元ベイスターズ・須田幸太「あのCSの記憶」――スイッチが入ったのは三浦大輔の引退試合だった

元ベイスターズ・須田幸太「あのCSの記憶」――スイッチが入ったのは三浦大輔の引退試合だった

元ベイスターズの須田幸太。現在はJFE東日本のエースとして今年の都市対抗優勝に貢献 ©文藝春秋

 今年の開幕戦をTVKの解説で呼んでいただいて、放送席から観ていました。今年は今永が間違いなく活躍するなというのは、あの試合を観ただけですが感じて。ただ、完全に個人の意見ですが、不安があるとしたら中継ぎ2年目の三嶋、あと国吉あたりがどこまでできるか。それが未知数だし、カギを握る部分でもあるなと思いました。あの日は8回まで今永が投げて、ヤス(山ア)がしめて、ベイスターズにとってはこれ以上ないベストな形で勝てたと思います。

「これから色んなことがあって、最終戦を迎えるんだろうな」とあの日は……3月29日は試合を観てました。残念ながら優勝はできなかったんですけど、でも2位になって、CSをハマスタで開催できるというのは、私からしたらほんと羨ましいんです。

■三浦さんの引退試合でスイッチが入ってしまったんです

 ベイスターズ初めてのCS、2016年のCS前に、私は怪我をしました。肉離れでした。その日、木塚コーチに「今年お疲れ」って言われて、ポロポロ泣いちゃって。やっと、やっとCS出れたのに、私だけ終わってしまった。歩けなかったんです、その日は。ああ無理なんだなと思いました。GMからも「よくやった。お疲れ。よく休め」って労われて。

 その年の9月29日、ずっとベイスターズを引っ張り続けてくれていた三浦さんの引退試合が行われました。私はバックネットでそれを見ていました。あの日のハマスタはすごかった。周りの人の熱気とか、三浦さんがマウンドから降りていく時、お客さんは総立ちで拍手して、泣いて。それを観ながら思ったんです。やっぱり、あそこに戻りたいなって。

 すごい変化を見てきました。2011年に入団してから辞める日まで。4、5年前からファンになった人には、ちょっと想像もつかないような変化がありました。「予告先発・須田」って発表されただけで、ハマスタに人が入らなくなるんです。平日は1万人いかないんじゃないかな。7000人とか8000人とかの中でやっていて、野次もすごい。お客さんはワンブロック貸し切りみたいな状況、今では信じられないですよね。

 2015年くらいから動員数が増えてきて。応援が一つになっていく感じ、ベイスターズファンが、一体となる感じがすごく伝わってきました。お祭りみたいじゃないですか、毎日が。点取ったらバカ騒ぎして。打たれたらハァってなって。143試合中の半分がお祭りだって私は思ってました。大勢の人に見られながらプレイができる、そのことを生きがいにしながら。野球をやっててよかったなって思ったし。たぶん横浜じゃなかったらそのことに気づけなかったかもしれない。

 あの三浦さんの引退試合でスイッチが入ってしまったんです。とにかくやらなきゃ、間に合わなくてもいいから調整しようと。

■なんだ、この俺を待っててくれた感はって

 そこからは治すことだけを第一に考える日々。キャッチボールはできたので、キャッチボールしながら肩は休ませないで。色々な方に助けてもらいました。肉離れ専門の先生のところに通い、毎日スーパー銭湯で交代浴をしたり。10月の8日か9日だったと思う、MRIを撮って、最終判断をドクターに仰ぎました。はっきり憶えてます。チームドクターの山ア(哲也)先生が「止めない」と。「俺が責任を持つ」と。これはもうやるしかないと思いました。チームドクターにここまで言わせてしまったんだから、絶対に怪我せずに結果を残すしかないって。

 ただ時間はありません。フェニックスリーグで調整する案も出ましたが、それじゃ間に合わない。全部すっ飛ばしての、ぶっつけ本番でした。13日にはもう広島に向かって、14日からチームに合流して。

 あのCSファイナル第3戦、投げることは決まっていたものの、でもだいぶ後回しにはされてたと思います。井納が7回まで頑張ってくれて、あぁ今日は出番ないなぁぐらいで待ってた。でも三上が打たれて、(田中)健二朗が出てくらいで私はスイッチを入れました。

「満塁か」と、あの時はたぶん私が一番思ってました。でも、みんなはピンチだと思ってるけど、こっち的には一番おいしい場面かなとも思っていました。なんだ、この俺を待っててくれた感はって。三上から健二朗に代わった時に電話がかかってきて「丸を出したら行くぞ」って。私は「はい」って答えていました。

■戸柱に「オールまっすぐでいきます」って言われて

 マウンドに行った時はまだ緊張しなかった。だけどキャッチャーのトバ(戸柱)に「オールまっすぐでいきます」って言われて、一気に緊張が……。「まっすぐしか投げないですよ」「これで打たれたら別にいいっす」だって。今思えば、あの時そう言われなかったら逆に迷いが生じて、腕が振れなかったかもしれない。ああ言ってくれて腹が決まったんです。

 新井さんを抑えた瞬間のことは、ほとんど覚えていなくて。気づいたらガッツポーズしてました。カジ(梶谷)がそこまで重症だって知らなかったんです。カジはあの打球に飛び込んで、手、当たったんですよ。左手の薬指をフェンスに強打した。相当痛かったと思う。痛いなんてもんじゃなかったかもしれない。チームメイトは私を含めて皆、満身創痍でした。でもそれぐらいの価値がありました。あのCSには。

■CSのラッキーボーイとして期待したい選手

 選手同士がいつでも仲良い訳じゃない。プロになるやつなんて大体我が強いんです。ピッチャーなんか特にそうで、三上も国吉も健二朗も、俺が俺がです(笑)。「お前ら後輩なのに何言ってるんだ」「チームが負けない程度に打たれろ」って思ったこともありますよ、正直。合わなかったら1年喋らないこととかもあったし。ライバルですから。そうなんですけど、その中でもやっぱりチームとして野球をやるとなると、不思議とまとまる。

 野手との付き合いの方がもっとリラックスしてて、仲が良かったのは(石川)雄洋と、ヒロ(白崎)。あとは山下幸輝とか飛雄馬とか、二軍で一緒に練習やってたやつら。行きつけの美容室がベイスターズの選手がめっちゃ来てるところで、この間行ったら京山いたし、(関根)大気もいるし。美容師さんもベイスターズファンで、そこで話聞いたりして、なんだかんだで繋がっていますね。

 ファンの方から見たら、いつまでも選手同士仲良くあって欲しいって思うかもしれないけど、選手目線で見たら私はもういない人。自分の職場で考えたらそうでしょう。送別会はやるけど、いつまでもその人のこと考えてるわけじゃないですし。私も、みんなも。あ、でも都市対抗優勝した時は、たくさん連絡もらいました。基本的に社会人出のやつは、都市対抗優勝がどれだけすごいことか知ってる。倉本からも珍しくLINEきましたね(笑)。

 CSという短期決戦にはラッキーボーイが必要です。あるとしたらピッチャーは今永で、中継ぎだったら三嶋。ヤスは心配してないので。バッターは期待を込めてカジ。筒香、ソト、ロペス、宮崎の4人は打てると思うので、ピンチになったら誰が助けてくれるかって言ったら、やっぱりカジかな。カジとは……昔仲良かったんですけど、引っ越しちゃってからはあまり飲まなくなった。あいつも1億円プレーヤーになったので、誘いづらくなっちゃって(笑)。年俸高い人と行く時って、どっちが払う問題が出てくるから。後輩なのにいっぱいもってるじゃんっていう。あっちも遠慮しないで「いや僕出しますよ」って言ってくれるのもあるし。結局は先輩が払うんですけどね。落ち着いたら、また飲みたいなぁ。

(構成/西澤千央)

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(須田 幸太)

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