ソフトバンクが強すぎる件……みんなどう思う?

ソフトバンクが強すぎる件……みんなどう思う?

甲斐拓也と中田翔

 2019年のファイターズはポストシーズンの戦いと無縁だった。僕らファンは高見の見物(順位が5位だから低見の見物?)で、ともかく非常に気楽にポストシーズンの戦いを眺めてきた。

 戦ってた当のチームはそういうわけにいかない。今年のパ・リーグは昨年同様、シーズン成績2位のソフトバンクがCS勝者となり、日本シリーズに進出した。

 面目がつぶれたのは西武だ。僕の知人には西武ファンが多い。西武はパ・リーグ連覇を飾りながら2年連続で日本シリーズ出場を逃がしてしまった。その落胆ぶりたるや、とても見ていられなかった。野球は野球でしかないものだが、ファンにとっては自分と不可分にくっついたものだ。ライオンズがダメだったら自分もダメなんだという気持ちになってしまう。頭ではわかっていても自己を肯定できなくなる。だって埼玉西武ライオンズは自分だから。

■いちばん自分の根幹にあるものは何だろう

 僕はよく考える。死んで三途の川を渡って、向こう岸に関所のような場所があるんだなぁ。そこには係員の赤鬼青鬼がいて、裁判官のエンマ様がいる。列に並んでいると名前を呼ばれて、エンマ様の前に引っ立てられる。で、帳面を見ながら赤鬼が言う。こいつは生前、これこれこういうことをしてたヤツです。大した悪さもしてないけど、特にいいこともしていません。地獄ってほどじゃないけど、天国でもないですね。

 それを聞いてエンマ様が口を開く。

「えーと、榎戸一朗とやら、お前は要するに何者だったんだ? お前の人生は何だったんだ?」

 さて、何者だったんだろうなぁと思うじゃないか。職業を答えるのは簡単だろう。その手はある。「ライターでした。ひらがなのペンネームでした」。多くの方は「会社員でした」、もうちょっと具体的に「運送会社でした」「万年筆のメーカーでした」。そうするとエンマ様はちょっとイラつくんだな。「お前は会社でもメーカーでもないだろう。会社を辞めたら何もないのか?」。

 さて、困った。そこでいちばん自分の根幹にあるものは何だろうと考える。「自分は父親でした」、こういう答えはあるだろう。それでもエンマ様は許してくれない。「会社や家族のことは訊いていない。お前は何なんだ?」

「私は映画が好きでした」「世界じゅうを旅するのが好きでした」。これなら行けそうだ。まぁ、そんな人聞きのいいものばっかりでもないかな。「(頭をかきながら)自分は競輪が好きでした」。

 そうやって自分と不可分にくっついたもののことを言う。僕は自分が言うだろうなぁと思う。ていうか赤鬼の帳面のトップ項目に書いてある気もする。

「(頭をかきながら)僕は……、要するにファイターズファンでした」

 なるべくだったらそれを笑顔で言いたいなぁと思うのだ。それが自己を肯定する力になってくれるといい。いや、自己だけじゃないんだよな。野球が好きだっていうこと、チームや選手を好きだっていうことが、自分じゃないどこかの誰かのことも肯定してくれる力になればいい。

■自分は不完全だって吐き捨ててもつまらないよ

 僕は球場でうへへーいとなってるヤツが好きだ。しょうがねぇなぁと思う。しょうがねぇけど、中田が打ったんだからいいよと思う。俺もうへへーいだ。みんなうへへーいだ。ひとに迷惑かけないかぎりうへへーいでいいじゃないか。

 だからどこからどう見ても「要するにライオンズファンでした……」ってエンマ様に自己申告しそうな友達がしょげ返って、チームを呪詛するのが見ていられない。投手力が、と彼は言う。層の厚さが、と言う。底上げしてくる若手が、と言う。そうなんだ。それはそうなんだ。それはそうだけど、自分を呪ってはつまらないよ。自分は不完全だって吐き捨ててもつまらないよ。

 不完全なチーム、不完全な自分。

 高校時代、母からよく言われたものだ。遊びに行くのはいいけれど、まず部屋をかたづけてから行きなさい。本を買ってくるのはいいけれど、机の上に積んである本をまずどうにかしなさい。いつも言われてたから僕も習い性になって、そう考えるようになった。これから勉強をするのだけど、まず部屋をかたづけて完全な部屋にしてから、勉強に取り組もう。まず自己修養して完全な自分になってから、勉強に取り組もう。

 そうやって先延ばしてしまう心理だ。投手力が完全になってから頑張ろう。ゲッツーが一人前に取れるようになってから頑張ろう。ファイターズは完全じゃなかったよ。ライオンズも完全じゃなかったかもしれないけど、こてんぱんにやられたのはうちの方だよ。完全じゃないのにバカスカ打って勝っちゃうところが「山賊打線」の西武じゃないの? 防御率最低でリーグ連覇ってすごいことじゃないの? 僕は友達を元気づけたかった。

 ●ソフトバンク3-5楽天
 〇ソフトバンク6-4楽天
 〇ソフトバンク2-1楽天

 〇ソフトバンク8-4西武
 〇ソフトバンク8-6西武
 〇ソフトバンク7-0西武
  【試合前中止】
 〇ソフトバンク9-3西武

 〇ソフトバンク7-2巨人
 〇ソフトバンク6-3巨人
 〇ソフトバンク6-2巨人
 〇ソフトバンク4-3巨人

 そうしたら友達がソフトバンクの話をしたんだ。ポストシーズンのホークスの戦績はご覧の通りだ。圧巻だ。CSファーストステージ初戦の楽天にしか負けていない。パ・リーグ王者の西武も、セ・リーグ王者の巨人も文字通り一掃されている。ドラマもなければ、シリーズの流れもない。一気にいかれた。圧倒的な地力の差だ。

「ソフトバンクがいるかぎり上を目指さなきゃどうにもなんないよ……」

 これにはひと言もなかった。余計なこと言ってすいません。象徴的には日本シリーズで話題になった「代打長谷川、内川、中村晃」だ。首位打者が2人、最多安打が1人、それが代打で控えている。チームの分厚さがハンパない。

■今、最強の敵はソフトバンクなんだ

 僕らパ・リーグファンは日本シリーズを見て、あぁ、こうなるとソフバンに持っていかれるなぁとブツブツひとりごとを言っていた。手持ちの「ソフトバンク戦の負けパターン」がフォルダいっぱいになっている。そして、今季はロッテがソフバンに勝ち越したから、ロッテファンの友達には「巨人はロッテより弱い」と定型ネタをLINEで送りつけたりしていた。1989年の日本シリーズ、近鉄・加藤哲郎が言ったとされる(本当は言ってないらしい)コメントだ。それが30年たって、こんな形でまた語られるようになるとは。

 2013年 楽天〇-巨人●
 2014年 ソフトバンク〇-阪神●
 2015年 ソフトバンク〇-ヤクルト●
 2016年 日本ハム〇-広島●
 2017年 ソフトバンク〇-DeNA●
 2018年 ソフトバンク〇-広島●
 2019年 ソフトバンク〇-巨人●

 これは2012年セの出場チーム(巨人)が最後に勝って以降、パ・リーグが7年連続日本一になってる様子だ。7連連続、セは栄冠がら遠ざかっている。7年連続ってもうあと2年足すと巨人のV9と同じ長さになる。いや、ありがたいことに楽天・田中将大、日ハム・大谷翔平と大駒が使えたときにはソフバン以外も日本一になっている。が、だいたいソフバンなのだ。大変なことじゃないか。

 僕の世代は高度成長期、巨人V9をダイレクトに体験している。子どもの頃、日本シリーズというのは巨人がパ・リーグ代表チームを打ち負かすものだと思っていた。それが今、形を変えて(だいたい)ソフトバンクがセの代表を打ち負かすものになってきている。今、大学生高校生くらいの層は「(だいたい)ソフトバンク王朝」の時代しか知らないと思う。

 長谷川晶一さん、どう思う? 1シーズン、ヤクルト軍記を語りきり、お見事でした。文春日本シリーズ、おつかれ様です。で、どう思う?

 広岡達朗さんの原稿で「巨人コンプレックス」の話が出てきた。僕の世代は(パ・リーグファンであっても)それがよくわかる。後楽園球場、東京ドームで「裏開催」の悲哀を舐め、身に沁みている。

 が、今、最強の敵はソフトバンクなんだ。もう巨人にバッテンつけなくていい。巨人をまったく寄せつけず、シリーズ後には原辰徳監督に「セもDH制を導入すべき」と危機感をつのらせたチームがプロ野球の先頭を走っている。

 違うかなぁ?

 僕には三原脩、広岡達朗、森祇晶、王貞治と、巨人を離れた者が「貴種流離譚」よろしく艱難辛苦の末、自らの王国を築き、「打倒巨人」を果たすストーリーがついに果てまで行き着いたように見える。「打倒巨人」でありながら巨人の強大さを無限延長させてしまうループ構造が終わったように見える。

 たぶんセ・リーグのチームは位相が異なるだろう。長谷川さんからはどう見えるのか?

 だから、これはパのリアリティなのだ。1勝もできず、パ・リーグ王者の面目をつぶされた友達と、5位に甘んじて気楽な僕が「ソフバン何て強ぇんだ!」と戦慄しながら語り合ってる話だ。

 そして、三途の川の関所ーーー。

 帳面をパタンと閉じて、赤鬼がニヤッと笑うのだ。エンマ様が「結論が出たようだな」と言う。「要するに……だ、ソフバンにやられてたんだろ?」。うわ、自分の根幹がそんなことだったら悪夢だ。

 来年はこの借りを返すぜ!! なぁ、西武、楽天、ロッテ、オリックス! なぁ、セ・リーグ! あれっ、ロッテは借りてないのか(勝ち方教えろ!)。

 追記、念のために申し添えておきますが、2019年のパ・リーグ覇者はもちろん埼玉西武ライオンズです。その強さは僕らがいちばんよく知っている。だから、よーく考えると、なぜ僕が友達を励ましてるのかわからないんですよ。こっちが励ましてもらいたいよー。

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(えのきど いちろう)

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