【新連載】オカンといっしょ #2 Yellow(後篇)

【新連載】オカンといっしょ #2 Yellow(後篇)

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「大人になったら、分かるわ。お前も絶対、女好きになる」

「はー? ならんし。オレ、クラスの女子嫌いやねん」

「何でや?」

「あいつら、すぐに人の事をな、キモいって言いよるねん。オレも言われたし」

「そんなん気にすんなよ」

「でも、保健体育の授業で習ってんけどな、女は月に一回、生理っていうのがあってな、血めっちゃ出るねんて! それ聞いた時に、絶対、お前らの方がキモいわ! って思ったわ」

「確かにな」

 ヤクザは、笑った。やっぱ、笑った顔、ばくだんいわみたいや。

 しばらく一緒に居ると、ヤクザがいつ爆発するかが分かるようになってきた。

 爆発する直前に舌打ちをして、激しく貧乏ゆすりをする。苛立っているのが、すぐに分かる。そして、赤信号になると、「ちょっと待っとけ」とだけ言い残して、前の車の運転手に、爆発しに行く。

 そんな事を繰り返しながら、車が家の近所まで来た時に、ヤクザはしんみりと言った。

「なんであの日、俺のカバン、ベランダから捨てたんや?」

 ヤクザは、心の中にある遊園地が閉園したみたいに、寂しそうな顔をした。

「……オレ、知らんオッサンが家に来るん、もう嫌やねん」

 初めて、『ホームアローン』を見た時に、あんな風に家中に仕掛けを作りまくって、もう知らんオッサンが入って来られへんようにしたいと僕は思った。

「オカン、いっつも変なオッサンばっかり連れて帰って来よるねん。知らんオッサンが家に泊まったら、家中にそいつの臭いが充満して、吐きそうになんねん」

 僕が見ていた映画とは違い、母の旧作はどれもが駄作ばかりだった。

「前に連れて来たんは、ハゲたオッサンでな、オレ、ハゲ嫌いやから、そいつがおる間ずっとカツラのCMソング歌ったったわ」

 その前の旧作は、ロバ人間だった。

「その前はな、ロバみたいな顔しとる奴でな、脳みそもロバ並みやったわ」

 その前の旧作は波乗りバカだ。

「その前が茶髪のサーファーでな、海に浸かり過ぎて、脳みそまでふやけとったわ」

「さっきから、ボロクソやのう」と、ヤクザは笑いながら言った。

 母の旧作の中で最悪だったのは、その前のオッサンだった。

「その前の奴がな、めっちゃ最悪やってん。オレそん時、まだ6歳やってんけど、そいつな、夜、オレが寝てる間にオカンとどっか行きよるねん。夜中起きた時に、家に誰もおらんくってな、めっちゃ怖かったわ」

「そうか」

 6歳の僕は、誰もいない家で泣き叫んでいた。地球上で、一人ぼっちになったみたいに思ったのだった。

「それからはな、寝るんが、めっちゃ怖いねん。起きたら、真っ暗な家に一人やって思ったらな、夜寝るのめっちゃ怖くってな。オレ、あのオッサンが一番嫌いやったわ。あいつのせいで、夜寝られへんくなったもん」

 僕と母が暮らす団地の前に、ヤクザは、車を停車させて言った。

「俺はどうや?」

「オッサンか?」

「おう」

「オッサンは、今までで一番マシや」

「ホンマかいな」

 ヤクザは笑った。やっぱり、笑うとめっちゃばくだんいわに似とる。

「オッサン、また、ドライブ連れてってや」

「よっしゃ」

 しかし、すぐに、母はヤクザと別れた。

 次の新作は、巨大なワゴン車に乗ってやって来た。

つづく(※小説「オカンといっしょ」は毎週金曜17:00に公開します)

(ツチヤ タカユキ)

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