【ヤクルト】宮本慎也の「厳しさ」が生んだ青木宣親との衝突

【ヤクルト】宮本慎也の「厳しさ」が生んだ青木宣親との衝突

©文藝春秋

来季、ヤクルトのコーチ就任が伝えられる宮本慎也氏のインタビュー。後編は青木宣親との“衝突”の話から、宮本氏のスワローズ論に迫る。※前編はこちら 「来季コーチ就任? 宮本慎也が引退会見で「未来は明るくない」と語ったワケ」 http://bunshun.jp/articles/-/4295

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■2009年、青木宣親との衝突

 宮本さんにはもう一つ聞きたいことがあった。引退後に発売された彼の著作『意識力』(PHP新書)には、09年の試合中、青木宣親と宮本さんが激しく口論する場面が登場する。以下、引用する。

《思い出すのは、二〇〇九年の青木宣親とのやり取りである。クライマックスシリーズ進出をかけて、三位争いをしている最中だった。青木自身の打撃の調子が下降線をたどるなかで、守備でもミスが続いていた。チームの主力である青木はやり玉に挙げられることも多かった。そんななか、ある試合でセンターを守っていた青木の打球へのチャージが遅く、単打で済むはずが、先頭打者を二塁まで進めてしまったことがあった。

 試合中に外野守備・走塁コーチだった飯田哲也さんが青木のミスを指摘したのだが、青木が「そんなことは分かっていますよ」と、反抗した態度を取ってしまった。

 コーチである飯田さんも引くわけにはいかず、激しい口論になった。

「宮本さん、なんとかしてください」

 他の若い選手に言われた私も仲裁に入ったのだが、「いい加減にしろ」と言った私に対して青木は「なんなんですか」と言い返してきた。

 リーダーとしては恥ずかしいことだが、私も性格的にすぐカッとなってしまうタイプである。「なんやと」と一触即発の雰囲気になり、慌てた周りの選手が制止する事態になってしまった。》

 結局、この日の試合後に頭を冷やした青木が謝罪することで一件落着するのだが、当時、僕も青木のインタビューをした際に、宮本さんについて言及する言葉の端々に棘があることが気になっていた。

――あの本に書かれていた当時、青木さんとの関係は難しかったのですか?

「あれは、彼がちょっとひどかったと思います(笑)。僕の引退試合を見に来てもらって、その後に久しぶりに食事をしたんですけど、“あの頃の僕は病んでいました”って、自分でも反省していましたね。“あれは今でも後悔しています”と言っていたので、あの件に関してはもう何も思っていないです」

――あの当時、青木選手にインタビューをしても、「宮本さんには宮本さんの考えがあるだろうけど、僕には僕の考えもありますから」とか、「誰もが宮本さんのような考えで野球をやっているわけではないんで」とか、両者の関係性が心配だったこともありました。

「青木の場合は、ヒットを打つことに貪欲な選手で、僕もその気持ちを理解してあげることができていたらよかったんですけどね。でも、あれだけの選手だったら、自分のことよりも、まずは《チーム第一》という姿勢がほしかったのも事実です。あの当時は、彼は彼で実績を上げて反発したい気持ちも出ていただろうし、僕は僕で“勝ちたい”という気持ちから彼に厳しく当たってしまった。あのときはうまくいかなかったかもしれないですけど、お互いに今では理解できたのでよかったです。アメリカでプレーしている青木は、ヤクルト時代よりもいい顔をしていると思います。僕にとっても、いろいろなアプローチ方法があるんだと、いい勉強になりましたから」

 近い将来、宮本監督、青木打撃コーチによるヤクルトが誕生すれば、神宮に通う頻度はますます増すことだろう。同級生の真中満監督の長期政権を見たいという思い。そして、同じく同級生の宮本監督の采配を見たいという思い。ファンとは、何と贅沢でアンビバレンツな思いを抱く生き物なのか。しかし、真中監督は今季限りでユニフォームを脱ぐ。僕にとっての次の希望は「宮本慎也監督」就任なのだ。

■最低限の「厳しさ」を忘れてはいけない

 拙著『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)において、僕は「ヤクルトらしさとは何か?」をテーマに取材を続けた。すでに多くの人に指摘されているように、ヤクルトには長年の「ファミリー体質」が存在する。それはメリットも多いのだけれど、どうしても「甘さ」「緩さ」を生み出すというデメリットもある。この点について、「ミスター厳格」宮本さんに質問をする。

――ヤクルトの魅力である「ファミリー体質」はどうしても「緩さ」を生み出しがちですが、「緩さと厳しさ」のバランスはどうしたらいいと思いますか?

「確かに、ヤクルトのチームカラーは《ファミリー》と言われるだけあって、明るく溶け込みやすいんですけど、間違いなく《緩さ》もありますよね。でも、強いときというのは《緩さと厳しさ》のバランスがとれていて、メリハリがありました。それが一番大変だったのが、08年でした。あのときは誰にも相談できずに辛い時期でしたね。そういう意味では、野球観が近い相川(亮二)が、09年にヤクルトにFA移籍してくれたのは、僕にとっては非常に大きかったですね」

――ゆとり世代ではないけれど、これからの若手選手との接し方というのは、また新たなアプローチが必要になるかもしれないですね。

「そうですね。時代によって、考え方が変わっていくのは当然でしょうね。でも、大先輩方が築き上げてきたものは取っ払ってしまってはいけないと思うんです。“昔の考え方は古い”というのではなく、いい部分はきちんと残さなければいけないし、守っていかないと。それが、最低限の《厳しさ》だと思うんです」

 この発言を聞いていて、僕は改めて「自分がどうして宮本慎也に惹かれるのか」を理解していた。「時代錯誤だ」「古い考えだ」と言われようとも、たとえ古くとも、現代まで続いてきたものにはそれなりの理由があるのだ。「明るく楽しいアットホームな野球」、そこに「厳しさ」が加味されたときに、本当の強さが宿り、「本当のファミリー球団」になれるのだと確信した。

 最近の報道では「宮本氏、ヘッドコーチ就任へ」といった記事があふれている。もしもこれが現実のものとなれば、間違いなく宮本さんはヤクルトに「厳しさ」をもたらすことだろう。おそらく、それに反発する選手も出てくるかもしれない。だからこそ、「仏の小川監督」と「鬼の宮本ヘッド」の両輪できちんとバランスをとり、「緩さと厳しさ」の両立を目指し、強いチームを築いてほしい。

 ヤクルト優勝監督の系譜は、広岡達朗、野村克也のような「外様の厳しい監督」と、若松勉、真中満のような「生え抜きののびのび監督」に大別できる。就任がウワサされている小川淳司新監督の下で帝王学を学び、近い将来、ヤクルト・宮本慎也監督が実現して優勝すれば、球団史上初の「生え抜きの厳しい優勝監督」が誕生することになる。

 少々気が早いけれど、僕はその日を心待ちにしている――。

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(長谷川 晶一)

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