自家製ロケットで不時着して救急車……2019年に「地球平面説」支持者が増えている理由

米国で「地球平面説」支持者増加 地球平面説を信じるフラット・アーサーを追う映画も

記事まとめ

  • 地球のかたちは"球"ではなく"平面"だという地球平面説を信奉する人々が爆増している
  • アメリカで18〜24歳の18%が「地球を球体だと常に思ってきたわけではない」との調査も
  • 地球を平面だと信じるフラット・アーサーたちを追う映画がNetflixで配信されている

自家製ロケットで不時着して救急車……2019年に「地球平面説」支持者が増えている理由

自家製ロケットで不時着して救急車……2019年に「地球平面説」支持者が増えている理由

©iStock.com

地球」のかたちは「球」ではない……「平面」なのだ! 今、地球平面説を信奉する人々が爆増している。アメリカでは、18〜24歳の18%が「地球を球体だと常に思ってきたわけではない」とする調査も出るほどだ。有名バスケット・ボール選手が地球平面説支持を表明したこともあり、授業で球体説を教えて反発を受ける科学教師の悩みも報告されている。

■地球平面説を信じる者の言い分とは

 Netflixで配信されている『ビハインド・ザ・カーブ?─地球平面説─』は、地球を平面だと信じるフラット・アーサー(Flat Earther)を追うドキュメンタリー映画だ。ここで紹介されるメジャーな地球平面説は「ドーム説」。パンケーキのような平らな地球がドームに覆われている状態を想像してほしい。陸地の終点の南極は高い氷壁に囲まれているそうなので、スノードームのようだとも言える。「ドーム説」を信じるフラット・アーサーたちは学校で教えられる「球体説」および「地動説」をNASAや政府が流した嘘と断じる。

 ここで一度、学校で教わることを復習しよう:地球は球体であり、おおよそ時速1,700キロメートルで1日1回転している。フラット・アーサーたちはこれに疑問を呈してゆく。単純に、自分の視界では世界は平らに見える。我々が立つ土地が銃弾よりも速く回っているなんて信じられるだろうか? 海辺や湖では、遠くの景色が見えることがある。本当に我々の惑星がカーブしているなら、見えないはずではないのか?

 まぁ、これらの理由も学校で教わるはずだが、平面説の支持者は間違いを指摘してくる専門家を嘲笑する。「数字を出してくる科学者の負け。地球が平らなことは見ればわかる」と。

■Facebookで20万人以上が加入している「地球平面協会」

 フラット・アーサーたちの主張は荒唐無稽のように思えるが、彼らの勢力の拡大はとどまるところを知らない。Facebookで20万人以上の加入者を誇る地球平面説協会は、イギリスやカナダで国際会議を開催するどころか、南極を目指すクルーズ・ツアーまで行う見込みだ。その規模ゆえに、支持者同士の内紛や色恋が勃発するさまもドキュメンタリーに収録されている。

 たとえば、平面説コミュニティにおいて人気者のパトリシアはCIAの手先だという疑いをかけられる。根拠は名前(PATRICIA)の最後にその3文字が入っているから。陰謀論コミュニティでは、日々新たな陰謀論が再生産されているのだ。誹謗中傷と戦う彼女は「アンチはデマを流してる認識はあるの?」と批判する。それは科学者たちが彼女に言いたいことかもしれないが……。

■米国人の40%は進化論を信じていない

 なぜ、21世紀に地球平面説が大人気になっているのだろうか? アメリカの場合、宗教の問題もある。ドキュメンタリーにも登場するが、聖書の記述を重んじて紀元前や恐竜の存在を肯定しないキリスト教福音派の数は未だ多い(2019年ギャラップ調査では米国人の40%が進化論を信じていない)。

 一方、コミュニティ拡大に寄与したのはインターネットである。地球平面説協会の国際会議で行われた調査では、ほぼ全員がYouTubeをきっかけにしてフラット・アーサーになっていた。彼らはそれ以前にも9.11やケネディ暗殺などの陰謀論動画を視聴していたため、YouTubeから「おすすめ」されるかたちで平面説に出会ったのだ。

『ビハインド・ザ・カーブ』では、難しそうな図や数式を提示するYouTube動画によって陰謀論を信じてしまう人々について「ダニング=クルーガー効果」が紹介されている。能力の低い人ほど己の能力不足を認識できず自信過剰になってしまう認知バイアスなのだという。

 一方、『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』では、高学歴の人ほど自身の考えを補強する情報ばかり集めて極端な思考になっていく「賢い愚か者効果」が解説されている。同書によると、地球平面説の支持者は「自分は一般の人よりも論理的である」と考える傾向が強かったという。

■無害に見える「地球平面説」の有害な一面

 無害に思える地球平面説だが、「反科学」陰謀論であることに変わりはない。フラット・アーサーたちのコミュニティでは、ほかの陰謀論を信じる者も多いと報告されている。その一つとして、実害をもたらす「反ワクチン」が挙げられる。近年、アメリカではソーシャルメディアを介した「反ワクチン」説の流行によって撲滅されたはずの麻疹の症例が増えており、ニューヨーク市の一部地域ではワクチン接種が義務化された。これに関しては日本も例外ではない。昨今では「反ワクチン」を推奨するような人気芸能人も見られており、NHKが注意を呼びかける特集を放送している。

 もちろん、アメリカでフラット・アーサーはまだまだマイノリティだ。信条を明かすとデートもままならない為、彼ら専用の出会い系サービスまで運営されている。『ビハインド・ザ・カーブ』には、平面説を支持した結果、家族との縁を切った人々も登場する。こうした孤立も根深い問題だ。社会から疎外されて仲間としか接しなくなると、いざその考えを捨てたとき、友人を失い、孤独になってしまう。そのため、陰謀論コミュニティから離れづらくなってしまうのだ。

■反科学の人々が求めるのは「信頼」と「共感」か

「反科学」デマを追う『ルポ 人は科学が苦手?アメリカ「科学不信」の現場から』の著者・三井誠氏は、「科学コミュニケーション」の重要性を説く。かつて紀元前に地球球体説を説いたアリストテレスは、演説に大切な三要素として「ロゴス(論理)」「エトス(信頼)」「パトス(共感)」を挙げた。人々を説得する際、エビデンスや事実だけでは十分ではない。三井氏は、近代科学を広める人々が「論理」に頼りすぎて「信頼」と「共感」のコミュニケーションに失敗した可能性を指摘している。結局のところ、「反科学」旋風の対策は、専門家がインターネット等で知識を魅力的に伝えることなのかもしれない。

 地球平面説の実証に取り組むフラット・アーサーたちは魅力的な発信を成し遂げている。彼らの活動場所はインターネットだけではない。

 2018年には、60代のフラット・アーサーが独学によってロケットを開発し、カリフォルニアの上空570メートルほど飛んだところで不時着して救急隊に運ばれている。『ビハインド・ザ・カーブ』では、フラット・アーサーたちが「地球平面説」を証明するために手の込んだ実験をおこなうことによって、逆に「球体説」を立証してしまう悲劇も映された。

 皮肉なのは、熱心に仮説を証明しようとするその光景にこそ、彼らが忌み嫌う科学の魅力が詰まっているところだろうか。

(辰巳JUNK)

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