【日本ハム】清宮幸太郎はファイターズに入るもんだと決めてかかる

【日本ハム】清宮幸太郎はファイターズに入るもんだと決めてかかる

©文藝春秋

■度肝を抜かれた6時台の外苑前

 始発で神宮球場へ向かうつもりがちょっと寝坊したのだ。それでも6時浅草発の銀座線に乗れた。外苑前で地上に出て、へぇと思ったのは蕎麦の増田屋の前でラジオ体操をやってたことだ。歩道のところに大勢の人がひろがって屈伸運動だ。フツーは公園でやるやつだ。そんな早い時間に増田屋の前を通ったことがないから知らなかった。ラジオの音量がでかい。ピアノの伴奏と体操指導員の「ひらいてとじて、ひらいてとじて」みたいな声が響いている。

 7月最後の日曜日、西東京大会の決勝だ。球場へ向かう側の歩道は皆、急ぎ足である。早稲田カラーのエンジを身に着けた人が多い。やっぱり出足早いなぁと思っていたら、球場に着いて度肝を抜かれた。もう、1塁側も3塁側も何百人という列ができている。係員さんに「開場予定は何時ですか?」と尋ねたら、「一応、10時なんですけど、準備ができ次第、開けることになっています」と言う。いや、僕は待機列で折りたたみイスに腰かけて、radiko(のタイムフリー機能)で昨日のソフトバンク戦中継をのんびり聴き直そうかと思っていたのだ。それがもう4列になって立って待機している。やがて列が動きだした。時計を見ると7時前だ。13時プレーボールの試合で何と7時前に開場したのだ(!)。

 決勝戦のカードは早稲田実業×東海大菅生。高校野球ファンのお目当てはもちろん清宮幸太郎の早実だろう。清宮は久々に出現した高校球界のスターだ。今、プロ野球も含めてスポーツ新聞の1面の見出しを張れる名前がどれだけあるだろう。ファイターズなら大谷翔平、中田翔止まりじゃないだろうか(あ、これ、全国区ってことで言ってますよ。北海道版だったらもっと名前が挙がる)。清宮幸太郎は既にそんな名前になっている。

■清宮幸太郎を中心に人の輪ができるかのよう

 ネット裏2階席で居眠りしながら待った。曇りでそんなに暑くない。僕は夾雑物なしに清宮が見たいなぁと思っていた。私事ながら、僕は清宮家のお父さんもお母さんも面識がある。心情的には身びいきしてしまう。ポスト大谷&ポスト中田という時代はいずれ必ずやって来る。そのとき、清宮幸太郎がファイターズのユニホームを着ていたらと思うのだ。いや、もう妄想が先走りすぎていて、日頃、野球コラムをご愛読いただいてる方からも呆れられるに違いない。ましてや偶然、この一文を目に止められた方は何のことかわからないだろう。色眼鏡も色眼鏡、放っておいたら「ファイターズの次代を託すのはこの男しかいない」とか言い出すに決まっている。まだプロ志望届も出してないというのに。

 いや、だから夾雑物の一は、そのような私情だ。なるべくそれを取っ払って清宮を見たいと思う。それから夾雑物の二は「高校通算107号」(2017年7月30日現在。9月のU-18W杯で記録更新の可能性ありとのこと)の大砲という、比較の難しい数字を持ち出しての賛辞だ。これは早実が招待試合も含め、多く試合を組んでいるという部分を考慮すべきだろう。

 それから夾雑物の三は早実のユニホームだ。僕の住む東京下町では、自営業の息子を早実にやるのが「大正義」だった。大学へ進学せず、店を継ぐ早稲田の流れがあったのだ。王貞治、荒木大輔、斎藤佑樹の早実は東京のヒーローだ。それは早実が「西東京」の学校になっても不変のイメージだ。僕も早実のユニホームを見たらつい「いい者」だと思ってしまう。そうした諸々を差っ引いて、一人の選手として清宮幸太郎を見たらどうだろうと思った。まぁ、言うは易し行うは難しではあるけれど。

 両校のアップが始まる。東海大菅生はきちんと並んで外野を走る。規律正しいチームだ。早実はストレッチ用のマットを外野に広げてリラックスしている。話をしながらのんびりライトフィールドまで歩いていく。こう、何となくプロ野球みたいだ。場慣れしている。本当にこれから決勝戦なのか。揃いの練習着だが、清宮がどこにいるかすぐわかる。面白いなぁと思うのは、清宮を中心に人の輪ができる感覚だ。チームを集めて声をかけている。何言ってるのかなぁ。聞きたいなぁ。

 僕が清宮幸太郎の特徴だと思うのは、このキャプテンシーだ。例えば試合を左右するピンチの場面、早実はマウンドの近くに輪をつくる。清宮が一人一人の目を見ながらずっと語りかけている。これはお父さんの清宮克幸さんゆずりだと思う。野球選手の口下手なら見慣れているが、このタイプは少ない。「大将」っぽいのだ。他に働きかける言葉を持っている。しかも、あの風貌だ。ピンチの場面が何か楽しげにさえ見えてくる。

■敗れた後に見せた姿

 バッティングは本当に柔らかい。クセがない。よく清原和博、松井秀喜の高校時代と比較する向きがあるけれど、それは答えがないのだ。清宮はそのクラスの物語をつくれていない。清原の「甲子園通算ホームラン数13」にも及ばないし、松井の「5打席連続敬遠」の凄みもない。履正社の安田尚憲とのライバル関係をメディアは書き立てるが、それもまだ前哨戦止まりだ。見た人があれは凄かったと後々まで語り草にするような名勝負、名場面の類いをまだつくれていない。「高校通算107号」の額面だけがあって、それだけ打ってるなら凄いんだろうと納得している。だから皆、本当に凄いのか甲子園で清宮が見たい。

 だけど、試合が始まって、しっかりした野球をやってるのは東海大菅生のほうだった。早実は守備が粗かった。これは負けるだろうと思う。ミスにつけ込まれて失点を重ねる。打つほうでは清宮の前で終了して、次の回の先頭打者にされてしまう。東海大菅生、理に適っている。甲子園出場は順当だと思った。2年前、決勝で涙をのんだことで、この一戦にかける思いが強かったのだろう。

 つまり、圧倒的なポテンシャルを感じさせ、キャラ立ちした「超高校級」は、高3の夏、甲子園へ届かなかった。見るはずだった名勝負は消えてしまった。メディアはアテが外れた。例えば早実の先輩、斎藤佑樹のような空前の大フィーバーにはなりそこなった。ニュアンスは花巻東時代の大谷翔平に近い。甲子園出場経験はあるものの、いちばん迫力ある姿は見せられなかった。

 僕は敗者・清宮幸太郎の姿をずっと目で追った。グッドルーザーだった。勝った東海大菅生を称え、仲間に声をかけていた。スタンド応援席に心のこもった一礼をした。もっと姿が崩れるかと思ったが、こらえていた。僕はその自制する姿こそが買いだと思った。この選手はマスコミに持ち上げられ、チヤホヤされてるだけじゃない。自分を持っている。敗れたときもそれを失わない。そして、深く傷ついている。でっかい夢が消えたんだ。結論を言おう。ファイターズの次代を託すのはこの男だ。

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(えのきど いちろう)

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