“全日本選手権チケットを2日で完売”させた太田雄貴が語るフェンシングの問題点と解決策

“全日本選手権チケットを2日で完売”させた太田雄貴が語るフェンシングの問題点と解決策

©YASUNARI KIKUMA (symphonic)

 2017年夏、31歳で日本フェンシング協会の会長に就任した太田雄貴さんが、マイナースポーツから脱却するために様々な施策を実行している。彼を突き動かすのはオリンピックで日本がメダルを獲得した直後の全日本フェンシング選手権での閑散とした観客席にあった。――彼と仲間たちの2年間の奮闘記『 CHANGE 僕たちは変われる 』が発売中。今回は本書の第4章「観るスポーツとして」全文を公開。

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■「剣先の動きが速すぎて、勝負の結果がよくわからない」

 このあたりで、協会が取り組んでいる最先端のテクノロジーについて、整理をしておきましょう。

「剣先の動きが速すぎて、どちらが勝ったのか、見ていてよくわからない」――。

 マーケティング委員会での指摘を待つまでもなく、この問題は、フェンシングの「観るスポーツ」としての発展を考えたときに、どうしても改善しなければならないポイントでした。

 この長年の課題を、もしかしたらテクノロジーが解決してくれるのではないか――その光明は、東京五輪の招致活動でDentsu Lab Tokyoの菅野薫さんと、テクノロジーを駆使したアーティスト集団・ライゾマティクスの真鍋大度さんと出会ったことでもたらされました。

 彼らは、IOC総会での僕のプレゼンテーションの時に流される、フェンシングの映像を担当してくださいました。サーベルを持って対面した2選手が高速で突き合う、その剣先や選手の動きをモーションキャプチャーやAR(拡張現実)技術を駆使してトラッキングし、軌跡を緑や赤の光で可視化した近未来的な映像です。

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■テクノロジーを駆使したオリンピックへ

 この映像を見た瞬間、感動とともに、「これを将来、実際のフェンシングの試合で実装することができたら……」という思いが生まれました。そこで協会の自己資金を投入して、本格的に始動したのが「フェンシング・ビジュアライズド(Fencing Visualized、以下FVと略)」というプロジェクトです。

 実際、東京五輪の招致が決まったIOC総会で、僕たち日本チームは「テクノロジーを駆使した最高のオリンピックにする」と宣言しています。できれば誰もが驚くような形でテクノロジーを活用し、より感動的なスポーツ観戦体験を観客に提供することができたらと思っていますが、いまのところ、他の競技でイノベーティブなテクノロジーが使用される、という話は聞いていません。ならば僕たちが! ということで、野心を持って少しずつですが開発を進めています。

 これまでに触れてきた大会でも、FVの映像は随所に活用してきました。中でも、先程触れた2018年の全日本選手権では、実際の試合の剣先の軌跡を、ほぼオンタイムでトレースして大型ディスプレイに表示したいと考え、準備をしていました。技術チームは本番のギリギリのところまで努力を重ねてくださいましたが、実際はそこまではたどり着けず、男子フルーレの選手によるデモンストレーションをお見せするにとどまりました。でも、データを集めAIに機械学習させることで「試合の生映像にビジュアライズドを載せる」ための道筋は見えてきた。少なくとも、自分たちがやってきた方向性が間違いでないと確認できたことは収穫でした。現在もエペやサーブルにも応用していくべく、議論や実証を重ねています。データを集積していく中で、ほぼオンタイムでの実装ができるはずです。

■国際フェンシング連盟へのプレゼンは失敗に……

 もちろん、こういったテクノロジーを前に進めていくには、莫大な予算がかかります。また、国内の一部大会でだけ、あるいは五輪、世界選手権でだけ実装していく、というのは広がりがない。より多くの人に届かなければ、それはいいテクノロジーとはいえません。

 そこで僕は、このFVを、国際フェンシング連盟(FIE)のツールとして活用してもらおう、と考えました。

 2018年2月、FIEの理事会で僕は、映像をFIE向けに編集し直してプレゼンテーションを行い、連盟正式の事業としての投資をお願いしたのです。

 しかしながら、返ってきたのは厳しい答えでした。

 当然といえば当然です。フェンシングのためを思って取り組んでいる事業であっても、投資するには、ビジネスとして成立させなければならないからです。

■ロシアでも有数の大富豪、FIEのウスマノフ会長

 私の中には、こういった取り組みはフェンシングのオリンピックスポーツとしての地位を引き上げるために必ず役立つし、資金はその活動の中でうまく回収することができるのではないか、という目論見がありました。

 現在、IOCはオリンピックスポーツをその重要度、規模に応じてランク分けをしています。陸上、水泳、体操はAランクで、サッカー、テニスはBランク。柔道やアーチェリーなどはCランク。実はランクに応じてIOCからの分配金が増えて行くのですが、フェンシングは現在Dランクです。このランクをCにあげることができれば、FVにかかる資金も十分回収することができるはず。しかし……実際にそのプロセスや、細かな数字まで理事会に上げることは難しかった。結果として決裁は下りませんでした。

 とはいえ、FIEのアリシェル・ウスマノフ会長との議論は、いつも本当に楽しくチャレンジングなものです。ウスマノフ会長はロシアでも有数の大富豪で、一筋縄ではいかない大人物です。あのときは説得できなかったけれど、彼の意見に食い下がっていくと、会議の後で「俺は座っているだけのやつは認めない。どんどん議論をしよう。いくらか金を集めて、モスクワに来い。そうしたらなんとかするから」と声をかけてくれたりします。

 FIEの副会長となり、東京オリンピックまで1年を切った今も、協議は続いています。FVが東京オリンピックで実装されるチャンスは、十分にある、と感じています。

バトルロイヤル形式のフェンシング!? 太田雄貴が目指す楽しそうな“第4の種目” へ続く

(太田 雄貴)

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