【ヤクルト】歴史的惨敗の年でも……寺島成輝のデビュー登板は唯一の希望の光だ

【ヤクルト】歴史的惨敗の年でも……寺島成輝のデビュー登板は唯一の希望の光だ

©時事通信社

■辛いことの多かった一年の最後に差し込む希望の光

 歴史的惨敗の一年――もしも、ヤクルトヒストリーを編纂するとしたら、後のプロ野球研究家は「2017年」という年を、このように総括することだろう。故障者が相次ぎ、満足にスタメンを組むこともできなかった。前半戦だけで10連敗、そして14連敗を喫し、8月22日には、2年前に就任初年度でチームを優勝に導いた真中満監督が「今シーズン限りでの退任」を発表した。それでもチームは勢いに乗れず、早々に最下位が確定。さらに90敗に到達、国鉄スワローズ時代に記録したチーム最多敗戦の94敗も現実のものとなろうとしている……。

 何もいいことがなかった17年シーズンだった。辛いことばかりの一年だった。……しかし、シーズン終盤になってほんの少しだけ希望の光が差し込もうとしている。すでに退任を決めている真中監督は、報道陣に対して、「来年を見据えた戦いをしたい」と語り、「一軍経験があれば秋のキャンプのモチベーションも変わるはず」と、昨年のドラフト1位・寺島成輝の一軍先発デビューを示唆したのだ。しかも、本拠地神宮でのデビューを!

 あの寺島だよ、寺島が神宮デビューを果たすんだよ! 報道によれば9月30日、10月1日の対中日2連戦での先発登板が濃厚だという。広島の優勝が決まり、シーズン最終盤の6位と5位の対決だけど、ぜひ多くの人たちに神宮に駆けつけてほしい。だって、あの寺島だよ、寺島が神宮デビューを果たすんだよ!

 寺島成輝――16年夏、履正社高校3年時に夏の甲子園に出場。チームは3回戦で敗れたものの、それでも最速150キロのストレートを武器に「高校ナンバーワン左腕」としてドラフト1位でヤクルトに入団。今年のキャンプでは高卒ルーキーながら一軍帯同を許された。しかし、沖縄・浦添キャンプ中に左内転筋の筋膜炎でリタイア。この時点で「開幕一軍」は夢と消えた。

 こうして、二軍で調整する日々が続いた。4月29日にファームデビューを果たしたものの、その後は左ひじ痛にも苦しめられ、しばらくの間はマウンドに上がることはなかった。ようやく復帰登板が実現したのは真中監督退任が発表される3日前の8月19日。続いて、翌週の24日に登板。さらに、9月5日、西武第二球場で行われたイースタンリーグ・西武対ヤクルト戦では、いきなり初回にこの日四番に入ったおかわり君こと中村剛也に左中間へ満塁弾を食らい、二軍とはいえプロ初黒星を喫してしまった。プロ初失点がおかわり君の満塁弾。いいじゃないか、いかにも「伝説の幕開け」っぽくて。

 続いて、13日には5回を投げて被安打2、1失点(自責点0)、球数は85。そして22日には同じく5回を投げて1失点、球数は99。着々と準備を重ね、満を持して寺島が神宮デビューを果たすのだ。何もいいことがなかった一年だからこそ、僕は寺島の快投に期待したい。一瞬でもいいから、「でも、2017年のヤクルトは寺島のプロ初勝利があった年なんだよ」と、今年一年を明るく振り返りたいのだ。僕らヤクルトファンに残された唯一の希望の光、それが寺島成輝なのだ。

■伊藤智仁コーチに軽口をたたく黄金ルーキー

 あれは、2月の沖縄・浦添キャンプのことだった。ある日の練習終了後、伊藤智仁ピッチングコーチのインタビューをしていると、寺島の話題になった。伊藤は言う。

「寺島クンは、さすがにいいものを持っていますよ。《即戦力》とは言わないけれど、じっくり育てれば面白い存在になるのは確かです」

 それまで、「今の投手にもう少し野蛮さがほしい」と伊藤コーチは話していた。それは、ヤクルト投手陣は、性格的に大人しく優しい選手が多いという文脈での発言だった。しかし、寺島に関しては、この時点ですでに「ふてぶてしいヤツ」と絶賛していた。

「寺島クンは、なかなかふてぶてしいヤツですよ。ブルペンでの面構えを見ていてもわかるでしょ? だって、新人合同自主トレのときに、すでに手を抜くことを覚えていましたからね(笑)」

 キャンプイン前の1月の新人合同自主トレを視察したときのことだった。ランニング主体の練習が続く中で、要所要所で寺島が力を抜いているのがわかったという。

「さっき、力抜いて走ってたやろ?」と尋ねると、寺島は堂々と「はい」と答えたという。

「新人で、これだけ注目されていて、なかなかできることじゃないですよ」

 伊藤は嬉しそうに笑った。さらに、こんなエピソードも教えてくれた。キャンプ時期のフォーム固めの一環として、バドミントンのラケットを使ったシャドウピッチングをさせてみようと伊藤コーチは考えた。しかし、キャンプ地にはラケットは持ってきていなかった。ちょうど、翌日は練習休養日だった。伊藤は言う。

「たまたま翌日が休みだったので、散歩を兼ねて買いに行くことにしました。それで、寺島クンに、“明日、バドミントンのラケット買ってくるよ”って言ったら、彼、僕に何て言ったと思います?」

 伊藤の口元から、白い歯がこぼれる。

「アイツ、僕に向かって、“じゃあ、ヨネックスでお願いします!”って言ったんですよ。コーチ自らラケットを買いに行くって聞いたら、“ありがとうございます”とか、“わざわざすいません”って言うじゃないですか。それなのに彼はラケットのメーカーの指定をするんですよ。並のルーキーじゃないですよ(笑)」

 そして翌日、伊藤は寺島の指定通りにヨネックスのラケットを買って来たのだった。それまで何度も、伊藤に話を聞いていたけれど、寺島とのこのやり取りを聞いて、「いかにも伊藤コーチが好きなタイプの選手だな」と思った。思えば伊藤自身も、ルーキーだった93年のユマキャンプで、当時の野村克也監督に「ご自慢のスライダーを見せてくれ」と頼まれたときに、平然とこんな言葉を吐いた。

「いや、今はまだスライダーを投げる時期じゃないので、今日は投げません。スライダーならば、いつでもストライクは取れますから大丈夫です」

 この言葉を聞いて、ノムさんは驚くと同時に「頼もしいヤツや」と感じたという。自分と似たようなふてぶてしさを誇る寺島に、伊藤が期待するのも当然のことなのかもしれない。

 さぁ、全国のヤクルトファンのみなさん! 辛い一年だったからこそ、最後の最後に希望の光を浴びて有終の美を飾ろうではありませんか! 来季に向けての希望の星。寺島成輝のプロデビュー戦をみんなで見届けようではありませんか! この一戦に、僕は2017年のすべてをかけているのです。辛かった一年を忘れさせてくれる、ゴールデンルーキーの黄金の左腕に、僕は夢を見たいのです。希望の光を感じたいのです。さぁ、神宮へ行こう!

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(長谷川 晶一)

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