広瀬すずの接写から宮沢りえのヌードまで 篠山紀信の“目”が捉えた「顔でたどる日本現代史」

広瀬すずの接写から宮沢りえのヌードまで 篠山紀信の“目”が捉えた「顔でたどる日本現代史」

広瀬すずの接写から宮沢りえのヌードまで 篠山紀信の“目”が捉えた「顔でたどる日本現代史」の画像

 すでに「昭和」がけっこう遠い過去に感じられるほど、時代の移り変わりは激しくなる一方だけれど、ここに変わらぬものがひとつ。半世紀以上にもわたって日本の人、風景、出来事を平面上に留め続けている篠山紀信の写真である。

 稀代の写真家の営みを通覧できるのが、東京ドーム脇のGallery AaMOで始まった「篠山紀信展 写真力」だ。

■スターのポートレートで現代史をたどる

 会場を入るといきなり、大きく引き伸ばされた男性の顔のアップと正対することとなって、驚かされる。「寅さん」シリーズでおなじみ、渥美清である。あまりの迫力に思わず目を逸らすと、左右どちらの壁面にも女性を写した巨大な写真が掛けられていて、さらなる圧力に呆然となる。彼女たちとは、長寿で知られた「きんさんぎんさん」や夏目雅子、美空ひばりといった面々。なんとか歩を進めても行く先々に大原麗子、三島由紀夫、勝新太郎、田中角栄、高倉健……。ジャンルを超えた「時代の顔」が待ち構えていて、それぞれ強烈なオーラを発している。

 いったん写真が途切れて、ようやく開けた空間に抜け出たと思えば、その室にも人、人、人の顔が並んでいる。北野武や松井秀喜、Y.M.Oに広末涼子、指原莉乃、満島ひかりに広瀬すずと、時代を画する人物のオンパレード。極めつけは天井まで届きそうな、水着姿の山口百恵の写真か。いわば「顔でたどる日本現代史」といった趣である。

「人の顔っておもしろいでしょう? その時代の空気から自分史の細部まで、観る人にいろんなことを思い起こさせるものです」

 展示のオープンに先駆けて会場を訪れた、篠山紀信ご本人がそう言う。たしかにこの空間に身を置いていると、メディアを通してこれらスターたちと接してきた私たち一人ひとりが、そのとき何をしてどんなことを考えていたか、事細かに思い起こされる。篠山紀信の写真の一枚ずつが、「思い出再生装置」として機能する。

■時代の最前線を映し出してきた「目」

 展示はさらに続く。ぎゅうぎゅう詰めのとしまえんプールの様子を撮った大パノラマ写真。歌舞伎公演の名シーンを切り取ったシリーズ。宮沢りえやウラジミール・マラーホフの肉体美を写真に留めたもの。そして、東日本大震災の被災地にカメラを持ち込んで撮ったポートレート群……。

 世界はいろんな光景に満ちていて、かくも多様だったかと改めて思う。同時に、これらがひとりの人間によって撮られたものということは、当然ながらその写真家は、すべての現場に居合わせていたのだということにも気づき、愕然とする。これほどの長きにわたって時代の最前線に立ち、時代の証人であり続けていたのだ、篠山紀信は。

 20世紀以降の美術を切り拓いた画家ポール・セザンヌは、虚心に排し事物を徹底的に見て、世界のあるがままを描いた印象派の巨匠クロード・モネを称し、こう口走ったという。

「モネはただの『目』だ、しかしなんという『目』であることか!」

 同じ言葉を、日本写真界の巨匠にも投げかけたくなる。これほど多彩な光景に触れてきた篠山紀信の「目」は、なんという「目」であることか!

(山内 宏泰)

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