部門の第2位は、こちら!(初公開日 2019年1月5日)。

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 終盤まで混戦となり、東海大学の初優勝で幕を閉じた今年の箱根駅伝。駅伝大好き集団EKIDEN News( @EKIDEN_News )の西本武司さん、駅伝マニアさん、ポールさん、そして特別ゲストとして昨年まで東海大学の陸上競技部で主務を務めた西川雄一朗さんが、裏の裏まで語り尽くした。(全2回 「 往路 編 」も公開中)

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■【6区】東洋・今西は青学・小野田を意識する

西本 復路がスタートする1月3日の早朝6時半、我々は芦ノ湖にいました。この日の芦ノ湖の朝は霧が発生して、とても幻想的な雰囲気だったんです。

マニア みんなで見とれていたら、後ろから東海大学の両角速監督が「おはよ〜。きれいだね」と話しかけてきて、スマホで写真を取り始めたんです。すごくリラックスした雰囲気で、余裕がありました。一方、青学の原晋監督は、大型ビジョンで天気や気温を細かくチェックするなど、神経質になっていて。対照的な両監督の表情を見て、東海大ひょっとして、という予感はありましたね。

青学原監督は主務と
ビジョンの前で足を止め
じっくりコースを見た後、
「よし」と監督車に向かった。 #箱根駅伝 pic.twitter.com/M7NZkTyGvR

? EKIDEN News (@EKIDEN_News) 2019年1月2日

西本 僕が6区で注目していたのは、中央大学の舟津彰馬選手。2016年に1年生で主将になり、予選会通過が叶わず涙でスピーチをした選手といえば、覚えている人も多いのではないでしょうか。2年生で1区を走りましたが、今年は6区、最終学年となる来年はどこを走るのか、今から気になりますね。

ポール 6区は青学の小野田勇次選手が爆発しましたね。57分57秒の区間新。山下りの強さはダントツじゃないですか?

西本 昨年、36秒差を逆転された東洋大の今西俊介選手が言った「人間じゃねぇ」は、駅伝ファンの間でおなじみのフレーズになりました。今回、今西はスタート前、レースシューズに履き替えている時から、小野田をじっと見つめるなどかなり意識してました。

今西は小野田をじっと見ながら
靴ひもを結んだ。 #箱根駅伝 pic.twitter.com/dIhG47YE6y

? EKIDEN News (@EKIDEN_News) 2019年1月2日

マニア 6区スタート直後の左折で、歩道に突っ込む勢いで大回りするほどスピードが出ていたのは、彼の気合いの表れでしょうね。

西川 東海大が6区の中島怜利はいい起用でした。前の東洋大学までは1分ちょっとの差で、このくらいだと前の選手がかろうじて見えるポイントがあるんですよ。中島と、7区の阪口竜平は相手の姿が見えるとガツガツするタイプなので、この2人の6区、7区投入はハマりましたね。

■【7区】青学・林の快走と東海・阪口の猛追

ポール やっぱり2年連続で区間賞を出した青学大の林奎介はすごいですよ。4区を走った東洋大の相澤晃選手もそうですが、彼も馬のような走りでした。いい意味で馬。

西本 東海大学の阪口選手はここでトップの東洋に4秒差まで詰めた。

西川 箱根駅伝のメンバー選考に重要な意味を持つ11月の上尾シティハーフでは、スタート前に珍しく弱気だったんですけど、両角監督から「前で行け」って言われて、いいタイムを出したんです。実際、阪口は調子に乗せると力を発揮するタイプで。だからスタート直前に「この区間、おいしくない?」ってメッセージを送っておきました。そうしたら「おいしいですね」って(笑)。

西本 ちなみに阪口選手は三大駅伝デビューの出雲駅伝で撮った西川くんとのツーショット写真すごく大事にしてるよね。

西川 なんなんでしょうね(笑)。

■【8区】東海・三上の給水が勝負を決めた!?

西本 ついに東海大がトップに立ったのが8区です。

西川 8区の小松陽平は練習ではめっちゃ強いんだけど、本番では練習ほどの結果を出せない“練習番長”のイメージが強かったんですよ。昨年の箱根は高田凛太郎と争って、結局出場できませんでした。ところが12月の日体大記録会でチーム3番目ぐらいの記録を出して、急遽合宿に連れて行かれたんです。それでも箱根で結果を出すイメージは持てなかったのですが、今回こんなに走れるやつだったのかと、本当に驚きました。小松が遊行寺の登りを走るなんて、考えただけでも怖かったですもん。

西本 普通に考えたら他の大学は、東海大のMJこと、松尾淳之介がきたほうが怖かったでしょうね。

西川 そうですね。でも映像で見るとすっごい強気な顔してるんですよね、視線もブレてないし、ゾーンに入ったような表情で。そして15km地点がポイントでした。昨年の出雲駅伝でMVPを取り、今回故障で走れなかった三上嵩斗選手が給水をするんです。

西本 “三上水”ですね。これは全駅伝ファンが涙するシーン。実際、小松選手も“三上水”を飲んだ瞬間、グンと後ろを引き離してました。ここで勝負が決まったといっても過言ではありません。この時点ではすでに「GO東海」が駅伝ファンに浸透して、現地でも実感できるようになりましたね。

西川 そうですね。東海大が来るときは見やすい場所を譲ってくれたり、写真を求められたり。ただのダンボールだったのですが、選手たちのサインも入ってかなり進化しました。

ポール 8区マニアの僕としては今大会3つ目の“レジェンド記録”更新の話もしたいですね。21年間と最も長く破られなかった区間記録ですから! 僕は前々から記録更新の条件として、チーム力、暑さへの対応、コンディション、レース展開の4つを挙げていました。それに今回の小松選手の記録更新を照らし合わせると、まず東海大はチームとして層の厚さがある。また、今回陽射しはあっても、そこまでの暑さは感じなかった。レースコンディションも無風でバッチリ。そしてレース展開。東洋と競り合っていて普通ならあそこで仕掛けなくてもいいのですが、最終的な相手は後ろにいる青学だったんですよね。そのため早めに仕掛ける雰囲気があってそれが記録にもつながったんじゃないかと。

■【9区】“しゃべらない男”東海・湊谷の主将らしい走り

西本 湊谷春紀選手は入学時は世代トップ、その後目立たない時期もありましたがようやく主将らしい走りをしました。

西川 1年のときに出雲駅伝で3区を任され、全日本でも好走したんです。ところが1年の箱根1区で撃沈して。そこからは故障があったりとかして2年目は箱根を走れなかった。今年は出雲を走れず、全日本には間に合いましたが、青学の森田選手に差を広げられて落ち込んでいたんですよね。でも今回、最後の箱根は区間2位。秋田出身で修行僧みたいにしゃべらない男です。でも、主将らしいしっかりした走りをしたなと、嬉しかったですね。

■【10区】東海大優勝の影に、走らなかった三上あり

西本 ここまで来ると東海応援ムード一色。大手町では西川くん&「GO東海」ボードと一緒に記念写真を撮りたいという駅伝ファンが列を作るほど大人気でした。Twitterの投稿から広まったのですが、今や箱根駅伝はテレビだけで見るものではなく、Twitterもセットなんだということをあらためて実感しましたね。そして東海大のゴールテープを切ったのは郡司陽大選手。三兄弟の末っ子で、長男の貴大選手は駒澤大学から小森コーポレーションへ、次男の真大さんは関東学院大陸上部だったという陸上一家。郡司選手といえば“郡司豚”のこともセットで知ってもらいたい。

西川 郡司の実家は養豚場で、“郡司豚”というブランド豚を育ててるんです。

西本 この郡司豚のポークジャーキーがめちゃくちゃうまいんですよ。高根沢ハーフの帰りに寄る「二郎ラーメン」はこの郡司豚を使っているそうで、こちらもめちゃくちゃうまい。

西川 郡司の首元に注目してください。赤と黒、2つのネックレスをつけているんですけど、黒いネックレスは三上のものを借りたそうです(笑)。ちなみに3区の西川雄一朗がつけていたサングラスも三上のです。

西本 8区の“三上水”といい、三上選手のパワーすごいな。東海大の箱根初優勝は、「走らなかった三上」と「GO東海」ボートが後押ししたのは間違いないですね。三上選手の伏線は実は12月10日までさかのぼります。12月10日のチームエントリー時の記者会見では、各大学のマネージャーがスピーチをするのが恒例なんです。各大学の主務が淡々と10000mの平均タイムとチームスローガンを発表して終わるなか、東海大学木村駅伝主務のスピーチだけはすごかった。こういうこともあろうかと、ここに書き起こしておきました( https://note.mu/ekiden_news/n/n3efaf7476861 )。

「どうやったら俺たち勝てるんだろうか? そんなんでいいのかよ! また負けちゃうよ! なんのために陸上やってんの!」

 この言葉こそが、三上選手が出雲駅伝で惨敗した後にチームミーティングで発した言葉だったんです。三上選手の言葉がチームを変えたと。木村主務とは「この言葉が三上選手のものだったことは箱根で勝ったら発表できるね」と約束してただけに、このことをようやく発表できます。EKIDEN Newsが選ぶ箱根駅伝MVPは、木村主務と三上選手の絆。これに尽きるかと。

マニア 今回の箱根は最後まで手に汗握る展開で、とにかく「駅伝を見たな」と。充実度がすごかったです。来年彼らがどんな走りをするのか、またここから1年追い続けないといけないですね。

(「 往路 編 」もお楽しみください)

写真/西本武司、駅伝マニア(EKIDEN News) 構成/モオ

(EKIDEN News)

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