《密着スクープ連載》大船渡佐々木の登板回避 4回戦で194球を投げさせた國保監督の「迷い」

《密着スクープ連載》大船渡佐々木の登板回避 4回戦で194球を投げさせた國保監督の「迷い」

佐々木が先発した岩手大会準決勝に訪れた大勢の観客 ©共同通信社

《密着スクープ連載》大船渡佐々木 登板回避の真相「勝ちにこだわらない迷采配」が生んだ深い溝 から続く

 この夏、甲子園という檜舞台に立たなかったにもかかわらず、最も注目された投手になった大船渡の佐々木投手。“令和の怪物”は、なぜ岩手県大会で姿を消したのか。春から密着取材を続ける、ノンフィクションライターの柳川悠二氏が描く、佐々木の登板回避の裏にあった真実とは――。

(全3回中の2回目/ #1 へ)

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■公式戦後、異例の取材拒否

 2019年の高校野球の話題を独占する佐々木朗希に関して、大船渡は取材規制を強めてきた。とりわけ4月のU−18侍ジャパンの第一次候補合宿で163キロを記録してからは、学校のグラウンドで練習を見学することも難しくなり、対外試合後の取材も禁止された。

 それゆえ、公式戦の試合後は、佐々木や國保陽平監督だけでなく、大船渡のナインを取材する貴重な機会だった。5月の春季岩手大会・沿岸南地区予選の試合後、報道陣は捕手の及川惠介への取材を要請した。佐々木の女房役である及川の苦労話や、配球に関する話題は誰しも興味があった。

 ところが、取材場所に及川が現れない。大船渡の吉田小百合・野球部長は、「チーム事情」を理由に取材に応じないと岩手高野連を通じて説明した。さらに、会見に立った佐々木朗希に対して、「今日はフォークボールを投げましたか」という質問が飛ぶと、やはり吉田部長が「戦略上の都合でお答えできません」と、横やりを入れた。

 取材に不慣れな学校が、殺到する報道陣への対策として、個別の対応を禁じるのは理解できる。ただ、公式戦の試合後に学校側が取材を拒否することなど、初めてのケースだった。

 たとえば、父の功太さんと祖父母を東日本大震災の津波で亡くしている佐々木に関して、そうしたプライバシーに踏み込む質問が飛ぶことはなかった。報道陣も17歳の高校球児に対し最低限の礼節はわきまえて取材にあたっていた。

 過熱する一方の佐々木への取材だけでなく、中心選手である及川らの取材も規制するのは、彼らを余計なプレッシャーにさらしたくないという配慮なのだろう。そしてもうひとつ、夏の大会で甲子園を目指す大船渡の前に立ちはだかるであろう、シード校の花巻東や盛岡四、盛岡大付属にバッテリーの情報を漏らしたくないという判断だった。

 夏の岩手大会開幕直前となる7月6日と7日、大船渡は練習試合を行い、佐々木もマウンドに上がった。連投となった盛岡一との試合では20三振を奪って完投。150キロ台のストレートを連発し、左打者にはチェンジアップ、右打者にはフォークボールと、落ちるボールを有効に使っていた。さらに、報道陣には公言していない、ツーシームやカットボールのような直球系のボールも多投していた。

■なぜか練習試合に佐々木が連投

 意外だったのは、あれほど投球過多に敏感だった國保監督が、佐々木に連投を命じ、さらに2戦目は完投させたことだ。それは6日間で4試合を戦う岩手大会終盤の連戦を想定した試験的登板に違いなかった。夏の岩手を制す準備は整ったように見えた。

 14対0と大勝した7月16日の岩手大会初戦・遠野緑峰戦で佐々木は2回を投げただけで降板し、続く一戸戦にも先発。6回参考記録ながら、ノーヒットノーランを記録し、被安打0のまま最初の山場となる第2シード・盛岡四との4回戦(7月21日)に臨んだ。

 先発した佐々木は公式戦における自己最速となる160キロをマークし、延長12回までに奪った三振の数は21。令和の怪物の称号に相応しい内容で、國保監督は球数が194球に達するまで佐々木をマウンドに送り続けた。

 そして、試合を決めたのも佐々木だった。12回表に、右打者の佐々木にとっては逆方向となる右翼席に弾丸ライナーで飛び込む2点本塁打を放ち、そのリードを守り切った。試合終了の瞬間、佐々木の目には涙があふれていた。

 試合後の取材では、疲労困憊の佐々木を考慮し、パイプ椅子が用意されていたが、佐々木は「立って話した方が良いです」と笑い、会見は始まった。

「負けたら終わりというプレッシャーはあった。これからは連戦になる。チーム全員で戦っていけば、勝つことができると思います。この仲間と野球ができるのは、この夏が最後。その喜びを噛みしめながら、プレーしていました。160キロ? 自分ではそこまで速いとは思わなかったですし、質の良いボールではなかったです」

 160キロを打席で体感した盛岡四の岸田直樹は清々しい表情で振り返った。

「160キロの次のボールは、140キロのフォークでした。直球かなと思った瞬間、ボールが視界から消えた(結果は三振)。高校生が打てるボールではありません」

 194球という球数は、佐々木にとって公式戦では最多の投球数だった。この緊迫した展開の中で、佐々木を続投させるにしても、力の落ちる控え投手を起用するにしても、大きな勇気が必要だったに違いない。米国の独立リーグを経験し、肩やヒジの疲労を第一に考えて佐々木を指導してきた國保監督なら、本心としては継投策に出たかったはずだ。しかし、勝利のためには、佐々木の続投しか考えられない。そうした迷いに包まれているうちに、延長12回となり、佐々木の球数も194球に達していた。

 試合後、國保監督はいつものフレーズを口にした。

「今日もケガなく終われて良かったです」

 大船渡の試合は連日、徹夜組を含めて高校野球ファンが球場を埋めた。12時半開始予定の試合に、プロのスカウトが5時に来て開場を待つ列に並び、バックネット裏の良席を確保するのも異例の光景だった。

■「佐々木温存」の美談の陰に感じた疑念

 盛岡四戦の翌日に行われた準々決勝の久慈戦で、國保監督は佐々木の疲労を考慮してマウンドに上げず、ここまで4番を打っていた佐々木を野手としても起用しなかった。194球を投げた翌日である。しかも、盛岡四より戦力的には見劣りする久慈が相手。登板回避は当然の判断であろうし、この点に関しては佐々木も納得の上だったに違いない。

 國保監督は、第三者にも意見をあおぎ、佐々木の起用を決めていると明かした。

「年間を通して選手にアドバイスをいただいている理学療法士の方、医師、トレーナーの方。さらには球場の雰囲気や相手の対策、自分達のモチベーション。いろいろなことを複合的に判断して、起用を決めています」

 代わりに先発した身長160センチの大和田健人が5回までパーフェクトピッチング。しかし、初安打を許した6回に2失点、7回にも2点を奪われ同点に追いつかれてしまう。

「イニング途中で、(2番手投手を)行かせても良かったかもしれないですけど、子どもたちが一番力を発揮しやすいのはイニングの頭からかなと。プロなら途中からでも抑えられるかもしれませんが……」(國保監督)

 結果、交代のタイミングを逸し、大和田を引っ張りすぎてしまう。10回裏には大和田に代わってマウンドに上がっていた和田吟太が一打サヨナラのピンチを招く。まさか佐々木の出場がないまま敗れ去るのか。球場全体がざわついた。

 ようやく11回に2点を勝ち越し、大船渡は久慈に勝利した。佐々木を温存し、チームが一丸となって勝利を導いた――試合後はそんな美談仕立ての報道が相次いだ。

 だがやはり、エースで4番の佐々木が試合に出ることなく敗れ去るような試合展開を、選手たちが納得しているのかという疑念は募るばかりだった。

■ナインは打席に入ってもベンチを見なくなっていた

 和田や捕手の及川らナインの多くは、佐々木が中学時代に所属したKボールの地域選抜である「オール気仙」のチームメイトだ。Kボールとは、素材はゴムながら硬式球と同じ大きさ、重さのボールだ。岩手では軟式野球部を引退した中学3年生が、高校から扱う硬式球までの準備段階として、Kボールの地域選抜を結成するのだ。Kボールの全国大会に出場した佐々木は、そのチームメイトと甲子園を目指すべく、花巻東や盛岡大付属といった県内強豪私立からの条件の良い勧誘を断り、公立の大船渡に進学した。久慈戦後、佐々木は言った。

「この仲間と、甲子園を目指したかった。自分が試合に出たいとかじゃなく、自分が勝つためにできることをやって、その結果、チームが勝てば良いと考えています。負けたら終わりだという覚悟は常に決めている。(もし出場しないまま敗戦となっても)仲間が必死にプレーしてくれていた。悔いはなかったと思います」

 相変わらず、ベンチから指示の出ない「ノーサイン野球」を大船渡は続けていた。バントや盗塁の判断は選手に一任し、大船渡のナインは打席に入ってもベンチを見向きもしない。久慈戦後、そのことを國保監督に問うと、ややムキになってこう返した。

「ノーサインのように見えるかも知れませんが、いろんなこともやっています。すべては結果論。負けていたら、動かなかったね、と言われるだけ」

■盗塁は「サインはないので自分で決めた」

 しかし、9回に盗塁を決め、チャンスを広げた右翼手の三上陽暉はこう証言した。

「サインはないので、(盗塁は)自分で決めた事。何が最善策か、その場、その場に立っている選手が考えて、戦っています」

 佐々木は「國保監督はプレーしやすい環境を作ってくれる。自分はベストを尽くすだけ」と話した。ベストを尽くせたならば結果はすべて受け入れる。それが佐々木の言った「覚悟」なのだろう。

 4回戦の194球から中2日が空いた7月24日が準決勝で、その試合に勝利すれば連戦となる。

「一冬を越えて、身体も強くなりましたし、ベストコンディションに持って行く方法を学んで、実践しています。去年の夏とは疲れ方が違う。(準決勝・決勝の)連投はできないということはない。頑張りたい」

 大船渡と同じ公立校で、ノーシードで勝ち上がってきた一関工との準決勝――。序盤から援護をもらった佐々木は、脱力したフォームで、球威よりも制球を重視する“省エネ投法”で手玉にとり、5対0で勝利した。

 球数は129球。少ないとはいえない球数だが、試合後の佐々木に疲労は見られなかった。

 当然、決勝のマウンドにも上がると思われた。

※第3回は8/20(火)公開予定

(柳川 悠二)

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