「知人男性」「高津クリニック」「原樹“里”警察」……奥深き“プロ野球語”の世界

「知人男性」「高津クリニック」「原樹“里”警察」……奥深き“プロ野球語”の世界

イラスト/佐野文二郎

■「プロ野球語辞典」という最高の仕事

 少々、古い話となってしまうけれど、みなさんは「知人男性」という言葉を覚えているだろうか? 2015(平成27)年にヤクルトが優勝した際に、山田哲人が『FRYDAY』されたことがある。その際に一緒に写っていたのがチームメイトの上田剛史だった。それにもかかわらず、写真キャプションに彼の名前はなく、単に「知人男性」と記されているだけ。「いかにも上田らしい」とヤクルトファンの間で話題になった。

 かつて僕は、古今東西の「プロ野球語」を集めた辞典を出版したことがある。この本は『プロ野球語辞典』(誠文堂新光社)と題され、僕の本にしては珍しく地味に売れ続けている。今でも忘れた頃に、「また増刷が決まりました」と連絡が届く、僕にとっての「孝行息子」なのだ。この本の中でももちろん、「知人男性」を収載した。

【知人男性】

 2015年、『FRIDAY』誌にヤクルト・山田哲人がスクープされた際に、一緒に写っていたチームメイトの上田剛史。しかし、上田の写真には目線が施され、キャプションには上田の名前はなく、ただ「知人男性」と記されていた。本人はそれを持ちネタとして、優勝祝勝会では「知人男性」のタスキをつけたり、球団も「知人男性」ピンバッジを作ったりするなど、完全に自虐ネタとして定着している。

 イラストは『野球太郎』表紙の立体イラストでおなじみの佐野文二郎さん。僕が書いた原稿を読んで、佐野さんが独自のアレンジを加えて絶妙なイラストを描いてくれる。この一連の作業はとても楽しかった。「今度はどんなイラストが上がってくるのかな?」とワクワクしながら、一気に原稿を書き上げた。この本には「代打、オレ!」も収載した。

【代打、オレ!】

 ヤクルト・古田敦也や、中日・谷繁元信など野手兼任監督時代に、しばしば使われるフレーズ。一打サヨナラの緊迫した場面。ベンチから監督が現れて、審判に告げる。――代打、オレ! 漫画のような展開を求めるファンの妄想が現実となる瞬間。古田監督時代には「代打、オレ!Tシャツ」も販売された。

 あるいは、「野村再生工場」ではこんな文章とイラストが載っている。

【野村再生工場】

 伸び悩む選手や他球団で戦力外になった選手の才能を見事に開花させる野村克也の人材育成手腕に対する俗称。南海監督時代には江本孟紀、江夏豊を、ヤクルト監督時代には田畑一也、小早川毅彦、吉井理人を見事に再生。

 どうですか、このイラストのノムさんの表情。毎回、佐野さんからのイラストが届くのが楽しみだったので、この本の執筆はノーストレス。本当に楽しい仕事だった。

■ヤクルト版・プロ野球語辞典を作ってみた

 さて、このたび『プロ野球語辞典2(仮)』の発売が決まった。現在、用語の選定作業の真っ最中で、近々、読者の方にも「こんな用語を載せてほしい」というご要望をお聞きするつもりなので、ぜひご協力をお願いします。そこで今回の文春野球では、「プロ野球語辞典・ヤクルト版」をご披露したいと思う。来春発売予定の第二弾にここで書いた新用語が収載されるのか、あるいはされないのか? 新規の書下ろし用語と、既出の用語はイラストとともに、一気に大公開!

【ID野球】

「データ重視」を意味する「Important Data」の略称。1990年にヤクルト監督に就任した野村克也が提唱し、90年代、ヤクルト黄金時代の礎を築いた。現在では、当時の選手たちが各球団のコーチとなり、ID野球の息吹は球界全体に広がっている。

【荒木トンネル】

 明治神宮球場公式ツイッターによれば、1983(昭和58)年に完成した深さ5メートル、長さ約15メートルの地下通路。隣接するクラブハウスから球場まで通じている。同年に入団した荒木大輔を熱狂的ファンから守るために作られたというウワサ。19年に制作された『つばめ刑事』第8話でも、物語の重要なキーワードとなっている。

【イケトラコンビ】

 80年代後半から90年代半ばまで、ヤクルトの中心選手だった池山隆寛と広澤克実の両者を指す俗称。「イケ」はもちろん池山のことで、「トラ」は広澤のこと。これは広澤が寅さんを演じる渥美清に似ているためという説と、浪曲師・広沢虎造にちなんでという説がある。

【石山本願寺】

 クローザー・石山泰稚のニックネーム。由来はもちろん、戦国時代初期から現在まで続く大阪の名刹。本人に「このあだ名をどう思うか?」と尋ねたところ、「好きに呼んでいいですよ。でも、“おい、本願寺!”って呼ばれても振り向きませんけどね(笑)」とのこと。

【今浪チルドレン】

 14年シーズン途中に増渕竜義との交換トレードで日本ハムから移籍した今浪隆博の熱狂的ファンの異名。17年シーズン限りで、惜しまれながら引退した後も、いまだに多くのチルドレンが今浪氏の第二の人生を応援している。

【オープンスタンス】

 打席に立つ際に投手寄りの足を右打者なら三塁方向に、左打者なら一塁方向に開いて構える打撃スタイル。投手と正対する形になるので、両目でボールをとらえることができるというメリットがある一方で、外角のボールが通常よりも遠くに見えてしまうデメリットも。ヤクルトで活躍した八重樫幸雄が有名。

【岡田のオヤジ】

 ヤクルトの名物応援団長・ツバメ軍団の故岡田正泰氏のこと。いしいひさいちの『がんばれ!!タブチくん!!』に登場し、一躍有名に。ヤクルト名物の傘を使った応援の発案者でもある。02年に引退した池山隆寛は引退試合において、同年に亡くなった氏に向けて、「岡田のオヤジありがとう」と絶叫。神宮球場に詰めかけた超満員のヤクルトファンの涙を誘った。

 それにしても、佐野さんのイラストは本当にすばらしい。見ているだけで幸せな気分になってくる。

■カネやん、原樹理、そして高津監督

 さぁ、ここからさらに「ヤクルト版・プロ野球語辞典」をご紹介。

【週三焼肉】

 次代のスター候補・廣岡大志のキャッチコピー。焼き肉が大好きで「週に三回は食べる」ということから名づけられた。19年には「廣岡大志の週三焼肉弁当」(1300円)が神宮球場で販売されたが、育ち盛りの若者にはおススメも、衰え盛りの中年には少々ヘビー。僕は胃もたれした。

【準永久欠番】

 永久欠番に対して、「その番号にふさわしい選手がいた場合に限り、番号を復活させる」というのがこの番号。有名なのは、ヤクルトの背番号《1》はミスタースワローズの称号として、それぞれ数年のブランクを経て、若松勉から池山隆寛、岩村明憲、青木宣親、そして現在の山田哲人に引き継がれている。

【高津クリニック】

 20年シーズンから一軍監督を務める高津臣吾の指導手腕を称して、ファンが敬意をこめて命名。故障者や技術的に伸び悩む投手に対して、技術面、心理面から絶妙なアドバイスを送ることが由来。決して、川崎市にある病院ではない。

【ハズレ1位】

 ドラフト会議において1位指名が重複して抽選が行われたケースで、外れ球団が別の選手を指名したことを指す。10年のヤクルトは早大の斎藤佑樹を外し、続いて八戸大の塩見貴洋を外し、「ハズレハズレ1位」で履正社高校の山田哲人を獲得。ハズレのハズレは大当たりだということもあるのだ。

【原樹「里」警察】

 次代のエース候補・原樹理は、しばしば「原樹里」と表記されることから、誤記を見つけた際に、「それは違うの。《里》じゃないの、《理》なの!」と指摘する行為を指して、「原樹里警察」と呼ばれるように。類語としては「バファローズ」の誤記である「バッファローズ警察」も。

【左で打てや!】

 年始の恒例特番『夢対決!とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』における山田哲人の名セリフ。実際の球場を使って行われる「リアル野球BAN」において、対戦相手でスイッチヒッターである杉谷拳士(日本ハム)に対して、山田が繰り返すお約束の言葉。右打席で打ちたい杉谷サイドと左打席で打たせたい山田サイドの思惑が交差するも、山田からの挑発にアッサリ乗って左打席に入る、先輩・杉谷の芸達者ぶりが際立つ名場面。

【400勝】

 国鉄スワローズ、巨人で活躍した「カネやん」こと、金田正一が打ち立てた大金字塔。生涯成績は400勝298敗。年間20勝を20年連続達成してようやく400勝。絶対に破られることのない不滅の大記録。

 ……こんな感じで、ヤクルトを含めた全球団の「プロ野球語」が並ぶ『プロ野球語辞典2』は来春発売予定。ぜひ、「こんな言葉を載せてほしい」という要望があれば、お聞かせください! 文春野球CS、日本シリーズ怒涛の13連戦、長きにわたっておつきあいいただき、どうもありがとうございました! 感謝しかありません。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム 日本シリーズ2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/14462 でHITボタンを押してください。

(長谷川 晶一)

関連記事(外部サイト)