「チームの顔」とは何なのか――嶋基宏“退団濃厚”報道にファイターズファンが思うこと

「チームの顔」とは何なのか――嶋基宏“退団濃厚”報道にファイターズファンが思うこと

今季限りでのイーグルス退団を決意した嶋基宏 ©文藝春秋

 CSファーストステージの結果が決まった10月7日夜。ツイッターのTLを見ながら2試合とも接戦だったねえなどと感慨にふけっていたところへ、余韻も何も一度に吹っ飛ばすようなニュースが立て続けに飛び込んできました。

 ベイスターズ筒香嘉智ポスティングでメジャー挑戦。そしてイーグルス嶋基宏退団濃厚。

 あーそうかCS敗退ということはここでシーズン終了ということだものなあ、選手の去就についてのニュースもここから一気に出始めるよねえ……などと呑気に眺めている場合ではありません。いや、筒香嘉智メジャー挑戦の方はいいんです。それは確かに驚きましたし彼がいなくなったらベイスターズは大変だろうなとも思いますし、でも基本的にこれは明るい話題の範疇ですよね。上のステージへの挑戦です。成功を祈る、頑張ってね!です。

 問題はもう一つの方。嶋基宏がイーグルスからいなくなる!? TLはたちまち蜂の巣をつついたような大騒ぎになりました。どこのファンであるかに関係なく、異口同音に「何で!?」の嵐。かく申す私もです。もしかしたら、去年金子千尋がバファローズを退団してファイターズの金子弌大になった時以上に驚いたかもしれません。

■「チームの顔」が退団する寂しさ

 故障がちになり出場機会の減ったベテラン選手を、球団は引退後の指導者就任に主眼を置いた扱いにしていこうとする。でも選手自身はまだまだそういう気にはなれず、移籍を模索することに。

 決して珍しくない事例です。にもかかわらず私を含め「何で!?」という反応が続出したのは、彼が「イーグルスの顔」だと見なされていたから、ということになるのでしょう。

 と今簡単に書いてしまいましたが、「チームの顔」とはつまり具体的にどういう選手のことだ、と訊かれると実はちょっと即答できません。そのチームを代表する、あるいは象徴する存在。単純に、主力選手のことなのか、それともベテラン選手のことなのか。どちらも、言い表しきれてはいないような気がします。

 たとえば今のファイターズでチームトップクラスの活躍を見せている西川遥輝でも、端的に「ファイターズの顔」と呼べるかというと、まだちょっと早いんじゃないのかなと感じてしまうのですね。去年球団が発表した新球場のイメージ映像の中で、ボールパークの大型ビジョンに映し出されていた選手は中田翔でした。彼が今の「ファイターズの顔」。たとえどんなに故障が多くて成績が思わしくなくて、それで常にファンをやきもきさせていてもです。いやむしろ、「ファイターズの顔」であるからこそやきもきするのかもしれません。「FA宣言は確実」みたいな記事を受けて応援団が「おまえが必要」という横断幕を出したり、スランプのあとのホームランで少年ファンの嬉し涙がテレビ画面に大写しになったり……今年5月の代打登場・石村吹雪さんの曲「ホームラン待ち」を皆様ご記憶でしょうか。えっ何だっけという方は 「2012年の日本ハム・中田翔 若き4番打者に魅せられたあの日のこと」 をもう1回お読み下さい。ラストに歌詞が載っています(ちなみにえのきど監督の作詞です)。皆、何のかの言っても結局いつも、中田翔のホームラン待ちなのです。冷淡には絶対なれないんですよ。

 嶋基宏自由契約へという第一報を見た時、とっさに頭に浮かんだのは「この人はファイターズでいうなら稲葉篤紀や金子誠のようなものだと思ってた」でした。不動のレギュラーではなくなりベンチにいることが多くなっても、「このチームはアツと誠のチーム」と栗山監督は言い、ファンもそうだと思ってきた2人。まぎれもない「ファイターズの顔」でありました。現役引退後も形を変えてファイターズを背負って立つ2人だと、早くから当然視されていたと感じます。

 ああ、そういうことなのかなあ。あのニュースにこんなにも動揺したのは。

「嶋基宏はこのままずっと将来にわたってイーグルスを背負って行く人」だと思ってたんだ。

■大野奨太FA時に感じたもの

 私のこの勝手な寂しさは、思い起こすと大野奨太FA時に感じたものとよく似ている気がします。正捕手の座を賭けて勝負するためには移籍しなければならないと決心する、それは尤もなことだと頭では判っているのですが、でも寂しくてしょうがない。だってずっといてくれるものだとばかり思い込んでいたんです。FAするかもしれないと最初に取り沙汰された時には覚悟しました。けれどもそこで残留だったので、油断が生じておりました。レギュラーではなくなってもチームを支え続ける存在でいてほしかった……完全にただの身勝手なのですけれども。

 大きな怪我をしたという訳でもない選手にまで稲葉篤紀金子誠パターンを期待するのは、「ベテランになったら自動的に若い選手に道を譲れ」と期待するのと同義でありましょう。そしてまた、「ファンと同じようにこのチームを唯一無二のものとして愛してくれ」とも。でももちろんそれは無茶というものです。

 体の調子さえよければ若い選手とも充分に同じ土俵で勝負できるし、それをさせてもらえないというのであれば、思い切って新天地を求めたい。その気概があるからこそ、プロの世界で生きてくることができたのでしょうから。

 在籍し続ければ誰もが認める「チームの顔」となるような選手こそ、そういう気概を人一倍持っているものでもあるのでしょう。ファンの身勝手な愛情は、常に片想いとなることに決まっているのかもしれません。

 10月8日、中島卓也がFAについて悩んでいるというスポーツ報知の記事を見ました。

 残ってほしいなあ。どこにも行かないでほしいなあ……わがままだと判ってはいるけれども。

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(青空百景)

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