【南ア戦で奮闘】「歴史を変えるのは誰!?」 38歳トンプソンルークが4度目のラグビーW杯で見せ続けた“タックル”

【南ア戦で奮闘】「歴史を変えるのは誰!?」 38歳トンプソンルークが4度目のラグビーW杯で見せ続けた“タックル”

10月20日、南アフリカ戦 ©AFP/AFLO

 ラグビー日本代表が歴史を変えた瞬間――トンプソンルークは、いつも身体を張り続けていた。

 10月20日、はじめてW杯の決勝トーナメントに進んだ日本代表は、南アフリカ代表と激突。3−26で敗れた。

 タックル、そしてタックル……。トンプソンは、いつもと変わらぬプレーで、チームの危機を救い、仲間を鼓舞し続けていた。

 W杯開幕時に世界ランキング1位だったアイルランドを破った初戦でも、トンプソンは19回中、19回タックルを成功させた。決勝トーナメント初進出をかけたスコットランド戦でも、チーム最多となる18回のタックルでピンチを幾度となく救った。

■前回W杯「ブライトンの奇跡」での“絶叫”

 前回W杯で南アフリカを破った「ブライトンの奇跡」もそうだ。3点ビハインドでむかえたロスタイム。最後のスクラムを組む直前、トンプソンが絶叫する。

「歴史を変えるのは誰!?」

 その叫びに奮い立ったフィフティーンは一丸となって、劇的な逆転トライを奪う。

 あの絶叫にどんな思いを込めたのか。

 トンプソン自身に聞いた経験がある。しかし彼は苦笑いをして、おなじみの関西弁で意外な答えを口にした。

「私は、めっちゃ興奮していましたね。だからあまり覚えていない。でも、エディ(エディ・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチ)の練習はめっちゃキツかった。勝つことが一番大事なことです。私は仲間を信じていた。だから完璧な試合をして、ロスタイムのチャンスでもトライをとれたんですね」

■「私たちは仲間をめちゃ信じて、頑張った」

 日本代表史上最多タイの4度目となった今回W杯でもトンプソンのスタンスは変わらなかった。スコットランド戦後の記者会見で、勝利の喜びをこう語っている。

「スコットランドは素晴らしいチーム。ギリギリの試合でした。でも、私たちは仲間をめちゃ信じて、頑張った。だからすばらしい結果が出せた」

 台風19号の被害に触れることも忘れない。

「台風に比べて、ラグビーは小さいことね。亡くなった人もいる。家がダメージを受けた人は頑張ってください。私たちも頑張るから」

 他者を思いやる誠実な人柄。そして、チームのためにくり返す激しいタックル。トンプソンがファンに「トモさん」と愛されるゆえんである。

■38歳の“おじいちゃん” 「日本人が尊敬するのは人だけじゃない」

 自らを「おじいちゃん」と呼ぶトンプソンは、ニュージーランド生まれの38歳。

 2004年、トンプソンは三洋電機(現・パナソニック)でプレーするために来日した。当初は、1、2年で帰国し、子どものころからの夢だったオールブラックスを目指すつもりだった。しかし日本の暮らしやチームメイトとの出会いが、彼の気持ちを変えていく。

「若い時はラグビーだけに集中していたけど、日本に来てから生活や文化が面白いと思った。日本で好きになったのは『尊敬』。若い人は年上の先輩を尊敬しますね。でも、日本人が尊敬するのは人だけじゃない。日本人は食事に感謝し、自然を尊敬する。そういう日本文化が、めっちゃ好きになった」

■「日本代表は、私のライフのハイライト……誇りになった」

 2006年から大阪に本拠を置く近鉄ライナーズでプレーを続ける彼は、関西弁に英単語を交え、続けた。

「大阪がめっちゃ好き。好きな町に暮らし、その国を代表してプレーする。そこがラグビーのいいところですね。日本代表は、私のライフのハイライト……誇りになったんですね」

 移籍後、代表資格の3年間居住をクリアしたトンプソンは日本代表合宿に招集される。

 しかし迷いがあった。一度、桜のジャージに袖を通せば、オールブラックスへの道が閉ざされてしまうからだ。「面白いチャレンジじゃないか」。背中を押したのが、父の言葉だった。

 2007年と2011年のW杯はともに1分け3敗。その間に、トンプソンは1つの決断をする。2度目のW杯前に日本国籍を取得し、帰化したのである。

「日本代表としてプレーするからには、日本人として戦いたいと思った。日本の生活が長くなった。私の子供たちはみんな日本で生まれました。日本は、私1人だけじゃなくて、私の家族全員のライフにもなったんですね」

 そして自身3度目となる前回W杯。予選プール4戦すべてにフル出場を果たし、躍進の原動力となった。

 大会後、代表からの引退を表明し、昨年には現役引退のウワサも流れた。

■トモさんは、なぜ代表復帰を宣言したのか

 日本代表が勝てなかった時代から、どんなゲームにも全力を出し切り続けた鉄人も、ついに引退か……。ファンは感傷とともに感謝の念を抱いた。しかしそんな思いをよそに、トモさんは代表復帰を宣言する。

 ぼくは、おじいちゃんだけど、ラグビーがめっちゃ好きだから――と。

 とはいえ、38歳の活躍を誰が想像しただろう。まさかアイルランドを撃破し、スコットランドを下した立役者の1人になるとは……。

 両脚に巻いたテーピング。かなり状態が悪いと聞く足首。そして大きく曲がった鼻骨……。身体に刻まれた数々の傷が、日本代表の誇りを胸に、どんな相手にもひるまずにぶつかっていった証である。

 タックルをくり返すトンプソンを見るたび、あの叫びがよみがえった。

「歴史を変えるのは誰!?」

 前回W杯は、きっと歴史を変えるプロローグだったのだ。2019年W杯日本大会。「めっちゃ信じる仲間」とともにトンプソンは、歴史を変える戦いのさなかに身を投じた。

 南アフリカ戦の直後、「特別なチームで、一緒にプレーできたことをすごい誇りに思います。新しい歴史を作った。日本人の皆さん、素晴らしい応援でした」とトンプソンは語った。

 さらに上へ。トンプソンの1つ1つのプレーが、日本ラグビーの新たな歴史を切り拓いていくように見えた。

(山川 徹)

関連記事(外部サイト)