「ぼくは頭が悪いから仕方ない」と居直るぼっちゃんと“ご学友”になった少年の友情物語

「ぼくは頭が悪いから仕方ない」と居直るぼっちゃんと“ご学友”になった少年の友情物語

『苦心の学友』(佐々木邦 著)

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。

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 友情ってなんだろう。

 戦前の「少年倶楽部」に連載されて好評を博した佐々木邦『苦心の学友』は、少年同士の心のつながりを描いた明朗な青春小説だ。

 ある日を境に内藤正三少年の生活は一変する。内藤家が祖父の代まで仕えていた、花岡伯爵のおやしきに住み込み奉公に上がる話が持ち上がったのである。花岡家三男の照彦は正三と同学年だが、成績面でいささか問題がある。そのご学友として同じ学校に通い、照彦の手助けをしてもらいたいというのである。

 おやしきで顔を合わせた照彦は、わがままだが根は素直な性格だった。だが、やはり勉学はいけない。ぼくは頭が悪いから仕方ない、と居直る照彦を頑張らせるため、正三はあの手この手の策を講じる。

 小説が連載された一九二七年当時、いくらなんでも封建的な身分制度は過去の遺物と認識されるようになっていたはずだ。その意味では当時から“現代のお伽噺”だったろう。

 同級生たちは正三を照彦の家来と呼んでからかう。それが逆に負けん気を掻き立て、照彦を護る気持ちも強まっていくのである。クラスには留年生の堀口がいて、彼との抗争も気が抜けない。

 初めはお家のため、と難儀な奉公先に放り込まれた正三は、自らの意志で主(あるじ)たる照彦との関係を構築していく。決して言いなりではなく、いざとなれば勤めを辞して家に帰るという切り札を出して彼を諫めるのだ。生まれながらの立場の違いというものはある。それを認めた上で、対等に人は話し合えるものなのだということを作者は書いている。そこが素晴らしい。

 少年が自らの知恵と勇気で困難にぶつかっていく小説だ。読みながら、こぶしを握って正三を応援していた。(恋)

(徹夜本研究会/週刊文春 2019年10月31日号)

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