まさに“よるの朝ドラ” 月9「監察医・朝顔」には“視聴率が取れる3要素”が揃っていた

まさに“よるの朝ドラ” 月9「監察医・朝顔」には“視聴率が取れる3要素”が揃っていた

現在放送中の月9ドラマ『監察医 朝顔」で主演を務める上野樹里 ©文藝春秋

 フジテレビの看板枠・月9(月曜よる9時)が一時期の低迷から脱しはじめている。『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』に代表される恋愛ドラマを主として放送し、それがのきなみ絶好調だった90年代は月9を見るためにOLが家に帰って街が静かになるとまで言われていた。ところが、00年代に入るといつしか恋愛ドラマが好まれなくなり、10年代では世帯視聴率が一桁台の連続なんてことも。月9廃止の噂も囁かれるほどだったのが復調しはじめたのは、脱・恋愛を図り、代わりに他局で安定の人気を誇る医療ものとミステリーものに舵を切ったことによる。みごとに功を奏して今期『監察医 朝顔」(以下『朝顔』)では14%台まで戻した。

■“視聴率の取れる3要素”が揃った月9の誕生

『朝顔』は、法医学者の主人公・朝顔(上野樹里)と刑事である父(時任三郎)が各々、殺人事件に挑むドラマ。原作漫画では、朝顔の母が阪神淡路大震災で亡くなっているが、ドラマ化に当たって、東日本大震災で行方不明という設定に変わった。

 主人公が「医療」、父親が「ミステリー」を担当し、そこにさらに父と娘の「ホームドラマ」の要素も入っている。「ホームドラマ」とは「朝ドラ」要素と言い換えていい。そう、『朝顔』は「医療」と「ミステリー」に「朝ドラ」といま、世帯視聴率のとれる要素を3つ盛り込んだ、アイスやハンバーガーの三段重ね、ガンダムで言ったら「ジェットストリームアタック」みたいなスペシャルなことを行っているのである。

 そもそも『朝顔』がはじまったとき、「朝ドラぽい」と言われていた。『朝顔』というタイトルも朝ドラにありそうだし(フジテレビには『昼顔』があるが)、なにより出演者がちょうど放送中の『なつぞら』に出演している山口智子、戸次重幸が重なっていた。さらに主人公の母は石田ひかり。山口と石田、二大朝ドラヒロインの出演だ。風間俊介は朝ドラ『純と愛』のヒロインの相手役だ。ただ出演者に関しては、最近の民放ドラマは高視聴率の朝ドラで視聴者に馴染みが深くなった出演者をそろえる傾向にあるので、これはさほど特別なことでもない。しかも、昨年(2018年)の朝ドラ『半分、青い。』が『ロングバケーション』の脚本家・北川悦吏子を起用し、恋愛色の濃い朝ドラを作り、ロンバケのパロディまでやっていたので、何か言われる筋合いはないというところであろう。ともあれ、出演者をそろえることよりも、朝ドラ的ホームドラマの気配を持ち込んだところに『朝顔』のやる気を感じるのだ。朝ドラ的ホームドラマの気配とは何か。

■朝ドラには必須の「嫁ぎの儀式」も

『朝顔』は東日本大震災で母が行方不明になって8年めの主人公・朝顔と父のふたり暮らしではじまり、中盤から朝顔の夫(風間俊介)が同居して、ひとり娘も誕生する。父娘のふたり暮らしのときから、ふたりが食卓に向き合いご飯を食べるシーンが多かった。そばには家族写真がたくさん飾ってあり、会話の話題は洗濯や掃除。この家の感じがザッツ昭和の家といった風情で、居間は当然、和室、その向こうが庭。それをわりとフラットなカメラアングルで撮る。これがもう朝ドラでよく見る構図なのである。この雰囲気だけで「よるの朝ドラ」と呼びたくなる。それだけではない。

万木家には、朝顔の幼少時代の写真や、平さん里子さんとの家族写真がたくさん飾られています??

撮影の合間にチビ朝顔ちゃんと大人朝顔さんが時空を越えてご対面しました〜?? #監察医朝顔 #月9 #上野樹里 #時任三郎 #第4話は明日放送 pic.twitter.com/tUMzMjVk7Q

? 【公式】「監察医朝顔」第8話 9/2 夜9時放送! (@asagao_2019) August 4, 2019

 のちに朝顔が嫁に行くとき、父親に涙しながらこれまで育ててもらったことを感謝する。これも朝ドラの基本パターンだ。朝ドラを研究した拙著『みんなの朝ドラ』で行った脚本家・大森寿美男のインタビューでも「嫁ぎの儀式は必須」と語られており、『なつぞら』でもなつ(広瀬すず)が白無垢姿で育ての祖父(草刈正雄)に「ありがとう」と涙ながらに挨拶していた。もちろん、それを毎シリーズ必ずやっているわけではないが、ヒロインが成長する過程で嫁ぎ、出産、育児するという流れがたいてい描かれるのが朝ドラである。

 通常、医療のエキスパート、事件解決のエキスパートの活躍を描くドラマは、主人公たちの日常(家庭)生活はあまり描かれない。それが『朝顔』では、医療や事件解決のエキスパートたちが次々と殺人事件を解決していくスリルもあるうえ、それを行っている人物の生活や家族の関わりも描かれることで視聴者がいっそう親しみやすい。

■もうひとつ重要な「朝ドラ感」とは?

 さらにもうひとつ重要な「朝ドラ感」がある。「日本人共通の喪失感」である。これまでの朝ドラは主人公が戦争体験をするものが多かった。一時期朝ドラが低迷していたときは、戦争の記憶を思い出したくないという声があった頃で、時を経て、戦争から距離を置いて喪失感の物語として受け止めることができるようになったことも朝ドラ低迷脱出の要因のひとつであると、前述の「みんなの朝ドラ」でドラマ部長(16年時点)の声を掲載した。

『朝顔』では「戦争」ではなく「東日本大震災」を描いた。震災が起こった11年から数年の間は、ドラマとして描くことも見ることにも遠慮があったが、8年経過したいま、未だ傷が癒えない方々もいるとはいえ、当事者でない者たちの記憶が徐々に薄れてしまうことへの警鐘も必要になってきた状況に伴い、震災を描く作品も増えてきた。朝顔の母はいまだに見つかっていず、父は現地に通い探し続け、朝顔は震災直前、「あとを頼むね」と言って別れた母のことが忘れられず、現地に足を向けることができない。8月26日放送の7話では震災のときの母の状況が少しだけわかった。

■朝ドラではできなかった、事件が起こる「よるの朝ドラ」

 いま、景気が悪く先が見えず元気のない日本人は、みんなで共通の哀しみを分かち合い、それでも明日に向かって生きていく希望がほしい。まるで、戦争、高度成長期を経て、明るい明日に向かって主婦が「朝ドラ」を見ていたように。朝ドラブームが頂点を極めた『あまちゃん』が東日本大震災の復興の祈りであったように。そんな気分に寄り添ったのが『監察医 朝顔』なのである。哀しみを抱えながらも強く生きている朝顔を演じる上野樹里と、彼女の代わりに自分が泣くような自己犠牲心たっぷりの夫を演じる風間俊介がいまの日本の気持ちを映し出している。

 以前、NHKのドラマ部長(16年当時)にインタビューしたとき、「主人公のお父さんが警察官で日夜事件が起きている朝ドラはいかがでしょうか」と聞いたら「月曜日に殺人事件が起きて『誰が犯人なんだろう』と思いながら土曜日まで過ごす時間はかなり長いと思います(笑)」と言われたことがあって、本家でやらなかった日々事件の起こる「よるの朝ドラ」を月9はやってのけたといえるだろう。90年〜00年代、日本の女性の欲望の写し鏡が朝ドラではなく月9であった、その時代を取り返すかのような快挙である。なんたって、主人公、その父、夫が公私ともに団結、家族で事件の真相を探るところが新しい。

(木俣 冬)

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