R‐40本屋さん大賞〈ノンフィクション〉ーーベテラン書店員さんたちのイチ押し本! 

R‐40本屋さん大賞〈ノンフィクション〉ーーベテラン書店員さんたちのイチ押し本! 

©文藝春秋

「面白い本」を見つけ、日々全国各地の読者に届けている熟練目利き書店員の皆さん。彼らがお薦めする今年の1冊(2016年6月〜2017年5月)はこれだ! 話題作や掘り出し本が続々登場。夏休みのお供を選ぶ最高のガイド、〈小説〉につづく〈ノンフィクション〉!

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〈ノンフィクション〉

1.『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子 著)小学館

2.『最後の秘境 東京藝大』(二宮敦人 著)新潮社

3.『応仁の乱』(呉座勇一 著)中公新書

4.『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ 著/柴田裕之 訳)河出書房新社

5.『魂でもいいから、そばにいて』(奥野修司 著)新潮社

■1.九十歳。何がめでたい 

「卒寿? ナニがめでてえ!」と獅子吼(ししく)する愛子先生は九十歳を過ぎてますます元気です。蔓延(はびこ)るスマホに腹を立て、新聞の人生相談に首を傾げ、不用品買取業者がやってきては押問答。抱腹絶倒の名エッセイ。

○R-40ここがおすすめ!

「長き人生に裏打ちされた、正に達観は、後輩にとってはただ、ははーっと聞くしかない」(ヴィダウェイBOOKチーム・黄木宣夫)

「とにかく面白い。人生いろいろあるのですね」(戸田書店長岡店・松田幸恵)

「歯に衣着せぬ物言いが痛快。本書を読んで精神力を磨きましょう」(成田本店しんまち店・長谷川達雄)

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著者・佐藤愛子
本音を言えば、「本が売れて、何がめでたい」(笑)
※ノンフィクション部門第1位 2017年上半期ベストセラー1位(日販調べ)

 せっかく選んでくださったお気持ちに、水を浴びせかけるようなことはしたくないんだけれど、私はアタマにバカがつく正直な人間でね。本音を言えば「本が売れて、何がめでたい」(笑)。どう思うかと問われても、「買った人に聞いてくれ」と答えるしかないんですよ。

 私は長く本の売れない作家でしたから、これは天変地異のようなもの。だけど世間の常識としては、勲章をもらったり、本がベストセラーになったりすれば、やれめでたいことだと誰もが思うわけでしょう。そういう人たちと歩調を合わせて会話をするのは、とっても辛いことなんですよ(笑)。

 あまりにエッセイのことばかり言われるので、小説も同じくらい売れてくれたら……とは、思わないでもありません。3年前に出した『晩鐘』は、とにかく私の作家生活の総ざらえという意気込みで書きましたのでね。一方、『九十歳。何がめでたい』は茶の間でのお喋りみたいな気持ちで、鼻歌を歌うように書いたわけだから、そちらが多くの人に読んでもらえたというのは、あんまり一生懸命に書くより、鼻歌ふうに書くほうがいいんだなと(笑)。作家生活60年にしてようやくわかりました。

 小説を書く時は、本当に一生懸命に書くんですよ。いつも枕元にエンピツとメモ帳を置いて寝て、ひょいと眠りが浅くなった時にふーっと浮かんできたことをすぐに書く。ある日、神津カンナさんの車に同乗している時に、ふと『晩鐘』の昨日書いた文章、あれはダメだ、と思いついて、すらすらと代わりの言葉が出てきたんです。ところがハンドバッグには書くものが何もない。歳を取っているとすぐ忘れるものでね、頭に浮かんだ文章を一生懸命くり返して、目的地につくなり、「カンナさん、何か書くものない? 書くもの書くもの、紙と鉛筆!」って(笑)。

 ……ただね、懸命に書いたからって、小説をどうしても読んでほしいということでもないんです。私はただ書くのが楽しくて書いてきただけで、売るために書いてるんじゃないし、読者のためでもないんですよ。書くことそのものに意味がある。ユーモラスに書いたとしても、それは読者を笑わせたいからではない。自分が面白いから書くんです。書くことが私の生きることなのでね。そのあと売れようが売れまいが、本当はどっちだっていい。そう才能がある方じゃないから、次々に構想が湧いて来るというわけでもないし、自分の言いたいことを十分に書けた、と思う時は気分が昂揚して幸福を感じる。書くことは楽しいけれど、同時に苦しいことでもあるんです。「たの苦しい」というかね。だいたい生きるってことがたの苦しいことですからね。私はたの苦しく生きてきた。それだけのことです。

■2.最後の秘境 東京藝大

 画壇、楽壇、デザイン界。芸術界に人材を輩出する最高峰の学府・東京藝術大学。現役学生である妻に誘われるように、知られざる「秘境」に足を踏み入れた著者が見たものとは。

○R-40ここがおすすめ!

「いとこが藝大生でした。変わった事をしているなと思っていましたが、本書を読んで改めて納得」(旭屋書店イオンモール浦和美園店店長・山田明人)

「一つまみの人間が作家として生き残れるという過酷な現実。単純に『夢』などという言葉では語りつくせない表現者の『業』」(ブックスルーエ・茂瀬野滋)

■3.応仁の乱

 室町後期、11年の長きに亘って繰り広げられた内戦は、用語の知名度にもかかわらずその内実はほとんど知られていない。『一揆の原理』で注目を集めた歴史学者が、複雑極まる大乱の構造と史的意義を問う。

○R-40ここがおすすめ!

「歴史の新書は同じ人にお買い上げ頂いているという印象でしたが、この本に関しては読者層がまんべんなくてありがたい」(星野書店近鉄パッセ店・柘植和紀)

「戦の前夜からその後までをより立体的に理解できるのは間違いない。歴史書として手元に置きたい1冊」(ジュンク堂書店新潟店・小松薫)

■4.サピエンス全史 上・下

 なぜホモ・サピエンスだけが繁栄したのか? この壮大な問いへの解答を求め、現生人類数百万年の歴史を振り返る。社会史、政治史、経済史を縦横無尽に総覧し、現代の人類が直面する未来の文明の姿を予言する。

○R-40ここがおすすめ!

「優れている者が栄えるのではないことに気付くだけで、違う世界が見えてくる」(ジュンク堂書店三宮店・朝野道則)

「知は塗り替えられるもので、人類の歴史を捉え直すことに成功した本書は、過去だけではなく、未来へとつながる名著として読み継がれることだろう」(萬松堂・中山英)

■5.魂でもいいから、そばにいて

 3・11の被災地に足を運び続けるノンフィクション作家は、愛する人を失った人々の話に耳を傾ける。喪失感に打ちひしがれる人のもとに現れた今はなきあの人は何を語り何を残すのか。奇跡の秘話が明かされる。

○R-40ここがおすすめ!

「不可思議な体験をした人にとっては紛れもない事実。ただそれだけでいい」(丸善日本橋店・松橋由紀子)

「震災で多くの方が遭遇した霊体験を好奇心でもいいから読んで欲しい。ここには人間の根源的なものが刻まれている。それにただ揺さぶられる」(丸善ラゾーナ川崎店・小川英則)

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○R-40 こちらもぜひ!

 ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活』「植物を目にしない1日はないと思います。この本を読むと生活はより充実します」(西沢書店北店店長・松本照実)。小川さやか『「その日暮らし」の人類学』「中長期的だとか言う目標や計画にうんざりしたときの希望となる1冊」(長崎次郎書店・齊藤仁昭)。

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■(コラム)R-40 企み力
生き方を変えたくて、自分の本屋を作った Title店主・辻山良雄

「生き方を変えたいな、と思ったのが一番の理由です」

 2015年、東京の文化を彩った大型書店リブロ池袋本店が閉店した。時を同じくして、サラリーマン書店員の生活を辞したのが辻山良雄さん。他店に移る選択肢を断っての決断だった。

「会社員やっていると、『ああ次はここに移るな』とか『このコースか』なんて先が見えてくることありますよね。なんだかそれが無性に嫌になって、会社を辞めちゃいましたね」

 期するもの――自分で本屋をはじめます――があった。一連の山あり谷ありの顛末を綴ったのが、『本屋、はじめました』だ。

「やっぱり物を書くとなると、SNSで情報発信するのとは違いますね。後者には気軽さがあってもちろん良いことなんですが、それとは別の側面として本を書いて読んでもらうというのは、それなりにずっしりと重いことなんだなと感じます」

 R-40大賞のアンケートでも多くの票を獲得。身一つで新しく書店をはじめた辻山さんには、同業者から多くの支持が集まる。

「書いてよかったなと思いますが、自著を売るというのはやっぱり変な、不思議な気分でして。オンラインで自分の本のご注文をいただいたときは、発送確認のメールがいつも以上に丁寧になったりしますね(笑)」

 昨年1月にオープンした辻山さんの城は、かつての職場の50分の1の広さ。だからこそ、細部にまで目が届く。

「責任と自由、なによりやり甲斐があります。書店というのが自分で仕入れて売る、小売業なんだとあらためて思えます。接客業として、お客さんひとりひとりと開かれたコミュニケーションをとれるのは何より嬉しいことですね」

(「週刊文春」編集部)

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