【日本ハム】マーティンの退場寸前劇で見せたチームワーク

【日本ハム】マーティンの退場寸前劇で見せたチームワーク

©時事通信社

■2ヶ月ぶりの連勝

 読者よ、ファイターズが連勝したのである。連勝というのは「○○」だ。盆と正月がいっぺんに来た感じだ。実際には8月14日のソフトバンク戦と16日のロッテ戦だからお盆しか来ていない。いいお盆だ。ナイス盆。他球団のファンはびっくりすると思うけど、ファイターズはこないだ連勝したのが6月18日ヤクルト戦&23日楽天戦なのだ。つまり、交流戦に半分かかっている。交流戦明けてからの勝敗を「見える化」してみよう。

 (6月)○●●●●●○
 (7月)●○●●●●●○●●●●●○●●●●○●●●
 (8月)●○●●●●●●○○

 太鼓の達人か。

「○○」を記念して8月16日の夜、本稿を執筆している。目下、ファイターズは札幌ドームにて「裏天王山」ともいえるロッテとの5位6位直接対決に火花を散らしている。現在2.5差だが、たぶん最後までもつれるだろう。持つべきものは友だ。ロッテは昔から「職員室に一緒に怒られに行ってくれる友達」だ。川崎球場で仁科時成が投げてた(こっちは間柴茂有が投げてた)「日ロ戦争」の昔から特別なシンパシーがある。これからシーズン終盤戦、速報サイトをにらんで「お、よかった、ロッテもつき合ってくれた!」「やばい、ロッテが逆転した」とかワーキャーしたいものだ。

 この「お盆連勝」(と命名した)は久々にファイターズらしい快勝だった。明るい話題にも事欠かない。14日のソフトバンク戦は太田賢吾の勝ち越しタイムリーが見事だったし、9回の大谷翔平、中田翔の「ON砲」アベックホームランも圧巻だった。16日のロッテ戦はレアードのNPB通算100号、増井浩俊の通算100セーブと「偉業の100均デー」(?)であった。新聞も見出しが作りやすかったに違いない。

 が、不思議なもので「ファイターズらしい快勝」を見ていたはずが、強く印象に残ってるのは野球の本筋とは別のところなのである。外国人投手がめっちゃ怒ってるのを見た。14日はファイターズのマーティン、16日はロッテのスタンリッジ。事情はそれぞれ異なるんだけど、どちらも審判に怒っている。大変な剣幕だった。たぶん審判は英語を解さないと思うのだが(大変な剣幕で文句言われて、「ワカリマセーン」みたいなジェスチャーをしてた)、細々した内容はともかく剣幕の度合は伝わる。

■マーティンが判定に激怒し、チームプレー発動

 14日、ソフトバンク21回戦は8回裏、1死1塁でデスパイネを迎えた場面だった。マウンドにいるのはセットアッパーのマーティン。203センチの長身選手で、チーム内の愛称は「キリン」である。去年はグラブに「ザ・キリン」とカタカナで刺繍がしてあった。今年はキリンのイラストが入っている。打たれると割にカッカするほうだけど、普段はセルフコントロールができている。だから淡々と抑えて淡々と引き上げるイメージが強い。

 マーティンはその日、ボークを取られたのだ。それでめっちゃ怒った。シチュエーション自体も「1死2塁でデスパイネ」というピンチだけど、マーティンはそんなことは一顧だにしていない。マーティンはどうやら二重の意味で怒っていたようだ。一つはかねて腹に据えかねていた「日本野球はボークをうるさく取り過ぎる」件。去年の春先、ボークをうるさく取られて、カッとなってマウンドを蹴り上げ、「おお、何だ静止してないっていうのか、そんなら静止してやるから見てろ」とばかりに、一球ごとに10秒以上静止して投げていた。もうマンガみたいで大笑いだった。そこまで感情的になるシーンはその後、見ていない。僕は日本野球に順応できたんだなと思っていた。

 それが久々に今回は怒っていた。マウンドから降りて、球審に大文句を言う。このとき、ファイターズのチームプレーが発動した。まず捕手の大野奨太がマーティンのところに行って、身体を間に入れ、必死にマウンドへ押し戻す。次に中田翔が球審のところへ行き、身体を間に入れ、マーティンから引き離す。ベンチから栗山英樹監督、吉井理人コーチ、野茂貴裕通訳が飛び出してくる。内野の田中賢介、飯山裕志、中島卓也も集まっている。マーティンは完全に度を失っていて、今度は2塁塁審に食ってかかっている。吉井コーチと田中賢介がいいポジション取りで、距離をつくる。2塁塁審がカチンと来てるようなので栗山監督がなだめにかかる。野茂通訳はもちろんマーティンの文句を一切訳さない。

 それで何とか収まったのはファインプレーだと思った。審判に「うちの外国人がすいませんね」をやる役と、マーティンをなだめる役が見事に機能した。審判も大目に見てくれた。僕は退場になるんじゃないかとヒヤヒヤしたのだ。マーティンが二重の意味で怒っていたという、その二番目は「日本に来て5回ボークを取られているけど、そのうち4回はホークス戦だ」というもの。野茂通訳、訳さなくてグッジョブ! チームの皆の協力でマーティンはその回を無失点で切り抜ける。降板してからも3塁塁審と軽く揉めてて、ちょっと気まずい雰囲気だったが、これもすぐ栗山監督が火消しに入り、ベンチ奥へ連れていった。

■ちょっと可哀想だったスタンリッジ

 一方、16日のロッテ17回戦、スタンリッジはちょっと可哀想だった。阪神やソフトバンクのファンはよくご存知と思うが、スタンリッジは紳士だ。マーティンと比べたらずっと経験豊富な大人のピッチャーだ。この日も5回1/3、4失点と苦心の投球だった。松本剛に四球を出し、6回1死1、2塁の場面で伊東勤監督が交代を告げた。そのとき、一瞬考える顔をして、スタンリッジが何か言い出した。球審に何か言っている。マウンドを降りて球審に向き合ったが、英二コーチ(落合英二投手コーチは登録名「英二」!)が分ける。何と言っても既に出番を終えた選手だ。ベンチ奥に下がって、野球的にはリリーフのチェン・グァンユウ対打者・大谷翔平という、左対左の対決になった。

 が、それで終わらなかったのだ。カウントが2-2になったところで球審がロッテ側ベンチを見る。タオルを首にかけたスタンリッジが文句を言っている。(自分のことも踏まえているけれど)今はチェンのために抗議しているようだ。球審がベンチに向かう。まずい空気だ。伊東監督が間に入るが、暴言を吐いたと見なされ退場処分が下る。僕が聞き取れたスタンリッジの言葉は「ドゥ・ユア・ジョブ!」だ。

 報道によるとスタンリッジは暴言を否定している。「今日は暴言だと言われたが、ストライクじゃないかとジェスチャーして、『しっかりしてくれ!(ドゥ・ユア・ジョブ!)』と叫んだのが暴言と取られたようだ。自分は、侮辱する言葉は発しなかった。僕を知ってる人はわかってくれると思うけど、人を侮辱する言葉は私生活でも使わない」

 僕の知るスタンリッジはそういうタイプだ。ちゃんと自制していた。あれで退場というのはディスコミュニケーションの産物だ。「でかい外国人が大声でずっと何か言ってる」からお咎めを受けたんじゃないかと思う。14日のマーティンのほうが僕には感情的に思えた。退場にならなかったのはチームが皆でフォローしたからだ。それと球審、2塁塁審、3塁塁審とターゲットが分散したのも助かった。

 そりゃプロなんだから審判は味方につけて、試合中、数センチずつストライクコースを広げていくとか、シーズンを通して貸しをつくっていくとか、そういう話にもなるだろう。それも悪くないが、何かサラリーマンが長く仕事を続けるコツを聞いてるみたいでゲンナリするときもある。マーティンやスタンリッジの「ドゥ・ユア・ジョブ!」の明快さ、率直さ。たぶん誰にだって「ドゥ・ユア・ジョブ!」とブチ切れたいときがあるだろう。僕は嫌いじゃないなぁ。

 世間的にはあまり注目されないパ・リーグ5位争いの渦中に、そしてまったく知られていないファイターズの「お盆連勝」の最中に、こんな思い出に残るシーンがあったのだ。そして単純比較するとファイターズのほうが(まぁまぁと間に入ったりする)チームワークは一枚上を行っている。

追記 ?そしてファイターズは17日のロッテ戦・延長11回、敵失サヨナラで3連勝を飾った。「◯◯◯」である。こんなことってあるんだなぁ。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/3804でHITボタンを押してください。

(えのきど いちろう)

関連記事(外部サイト)