室町時代に怨霊、呪術を投入した皆川博子。伝奇小説の金字塔――究極の徹夜本!

室町時代に怨霊、呪術を投入した皆川博子。伝奇小説の金字塔――究極の徹夜本!

河出文庫 上巻1200円+税 下巻1300円+税

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。

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 戦国時代や幕末と比べ人気が低い室町時代だが、応仁の乱に関する研究書が四十万部超のベストセラーになり、多少は注目度が上がりつつある。皆川博子『妖櫻記』がこのタイミングで復刊されたのも何かの縁だろうか。

 本作は、応仁の乱に先立つ三つの事件――一四四一年の嘉吉の乱、一四四三年の禁闕(きんけつ)の変、一四五七年の長禄の変――を背景とする物語だ。六代将軍・足利義教の暗殺により世は乱れ、南朝の勢力はこれを好機として北朝と足利幕府の天下を覆すべく策動する。南朝皇胤の美少年・阿麻丸は、この激動の時代に翻弄されながら成長してゆく。

 ここで著者が試みたのは、山東京伝の読本『桜姫全伝曙草紙』の登場人物を、室町中期の史実の世界に引きずり込むというものだ。当時の出来事や政治情勢を細かく押さえながらも、物語の進展には怨霊や呪法といった伝奇的要素が濃密に絡み、美醜正邪は目まぐるしく変転する。

 主人公ながらどちらかといえば受動的・内向的な性質の阿麻丸に対し、彼の陰画のような悪党・百合王、残虐な悪女・野分、南朝再興のため手段を選ばぬ楠正秀ら他の主要人物は、よくも悪くもおのれの欲望に忠実で、作中で奪われる命の夥(おびただ)しさに張り合うかのようにギラギラした生命力に満ち、室町という異形の時代ならではの蠱惑(こわく)を発散する。

 著者自身が作中に顔を出し、登場人物を血液型で分類してみたり、思うように動いてくれない阿麻丸に慨嘆したりする奔放さも含め、昂揚感溢れる筆の運びは著者の作品群の中でも図抜けている。四半世紀ほど前「週刊文春」に連載されたこの伝奇小説の金字塔、今の読者にも強くお薦めしたい。(百)

(徹夜本研究会)

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