30歳で自己最速を更新 広島・中村恭平はなぜ156キロを出せたのか

30歳で自己最速を更新 広島・中村恭平はなぜ156キロを出せたのか

9年目のシーズン、43試合に登板してリリーフ陣を支えた中村恭平 ©時事通信社

 タイガース怒涛の6連勝でカープのシーズンは幕を閉じた。丸佳浩のFA移籍から始まって、ブラッド・エルドレッドの引退や、長くチームを支えた、永川勝浩や赤松真人の引退もあった。V奪回へ、戦力の立て直しは急務である。しかし、新戦力や外国人選手の獲得ばかりが補強ではない。チームのポテンシャルは、個々の選手の中にこそ眠っている。それは、きれいごとや精神論ではない。科学を知り尽くした男が、心から考えていることである。

 著書累計70万部、ジャイロボールやシンクロ打法など、科学的な見地に基づいて選手をサポートするパフォーマンスコーディネーターの手塚一志さんの話に耳を傾けたい。黒田博樹氏や新井貴浩氏のサポートから始まり、現在はオフを中心にカープ選手13名をバックアップ。そのメンバーの熱く純粋な人柄に惹かれ、広島へも工房を新規に展開した男の、科学的でハートフルな「カープ論」である。

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 僕は、個々の選手がパフォーマンスを向上させることが、チーム力につながっていくという考えです。今年は13名のカープの選手をサポートさせていただいて、飛躍的に進化した選手もいます。

 例えば、中村恭平投手です。昨シーズンは球速も140キロ台と苦しんでいましたが、今年、30歳にして自己最速を更新です。これまでは153キロがMAXだったのが、ついに156キロをマークしました。ここにヒントがあると思います。

■約400の筋肉をいかにして操るか

 野球選手である彼らは、我々が思っているよりスーパーマンなのです。彼らは選ばれし者です。そもそもが、力でねじ伏せて他を圧倒してきました。ただ、スーパーマンであるがゆえに、理に適った体の操り方が抜け落ちていることがあります。

 プロ野球に入れば、上には上がいる。即戦力のはずが、力で相手をねじ伏せられず、迷いが生じるようになっていくのです。身のこなし、体の操り方、これらを見詰めなおすことのないまま、勝ち続けた人たちであるだけに、逆サイクルに陥ると、パフォーマンスを大きく落としてしまうのです。

 中村投手は、体の操り方を見直すことで、156キロの球を投げられるようになり、43試合に登板、まさにチームのために機能しました。このように、スーパーマンである彼らが体の操り方に目覚めることで、1人、また1人と戦力となっていく。こうなっていくと、2020年は、再び、しっかり戦えるはずだと思います。主力が移籍や引退で抜けても、「第2の中村恭平」がいるはずです。

 ちょっとしたポイントです。力むことと、ボールに力を伝えることは、似ているようで、真逆。力を入れないと156キロはでませんが、力んでしまうと、むしろ逆効果になってしまいます。人間の体には約400もの筋肉があります。それを、可能な限り緩めながら、一瞬に集めることができるか。これができれば156キロなのです。

■新たな156キロの可能性を持つ選手はまだいる

 カープには身体能力の高い選手がたくさんいます。しかも、真面目で一生懸命な性格の選手が多いです。

 黒田さんだって、最初は、ある雑誌の広告を見て、私にアプローチしてきてくれました。そんな人たちだからこそ、我々のサポートが役に立つこともあったのだと思います。黒田さんは常にチャンレンジ精神旺盛で、自分が成長するためには何でも取り入れる人でした。大瀬良大地投手も、勤勉で、前向きで吸収力の高い選手です。

 チームには、新たな156キロの可能性を持つ選手がいるはずです。みんな、スーパーマンですから。そこに、強くなる可能性が眠っていると思います。

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 移籍、新入団、首脳陣人事……そんな話題が飛び交う秋だからこそ、もう一度、選ばれしトップアスリートの可能性に目を向けたい。それが、チームを応援する愛着につながっていくかもしれない。スポーツと科学を知る男だからこそ、無限の可能性と夢を語ることができるのだ。

 こうやって野球を見ると、秋季キャンプも面白い。自主トレーニングも面白い。そして、次なるシーズン、何が起こるのか、誰がブレイクするのか、どんなペナントレースになっていくのか、見通すことなんて簡単にはできない。ひとつの意識が、ひとつの出会いが、約400の筋肉の操り方を変えていく。そして、30歳の156キロが生まれる。だから、野球は面白い。

構成/坂上俊次

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(手塚 一志)

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