日産ゴーン会長が、アートアワードを立ち上げた「狙い」とは

日産ゴーン会長が、アートアワードを立ち上げた「狙い」とは

撮影/山内宏泰

 まさに今が旬。これからいっそう名を馳せていくであろう日本人アーティストの作品を、まとめて観られるグループ展が横浜で開かれている。もとは倉庫だった建物をギャラリースペースにリニューアルしたBankART Studio NYK2階での、「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」。

■ゴーン会長「アーティストを純粋にサポートする」

 タイトルの通り同展は、日産自動車が主催するアートアワードのファイナリストが、そろって展示をするもの。日産アートアワードは、日本現代アートのサポートのために2013年から始まった。隔年で開かれるため、今回が3回目。

 企業の文化支援は数あれど、これはなかなかうまく軌道に乗っている例である。アートの世界での知名度と存在感はすでにしっかりとあって、企業のイメージアップにはきちんと貢献していそう。

 先頭に立って事業を推進しているカルロス・ゴーン日産自動車会長は、訪れた会場でアワードについてこう話してくれた。

「アートアワードを立ち上げるにあたって、ビジネスに直結する目的などは最初からまったく設定していませんでした。アーティストの取り組みを純粋にサポートするかたちにして、事業とはできるだけ遠い位置に置きたかった。

 企業の力というのは、そこに集っている人の参加意識の強さから生まれてくるもの。ですからアワードを通して、従業員の参画意識、モチベーション、誇りを高めることにつながればと考えていましたし、それはかなり成功しつつあるとおもいます」

■日本の重い歴史に鋭く切り込んだグランプリ作品

 アワードは、多くの推薦アーティストの中から5人のファイナリストが選ばれ、横浜で新作展示を展開。会期中に審査があり、グランプリ受賞者を決定する。審査は9月27日に開かれ、来場者からの投票によるオーディエンス賞は横山奈美が受賞。そしてグランプリには藤井光が選ばれた。

 結果の如何にかかわらず、展示会場ではいつでも5人の作品が観られる。ひとりずつ充分なスペースを割り当てられていることもあって、グループ展としての見応えはしっかりある。

 順に会場を巡ってみると、まずは石川竜一の膨大な枚数による写真作品が目に飛び込んでくる。沖縄在住の石川は、自身が家族と住む部屋の様子を撮影した。部屋の所在地は米軍基地にほど近いので、日常的にすぐそばを飛び交う米軍機やヘリも撮って、室内の写真と並列させている。

「自分の家の中と、社会のことは、ごくふつうにつながっているなとおもいながら展示しました。つながっているけれど、そこには違う時間が流れているんだけど」

 会場で石川が、作品をそう説明してくれた。

 藤井光の展示はいくつかの映像を中心に構成されている。彼が着目したのは、20世紀初頭の日本での出来事。1903年に政府は内国勧業博覧会を実施し、初めて外国製品の自由な出展を認めた。「学術人類館」と題されたパビリオンでは、先住民とその居住空間を丸ごと展示する企画が計画された。

 この歴史を踏まえて、藤井はワークショップを開き、参加者に当時の日本人を演じさせた。反時代的な言動が飛び交う演習の様子を映像に収め、それを会場で披露したのだ。

 つい見て見ぬふりをしたくなる歴史的事実を、改めて白日の下へさらけ出す作品。これがグランプリに選ばれたことは、驚きであり快挙でもある。主催する企業が保身のために、過激な主張を含む作品にスポットを当てないことはままあるというのに。ゴーン会長が述べた、「ビジネスに直結する目的はない、アーティストの取り組みを純粋にサポートする」との方針が徹底されていることを裏付ける結果だろう。

■多士済々な日本の若手現代アーティスト

 横山奈美が会場に並べたのはペインティング作品。どれも決して派手ではない静物画なのだが、「ものごとのうしろに隠れているしくみに興味があるし、描きたい」と本人が言うように、よくよく見るとハッと気づかされるところのある絵になっている。

 画面にはネオン管らしきものが描かれてあって、その光が形あるものを表している。光の美しさに見惚れていると、ネオン管を支えている背後の構造物が目に入ってきて、今度はそちらばかり気になるようになってくる。視点の置き方次第でものの見え方はガラリと変わることを、絵画が端的に示し教えてくれる。

 7人家族のリビングを平面的に撮った写真が並ぶのは、題府基之の展示。お菓子、コンビニ弁当、雑誌、雑多な生活品がごちゃごちゃと写っている写真は、大きく引き伸ばされて展示されると、抽象絵画のようにも見えてくるから不思議。

 会場の最奥部には、田村友一郎の展示がある。グロリアという言葉に発想を得て、どこかノスタルジーを感じさせるさまざまなオブジェや映像が並ぶ。独特の物語世界に、身体ごと入り込んでしまったような錯覚に陥る。

 日本の現代アートは今、こんなに多様でおもしろいことになっている。そうはっきり感じさせてくれる展示だ。

(山内 宏泰)

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