「あぁ、生まれてきてよかったな」 ヤクルトーDeNA“幸福な3連戦”で思い出した寅さんの言葉

「あぁ、生まれてきてよかったな」 ヤクルトーDeNA“幸福な3連戦”で思い出した寅さんの言葉

逆転サヨナラ本塁打を放った村上宗隆

■「人間は何のために生きるのか?」を、寅さんに教わった

 今年の12月27日、『男はつらいよ』の最新作が公開される。全48作(+特別編)のDVDセットを購入し、今でも折に触れて何度も見返すほどの寅さん好きの僕としては、主演の渥美清亡き今、どんな新作が作られるのか、期待と不安が入り混じった「第50作目」である。さて、寅さんシリーズには名場面、名セリフが山のようにあるけれど、その中でも、大好きなセリフがある。

 第39作『寅次郎物語』の終盤。いつものように、年末年始の稼ぎどきに向けて、故郷を旅立とうとする寅次郎。冬の夕暮れどき、甥っ子の満男とともに柴又駅まで歩いている。駅前に着くと、思いつめた表情の満男が寅次郎に尋ねる。

「おじさん……」
「何だ?」
「人間てさ……」
「人間? 人間どうした?」
「……人間は何のために生きてんのかな?」

 この頃の満男は思春期真っ只中の17歳で、自分の将来のことに思い悩んでいた。ナイーブで繊細な感情表現を演じさせたらピカイチの俳優・吉岡秀隆の真骨頂の場面だった。ちなみに、この映画が公開されたのが1987(昭和62)年12月のこと。満男を演じる吉岡も実年齢は17歳であり、暗闇の中でじっとスクリーンを見つめていた僕も17歳だった。突然の質問に驚きつつも、寅さんは諭すように満男に言う。

「難しいこと聞くなぁ。……うーん、何て言うかな、ほら、“あー生まれてきてよかったな”って思うことが何べんかあるじゃない。そのために、人間生きてんじゃねぇのか」

 寅次郎の言葉に対して、満男は自分なりに反芻するかのように「ふーん」と口にする。そして、寅さんは満男の肩を叩きながら続ける。

「……そのうち、お前にもそういうときが来るよ。まぁ、頑張れ!」

 劇中の満男と同じ17際だった僕は当時、このシーンにいたく感激した。そして、折に触れてこのセリフを思い出しながら、今まで生きてきた。ちなみに、この場面はDVDでも何度も見たし、このセリフが収録されている『男はつらいよ 寅さん発言集』のCDも購入。もちろん、この音源は僕のiPhoneにも入れている。それぐらい、大好きな場面の忘れられないセリフなのだ。

■傷つくことだけ、上手になって……

 久々に「野球って楽しい」と思えた3日間だった。8月12〜14日にかけて、神宮球場で行われた横浜DeNAベイスターズとの3連戦。3日とも、僕はライトスタンドのいつもの席で観戦。一体、何杯のビールを飲み干したことだろう。試合後は毎晩、酒場に繰り出し、さらに痛飲。72時間もの間、僕の体内には常にアルコールが宿っていた。おかげで、仕事はまったくはかどらなかったけれど、本当に本当に幸せな3日間だった。

 ドラマの幕開けは8月12日。主人公は「驚異の19歳」村上宗隆だった。2対2で迎えた9回表に2点を失い、その裏にはDeNA不動のクローザー・山崎康晃がマウンドへ。「あ〜ぁ、今日もダメか……」と、半ばやけくそ気味にビールをかっ食らっていたところ、先頭のバレンティンがバックスクリーンへ第24号ソロホームラン。何とか1点を返して3対4とした。それでも僕は素直に浮かれることもできず、「康晃相手に1点を取ったんだから、大したものだよ」と自分を慰めていたところ、続く雄平が内野安打。打席には村上。このときの僕の心境は、「何かをやってくれそうな村上を最後に見られただけで、オレは十分だよ」と、実に志の低い思いしか持っていなかった。期待が大きくなればなるほど、裏切られたときの傷は大きくなる。いつの間にか僕は、傷つくことだけ上手になっていたのだ。

 しかし、村上は僕の期待をはるかに超える大物だった。この場面で、相手チームの不動のクローザーから特大の25号2ランホームラン。なんと、5対4でサヨナラ勝ちを収めたのである。その瞬間、自分でも驚いてしまったのだが、瞳が潤んでしまい、劇的すぎる目の前の光景が滲んでしまったのである。球場で涙を流すなんて、いつ以来のことだろう。2015(平成27)年のリーグ優勝の瞬間だって涙は流していなかった(はず)。でも、村上の豪快な一打を目の当たりにした瞬間、不覚にも落涙してしまったのである。

(もう、これで今年は十分だよ。ありがとう、村上……)

 この日の夜、浴びるように呑んだ。そしてこのとき、僕は寅さんのセリフを思い出したのだ。寅さんの言う「あぁ、生まれてきてよかったな」ということが、まさに村上のサヨナラホームランだった。「あぁ、ヤクルトファンでよかったな」という思いが、しみじみ胸の中に温かく広がっていく。劇的なヤクルトの勝利と寅さんの優しい言葉。ヤクルト球団50周年という節目の年に、第50作が作られる『男はつらいよ』。来年50歳になる僕と吉岡秀隆。何の関連性もないけど、これらのことが頭の中でぐるぐると渦巻きながら、しみじみグラスを傾けたのだ。

■石山泰稚のインフルエンザは、いつになれば完治するのか?

 しかし、ドラマはまだまだ終わらなかった。翌13日は7対7の同点から、7回裏にバレンティンの勝ち越しタイムリーで8対7のルーズベルトゲーム。一塁走者である青木宣親の激走は見事だった。さらに14日の試合では初回からヤクルト打線が大爆発。1回に7点を奪う猛攻を見せた。山田哲人は四度目のトリプルスリーに近づく第30号を放ち、6回裏にはバレンティンが第25号。さらに、村上は26号2ランを放って、この時点で単独打点王となった。

 投げては「小さなエース」石川雅規が、8回一死までノーヒットノーランという快投で今季6勝目。通算169勝目をマークした。チームは15対2と快勝。今季初となる本拠地3連戦3連勝を目撃することとなった。打つべき人が打ち、投げるべき人が投げ切っての見事な勝利。本当に心地いい瞬間であり、寅さんの言う「あぁ、生まれてきてよかったな」と思えた至福のひとときだった。

「悪夢の16連敗」が象徴するように、今季は辛いことばかりが続くシーズンだ。開幕3戦目にして、坂口智隆がデッドボールで離脱。昨年、ショートのレギュラーポジションを獲得した西浦直亨が故障してから、チームの歯車は狂いっ放しだ。ライアン小川が初勝利を挙げるのに、まさか1カ月もかかるとは思わなかったし、勝負の4年目を迎え、2年続けて「開幕スタメン」を勝ち取った廣岡大志の初ヒットが出るまでに、まさか42打席も要するとは思わなかった。石山泰稚のインフルエンザは一体、いつになれば完治するのだろう? オープン戦で結果を残して、「ローテの一角は任せたぞ!」と期待を抱かせたスアレスはどこに行ってしまったのだろう? 

 辛いことをあげればキリがない。まさに、『ヤクルトファンはつらいよ』と嘆きたくもなってくる。それでも、今回のDeNA3連戦のように、「あぁ、生きててよかった」と思える日がやってくるのだ。「あぁ、ヤクルトファンでよかった」と実感できる試合があるのだ。だからこそ、僕らは今日も神宮へ行く。辛いことばかりが多いかもしれないけれど、それでも、僕らはヤクルトファンであり続ける。

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(長谷川 晶一)

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