あちこちで「ぼっち」写真を撮られ……キアヌ・リーブスはなぜ「悲しげ」なのか

あちこちで「ぼっち」写真を撮られ……キアヌ・リーブスはなぜ「悲しげ」なのか

キアヌ・リーブス ©文藝春秋

なぜ全裸!? 「全米で最も住みたい街」で1万人の男女が“丸出し”で自転車に乗る理由 から続く

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■悲しげな表情で167人の敵にとどめを刺すキアヌ・リーブス

 全世界で26億ドルという映画史上第2位の興行収入を記録した驚異的ヒット作『アベンジャーズ/エンドゲーム』を全米トップの座から引きずり下ろしたのは、キアヌ・リーブス主演『ジョン・ウィック:パラベラム』だった。

 キアヌ扮する殺し屋ジョン・ウィックが、押し寄せる刺客を、ただひたすら殺しまくるだけのシリーズ第3作。いつもの通り、キアヌはスタントの9割を自分自身で演じたというが、その殺した数がものすごい。1作目では85人、2作目では119人殺したジョン・ウィックは、この3作目で、銃で124人、ナイフで32人、斧で1人、馬で3人、犬で3人、バイクで3人、そして図書館の本で1人。合計167人の敵を、決して手負いのまま放置したりせず、一人一人丁寧にきっちり、とどめを刺していく。

 これでジョン・ウィックは、『エルム街の悪夢』のフレディ(累計34人)、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス(87人)、『ハロウィン』のマイケル(140人)、『13日の金曜日』のジェイソン(157人)を超えて映画史上最凶の殺人者に輝いた。

 でも、ジョン・ウィックはちっとも凶悪に見えない。誰を殺すときもその表情は物憂げで悲しげ。余裕のあるときは死んでいく敵に優しく「また会おうね」と囁く。生きていても罪を重ねるだけの殺し屋を慈悲深く成仏させる聖人のようだ。さすが『リトル・ブッダ』でお釈迦様を演じたキアヌ。

■あちこちで「ぼっち」な姿を写真に撮られているキアヌ

 ジョン・ウィックがいつも悲しげなのは、1作目の冒頭で妻を病で失ってしまったからだが、キアヌ自身もいつも悲しげだ。

 2010年には公園のベンチで一人寂しくパンを食べる姿がパパラッチされた。その姿はコップのフチ子さん的なフィギュアとして発売された。

 それ以外にもキアヌはあちこちで「ぼっち」な姿を写真に撮られている。

 キアヌはかつては陽気な若者だった。『ビルとテッド』シリーズでは、友達役のアレックス・ウィンターと二人でバカな高校生を演じ、「オーサム(すげー)!」「エクセレーント(超すげー)!」と楽しそうに叫んでいた。

 でも、1993年、サンセット・ストリップにあるライブ・ハウス、バイパー・ルームでキアヌの親友、リバー・フェニックスが23歳で麻薬のオーバードースで亡くなった。その4年後、バイパー・ルームの裏の駐車場でキアヌがホームレスのおじさんと地面に座り込んでしんみり酒を酌み交わす姿が目撃された。

 1999年、『マトリックス』がメガヒット。恋人も妊娠して、幸福の絶頂に見えた。しかし、その年の暮れに長女は死産。いたわりあった恋人も1年ほど後に交通事故で帰らぬ人となった。ジョン・ウィックの悲しみは本物だったのだ。

 そして『マトリックス』の続編が2本まとめて作られた。キアヌは興行収益の数パーセント、金額で数十億円を受け取るはずだったが、それを放棄し、SFXやスタントなどの裏方さんにすべて分配した。彼にとって金などどうでもよかった。表舞台からしばらく消えて、白血病で死を宣告された妹の看病に専念した。

 妹さんは奇跡的に完治した。キアヌは感謝を込めて、ほとんど全財産をがん治療の研究財団と、小児がん患者の支援団体に寄付してしまった。

 ハリウッド・スターには珍しく豪邸も持たずにホテルに住み、運転手も持たないキアヌはバイクでハリウッドを走り回っていた。

「彼がいなければ今の私はなかった」

■通りがかりのライダーに「手伝うよ」声を掛けられ

 その頃、新人女優だったオクタヴィア・スペンサーはオンボロ車でチョイ役のオーディションに向かっていたが、エンジンが煙を吹き、道端で立ち往生した。オーディションに間に合わない! とオロオロしていると、通りがかりのライダーに声を掛けられた。

「手伝うよ」

 ライダーは車を路肩に押してどけると、スペンサーをバイクの後ろに乗せてオーディション会場に運んでくれた。ヘルメットを取ったその顔はキアヌだった。スペンサーは『ヘルプ 心をつなぐストーリー』(2012年)でアカデミー賞を獲得した後も、「彼がいなければ今の私はなかった」とキアヌの映画を毎回初日に観ているという。

 その他、地下鉄で女性に席を譲ったり、飛行機が緊急着陸したときに一般人と一緒に楽しげにバス移動したり、全米各地で善行を重ねるキアヌの姿が目撃された。

■「僕ら、死んだらどうなるんだろう?」

 そんなキアヌはコメディアンのスティーヴン・コルベアのトークショーで『ビルとテッド』の29年ぶりの続編出演について話した。「ビルとテッドが死ぬまでに宇宙を救う歌を作らなければならなくなる」ストーリーだそうだ。それを聞いたコルベアは「僕ら、死んだらどうなるんだろう?」と呟いた。キアヌは息を深く吐いてから静かに答えた。

「僕らを愛してくれてる人々が僕らを悼んでくれるよ」

 多くの愛する人を失ってきたキアヌの心からの言葉。いつもはジョークばかりのコルベアも思わず声をつまらせた。彼も10歳の時に飛行機事故で父と兄を失っているからだ。

 最近は、『スピード』(94年)で共演したサンドラ・ブロックが「本当はあなたが好きだったの」と告白したり、『ドラキュラ』(92年)で夫婦を演じたウィノナ・ライダーが「あなたとの結婚式シーンは本物の神父さんの前で誓ったから私たちは夫婦よ」と今頃になって言い出してるけど、もっと早く言ってやれよ!

[初出 週刊文春2019年6月27日号]

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(町山 智浩)

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