『万引き家族』から『真実』へ 是枝裕和監督が語る“希林さんとドヌーブのこと”

『万引き家族』から『真実』へ 是枝裕和監督が語る“希林さんとドヌーブのこと”

カトリーヌ・ドヌーヴ(左)、ジュリエット・ビノシュ(右)とともにヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットを歩く是枝裕和監督 ©getty

 現在、公開中の是枝裕和監督の新作『真実』。昨年、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督の新作は全編フランス・ロケで製作された。主演に『シェルブールの雨傘』で知られるフランスの大女優、カトリーヌ・ドヌーブを迎え、共演には『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー助演女優賞を受賞したジュリエット・ビノシュ、映画監督、脚本家としても活躍する多才なイーサン・ホークという名優が並ぶ。

 大女優ファビエンヌ(ドヌーブ)が自伝「真実」を出版するが、その内容は嘘ばかり。出版祝いでパリへと帰省した娘のリュミール(ビノシュ)は母に詰め寄り、その真意を問う。リュミールの夫ハンク(ホーク)を挟んでコミュニケーションをとりつつ、お互いの想いをぶつけるうちに、母と娘の間の「真実」が浮かび上がる??という感動の物語だ。

■ドヌーブとの出演交渉はスムーズだったが……

 この作品は、あるイベントで対談をしたビノシュから是枝監督に「一緒にやりたい」というアプローチがあったことからスタートした。しかし、実現の鍵となったのは大女優、カトリーヌ・ドヌーブだったと是枝監督は語る。

「僕が『真実』の主人公として設定したのは、伝説的な女優でした。一国の映画史を一人で背負えるほどの大物を想定していました。ところが実際にそういうキャリアの重ね方をしている現役の女優は、世界中見わたしてもカトリーヌ・ドヌーブ以外見当たらない。出演交渉は大変そうでしたが、どうせ山に登るなら一番険しい山がいい。フランスで映画を撮ったのは彼女がいたからです」

 ドヌーブとの主演交渉は意外にもスムーズだったが、この大女優が曲者だった。

「『撮影場所はパリよね。私はパリから出たくない』という注文もありました。仕事が終わったらすぐに飲みに行きたいからだと思うんですが。パリ郊外はもちろんダメ。パリ市内の候補を提案しても『そこはパリじゃない』と一蹴されてしまう。パリと言っても彼女にとってのパリは自宅のある6区から犬の散歩で移動できる範囲なんじゃないかと」

 さらに撮影が始まると……。

■「今以上のものは私から出てこない。もうやらないわよ」

「カトリーヌさんが、とてもいいリズムで、セリフとまったく違う内容を言うことがしばしばあった(笑)。ところがこちらはフランス語がわからないので、セリフが間違っていると判断できません。しかもリズムはいい。『カット』をかけて通訳さんに『今の演技、よかったね』と声をかけても『セリフがまったく成り立っていません』と返答され、何度もヒヤッとしました」

 言葉の通じない撮影でこれほど恐ろしいこともないが、ドヌーブがデタラメなセリフを言っていたのは、もちろん嫌がらせのためではない。そこには彼女なりの理由があった。

「撮影現場で共演者との芝居のリズムをつかんでからセリフを覚えるのが彼女の流儀なんです。それで8回から10回テイクを重ねるうち、本当に素晴らしいテイクが1回ある。彼女自身もそれで満足で『今以上のものは私から出てこない。もうやらないわよ』とキッパリ。しかも仕事の後にディナーの約束があるときは、その1回が早くなる(笑)」

■ドヌーブと樹木希林さんの共通点とは?

 何かと喫煙者の肩身が狭いこのご時世にもかかわらず、ドヌーブは撮影中も吸いたいときに吸いたい場所で煙草を吸う。自由奔放でチャーミングな75歳の大女優がみせる、スクリーンでの存在感は、是枝作品に欠かせなかったある日本人女優を思いださせる。

「今回、試写を見た人から『ドヌーブがときどき希林さんに見える』と言われました。樹木希林さんとカトリーヌさんではキャリアの積み方も、役作りの仕方もかなり違います。しかし、共通点もある」

 是枝監督がカトリーヌ・ドヌーブに見た樹木希林さんとの共通点とは???

 この作品が実現するまでの紆余曲折、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークの演技について、フランスロケでの苦労、日本映画界、日本メディアへの苦言、そしてこれからの夢などについて是枝監督が縦横に語った「カトリーヌ・ドヌーブは樹木希林さんに似ていた」の全文は、 「文藝春秋」11月号 に掲載されている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年11月号)

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