西武ザック・ニールはなぜ“優良外国人“へと変貌したのか?――日本とアメリカの“違い”を考える

西武ザック・ニールはなぜ“優良外国人“へと変貌したのか?――日本とアメリカの“違い”を考える

現在7連勝中の“優良外国人”ザック・ニール

 釧路で行われた8月27日の日本ハム戦で勝利し、西武の外国人投手では1994年の郭泰源以来25年ぶりとなる7連勝。辻発彦監督が「毎試合投げてほしい」(日刊ゲンダイDIGITALより)と話すなど、防御率リーグワーストの西武で右腕投手のザック・ニールが獅子奮迅の活躍を見せている。

「日本に来て本当に良かった。俺はプロダクティブなピッチャーになることができた。過去10年間は、そうではなかったからね」

 今年アメリカから来日したニールと対話すると、多くを学ぶことができる。

 4月は4試合で1勝1敗、防御率5.95で2軍降格して“ダメ外人”のレッテルを貼られかけたが、6月20日に昇格して以降は9試合で7勝、防御率2.87と今や超のつく“優良外国人”だ。なぜ、華麗な変身を遂げることができたのか。

■日本の野球に適応するには「時間が足りなかった」

「日本に来る外国人選手は全員、活躍できるだけの能力を持っています」

 スポーツ選手のマネジメントなどを手掛ける米オクタゴン社のアジア担当部長で、元巨人のマイルズ・マイコラス(現カージナルス)らを担当した長谷川嘉宣氏から聞いた言葉は、筆者が今年最もはっとさせられたものの一つだ。

 能力を持っているのに活躍できなかった一人に、2015年に西武に在籍した左腕投手のウェイド・ルブランがいる。8試合で2勝5敗、防御率4.23で6月以降は登板機会がなく、シーズン途中に契約解除された。

 ところが翌年アメリカ球界に復帰すると、17年にはパイレーツで50試合に登板し、18年マリナーズに移籍すると「大谷翔平キラー」として名を馳せたのだ。

 西武でルブランにもう少しチャンスが与えられていれば、果たしてどうなっていただろうか――。

 そう思うのは、4月まで苦しんだニールが6月以降にこれだけの活躍を見せているからだ。

「スプリングトレーニングで左足のハムストリングをケガした。寒い中で走っていたからね。左足のハムストリングをケガしたのは初めてのことだった」

 例年、アメリカ南部の常夏の地でスプリングトレーニングに臨んできたニールにとって、まだ寒い日が多い2月の宮崎県南郷町は、これまでと極端に異なる環境だ。西武にとってプリンスホテルのある南郷でキャンプを張るのは自然かもしれないが、外国人選手の立場に立てば、寒い地で身体をつくるのは難しい面がある。

 2010年のドラフトでマーリンズに指名されたニールは、1シーズンを通じてメジャーリーグでプレーしたのはアスレチックス時代の2016年しかない。それだけに、日本にかける意気込みには並々ならぬものがある。

「間違いなく言えるのは、日本の野球を学ばなければならない。それには適応する時間が必要だ。スプリングトレーニングでそうしようとベストを尽くしたが、時間が足りなかった。最初は自分の状態を上げていくことが優先され、バッターの特徴や、日本の試合はどのように進んでいくかを感じるのは後回しになった」

■グラウンドボーラーのニールが苦しんだ環境面の違い

 日本人投手がメジャー挑戦を果たすたび、決まって環境面の違いがクローズアップされる。特に大きいのはマウンドとボール、登板間隔の違いだ。まるで同じことが来日する外国人投手にも当てはまるが、メディアでこの点が注目されることは皆無に近い。首脳陣の配慮も足りないように感じる。

 一般的にメジャーと比べ、日本のマウンドは柔らかくて低い。この特徴は、ニールのようにボールを動かす投手にとってマイナスに働きかねない。

「日本の多くのピッチャーは体の前側を沈めながら投げるよね。でも俺の場合、質のいいシンカーとチェンジアップを投げるためには、身体の後ろ側を高く保っておく必要がある」

 ゴロを打たせてとるグラウンドボーラーのニールにとって、生命線はシンカー(ツーシームと形容されることが多いが、本人はシンカーと呼ぶ。球の質はほぼ同じ)とチェンジアップだ。両者とも打者の手元で沈むからゴロになりやすく、高いところから投げ下ろすことで効力を増す。逆に言えば、日本の柔らかいマウンドはニールの特徴を殺しかねない。

 環境面の違いに加え、ニールは春季キャンプで左足のハムストリングを痛めた。投げると痛みを感じ、フォームを微調整する必要があった。

「もともと俺の前足は強くないんだ。フロントサイド(前足側)の動きを変えて上半身の開きを少し早くした」

■アメリカでは中4日、日本では中6日 登板間隔の違いという障壁

 アメリカでは中4日、日本では中6日という登板間隔の違いも先発投手にとって障壁になる。

「アメリカでは次の登板までに何をしようかと、考える前に投げていた。日本では次の登板まで状態をシャープに維持しておくために、何をすべきか考えなければならない。そのルーティンを見つけるのに少し時間が必要だった」

 アメリカで中4日の場合、「ノースロー、ブルペン、ノースロー×2日」で次の登板に臨むのが一般的だ。対して中6日の日本では、登板した2日後に休むケースが多い。

 ニールは日本流を踏襲したが、2軍降格以降、先発翌日に休むようにした。

「先発した次の日に休むことで、次の登板までに5日続けて投げることができる。マウンドにもう1回多く行けるのは、メカニクス(投球動作における身体の使い方)とタイミングを調整できる点で大きい。俺のピッチングはその二つに支えられているからね。ブルペンでドリル(決まったメニュー)をやらなければ、それらが簡単に失われてしまう」

 現在、火曜の先発を任されるニールは1週間を以下のようにすごしている。

火:先発
水:オフ(六本木で友人と会うなど)
木:軽くキャッチボール
金:遠投
土:ブルペンでメカニクスのメニュー
日:ブルペン
月:軽くキャッチボール

 メカニクスやトレーニングの最新方法は、日本よりアメリカのほうが進んでいる。例えばニールが取り入れているメカニクスのメニューの一つに、「コア・ベロシティ・ベルト」(Core Velocity Belt)がある。

「ドジャースで去年やっていたんだ。腰に伸縮性のあるロープのようなものを巻き、軸足で立った状態でマウンドの下から引っ張ってもらう。そのときに俺はバランスを保たなければならない。そのドリルがとても役立っている」

 コア・ベロシティ・ベルトはアメリカで広まりつつあり、ニールはソフトバンク、日本ハム、楽天のトレーニングルームを借りた際に見かけたという(トレーニングに興味のある人はYouTubeなどで「Core Velocity Belt」で検索を)。

 ニールはアメリカから継続するトレーニングを行いつつ、日本人コーチにも積極的に助言を求めた。謙虚かつ貪欲な姿勢で、メカニクスを改良した。

■ニールがチームにもたらしている勝ち星以上のもの

 グラウンドボーラーのニールにとって、近年フライボール革命が全盛のアメリカ球界は、決して過ごしやすい場所ではなかった。

「バレル(打球角度30前後、時速158km以上の打球スピードで打つこと)への対策を考えないといけないから、攻め方が変わってくるんだ」

 思うように活躍できないまま30歳となり、一念発起して妻と来日すると「日出ずる国」で花開いた。

「日本でプレーしたことのある友人たちから、日本の文化や野球を経験するのがどんな財産になるのか聞いていた。素晴らしいファンがいると聞き、日本でプレーすることが夢だった。実際にそういう機会を得て、本当にエキサイティングな毎日を送っているよ」

 ニールのように、異国で人生が開ける者がいる。逆に、異なる環境にうまく馴染めず、持てる能力を発揮できずに去る者も少なくない。

 筆者はサッカーの中村俊輔を追って25歳から4年間スコットランドに住んだが、外国で暮らすのは決して容易ではない。渡英当初は英語がほぼできず、マンションを借りるのさえ大変だった。

 しかし徐々に慣れ、現地の友人ができて以降、未知の発見の連続である毎日がエキサイティングになった。英国生活無くして、スポーツライターとしての礎を築くことはできなかった。

 西武に限らず、各球団が外国人選手を獲得する場合、日本人とは異なる能力を評価して迎える場合がほとんどだろう。外国人選手が「郷に入れば郷に従う」のは必要な一方、受け入れる側は、異国に来る者たちをもう少し理解しようと努力すべきだ。たとえ能力があっても、異なる環境に適応するには一定の時間がかかる。4月や5月で「ダメ外人」のレッテルを貼るのは、球団にとって巨額の投資をドブに捨てるのと同じである。

 6月中旬以降、誰もが「ナイスガイ」と言うニールがもたらしているのは勝ち星だけではない。英語でコミュニケーションをとり、笑顔になる報道陣がたくさんいる。ニールが使うコア・ベロシティ・ベルトに興味を持ち、話をしている投手はどれほどいるだろうか。菊池雄星が親友のブライアン・ウルフから多くを学んだように、西武の投手陣にとって成長のチャンスが転がっている。

 ニールの勝利に喜ぶ者たちは、積み重ねているゴロアウトの背景にも目を向けてほしい。彼が西武や日本球界にもたらしているものは、とても大きな価値があるから――。

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(中島 大輔)

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