『ブレードランナー2049』を100倍楽しむ方法を、非オタク女子に伝授する #予習編

『ブレードランナー2049』を100倍楽しむ方法を、非オタク女子に伝授する #予習編

©getty

「史上最高のカルトムービー」とされる「ブレードランナー」の35年ぶりの続編「ブレードランナー2049」がいよいよ公開された。小石輝と新登場の相棒・恋ちゃんが、「『2049』を観る前に知っておくべき旧作のすごさ」をディープに語り合う!

◆◆◆

恋ちゃん(オタク度ゼロ%の大手マスコミ若手社員。ちょっと生意気だけど社内の人気者。以下、恋)「ねえ。小石さんってオタクだから、『ブレードランナー』にもくわしいんでしょ」

小石(恋ちゃんの先輩。仕事はできるが、自我をこじらせ気味で、恋ちゃんによくいじられる。以下、小)「当たり前や。オレの人生はブレードランナー(ブレラン)抜きには語れん。『ノーブレラン・ノーライフ』と言ってもええぐらいや」

恋「何ですかそれ!? まあいいや。私、『ブレードランナー2049』を観に行きたいんですよ」

小「君にしては殊勝な心がけやな。ついにミーハー路線から卒業か!?」

恋「違います。『ラ・ラ・ランド』を観て、ライアン・ゴズリングにはまっちゃったんですよ。ライアンは『2049』でも主役だけど、『2049』って、前作のブレラン観ていないと楽しめないんでしょう?」

小「まあ、前作を未見のまま観るのはちょっと無謀やな。物語から置いてけぼりにされかねん」

恋「だけど、今さら30年以上前の作品を通しで観るのは面倒くさいんですよ。雰囲気暗そうだし」

小「はぁ。SF映画史上に燦然と輝く超傑作を『暗い』の一言で片付けるとはなあ。君にはかなわんわ。で、オレに前作の解説をさせて、『2049』の予習をしようってわけか」

恋「そういうこと。小石さんなら表面嫌々なふりをして、実は大喜びで語ってくれそうだから」

小「……(完全に見透かされて、ぐうの音もでない)。まあ、ええわ。『2049』を観たら、絶対に旧ブレランも観たくなるやろうからな」

恋「ということは、『2049』もおもしろいってことですね!」

小「すごく広がりがあって、深くて、そして切ない。特にラストは、オレのように旧ブレランのビデオやDVDをすり切れるぐらい観てきた人間にとっては、胸がいっぱいになって涙するしかない。見終わった途端に忘れてしまうスカスカ映画も多いご時世にあって、この映画は逆に、日がたつにつれてますます心の奥に染みこんでくるわ」

恋「それって実は、最上級の褒め言葉では!?」

小「『2049』は、旧ブレランを土台としてさらなる高みに達した、というのがオレの見方や。前作がものすごくよくできていたからこそ、そして今作の才能あふれる作り手たちが、前作を愛し抜いていたからこそ、実現できた境地やろう」

恋「小石さんは、同じドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『メッセージ』も絶賛してましたからね。で、前のブレードランナーってどんなお話だったんですか」

■レプリカントは人間よりも人間らしい存在へ

小「舞台は2019年のロサンゼルス。核戦争と環境汚染で地球の生物はほぼ死滅。人類も大半が遠い宇宙の植民星に移住し、残された人々は酸性雨の降りしきるスラム街で何とか生き延びている。巨大企業タイレル社は、人間以上の能力を持つ人間そっくりのアンドロイド=レプリカントを製造販売し、レプリカントは植民星で奴隷としてこき使われている」

恋「何か、SF映画やアニメではありがちな設定ですねえ」

小「ちゃう(違う)わ! 後続の作品がブレランをパクりまくったから、そう見えてしまうだけや。これやから最近の若いもんは……(涙)」

恋「はいはい、すみませんねえ。さっさと続きをお願いしますよ」

小「……(くそっ)。6人のレプリカントが植民星で反乱を起こして地球に逃亡し、ロスに潜伏する。彼らを処分する任務を負わされたのがハリソン・フォード演じるブレードランナーのリック・デッカードや。ブレードランナーとは、レプリカント専門の刑事兼処刑人のこと。デッカードは潜伏しているレプリカントを1人ずつ見つけ出して殺していく。そやけど、レプリカントにも人間と同じ感情が芽生えつつあるのに気づき、自分の仕事に疑問を抱いていくんや。ついには、タイレル社の天才社長が自ら創造した『特別なレプリカント』レイチェルと恋に落ち、彼女と逃亡の旅に出る、というのが前作のアウトライン。レイチェルの名前はよう覚えといてや。『レプリカントは感情を安定させるために、人工的に偽りの記憶を与えられている』という設定も、『2049』を観る上では重要なポイントやな」

恋「あらすじだけ聞いていると、どこがおもしろいのかよく分からないですね」

小「そらしゃあないわ。映画の本当の面白さは筋書きよりも、細部の『表現』にこそ宿るもんやからな。旧ブレランの素晴らしさは、『誰も見たことのない未来世界』を、圧倒的なリアリティとグロテスクな美しさで表現したこと。そして、『レプリカントが人間よりも人間らしい存在になっていく過程』を説得力をもって描き切ったことにあるんや」

恋「で、この話が『2049』にどうつながっていくんですか?」

小「前作の後もレプリカントの反乱が続発したため、政府はレプリカントの製造を禁止し、タイレル社は倒産。だけど、新興のウォレス社が『人間に絶対服従の新型レプリカント』を開発し、生産が再開された。一方で、反乱の可能性がある旧型のレプリカントも相当数が地球に隠れ住んでおり、ブレードランナーたちが彼らを追い続けている。君の愛するライアン・ゴズリング演じる『K』もブレードランナーの一人や。まあ、これ以上はネタバレになるから、映画館で確認してや」

■『2049』を観る前に押さえておくべき旧ブレランのポイントは?

恋「それじゃあ『2049』を観て困らないために、押さえておくべき旧ブレランのポイントを教えてくださいよ」

小「そうやな。まずは旧ブレランのファーストシーンを観て欲しい( https://www.youtube.com/watch?v=LwDdP88Dr54 )」

恋「未来都市の景観も迫力ありますけど、なぜか挿入される瞳のドアップが印象に残りますねえ。音楽も何か不気味……」

小「この瞳は誰のものなんや、ということがファンの間でよく議論になるんやけど、映画評論家の加藤幹郎氏は、 著書 の中で『反乱レプリカントのリーダーであるロイ・バッティーの瞳だ』という説を唱えていて、オレもその通りやと思う。映画全体を、ロイやレイチェルら『レプリカントたちが見た光景』として捉えると、実は主役のデッカードは狂言回し的な役割に過ぎず、本質的にはレプリカントたちの運命を描いた作品であることが、よう分かるんや。『2049』を観て、この説が正しいことをさらに確信したわ」

恋「どうしてですか?」

小「『2049』も瞳のドアップから始まるんやけど、この瞳の持ち主も『物語の本当の主役であるレプリカント』だからや。『2049』の作り手たちは、映画のさまざまな箇所で実に見事に前作の韻を踏んでいる。『前作がそうであったように、『2049』もレプリカントたちの物語を描くぞ』と冒頭から宣言しているわけや」

恋「なるほど、深読みっすね。さすが『ブレラン命』の人生を送ってきただけのことはありますねえ」

小「まあな(ちょっと嬉しい)。ブレードランナーという映画には、いくつものバージョンがあるんやけど、リドリー・スコット監督は『実はデッカードもレプリカントだった』ということを暗示する『ファイナル・カット』バージョンを作っている。今ではこれが『決定版』とされているみたいやけど、オレ自身も含め異論を唱える人も多いんや。デッカードまでレプリカントになってしまうと『人間の命と、人間が作った命に違いはあるのか』という映画のテーマ自体が揺らいでしまうからな。ただし、『デッカードはレプリカントか』という疑問自体は、『2049』の展開にもかかわってくる重要ポイントの一つや」

恋「作り手である監督の意図こそが、正解じゃないんですか?」

小「いやいや。映画はいったんできた後は、作り手も観客も平等や。むしろ『作り手さえ意図していなかった映画の新たな可能性』を見いだすことが、観る側の創造性というもんやろう。話を戻すと、前作でのロイたちレプリカントの寿命はわずか4年。地球に逃亡してきたのは、残り少ない自分たちの寿命を伸ばすためだった。ロイは必死に手を尽くし、自らの創造主であるタイレル社長に直接会って頼むんやけど、『それは無理。残された人生をせいぜい楽しめ』と言われ、怒りのあまり惨殺してしまう。その間に、最後に残った恋人のプリスまでデッカードに殺され、ひとりぼっちになってしまう」

恋「ロイにとっては絶望的な展開ですね……」

小「復讐に燃えるロイは、死に瀕した自らの体を酷使してデッカードを追い詰め、とことん死の恐怖を味わわせる。だけど最後に、力尽きてビルの屋上から転落しかかったデッカードをロイはなぜか救い上げ、静かに死んでいく。それがこの場面や( https://www.youtube.com/watch?v=oWXd1wVijqw )」

小「ロイの最期の言葉は次の通りや。『オレはおまえら人間が信じられないようなものを見てきた。オリオン座星域で燃える宇宙船、超空間につながるタンホイザーゲートで輝くビーム――。だけど、そうした思い出も時と共に消える。雨の中の涙のように。その時が来た』。この場面は『2049』を観る上で特に重要やから、何度も見直してから映画館に行くと、ええことがあるよ」

恋「哀しさと切なさと優しさが入り交じったような魅力的なシーンですね。音楽もすてき」

小「音楽は特に要注目や。『Tears in Rain』と呼ばれている曲やけど、実は冒頭で流されるおどろおどろしいメインテーマ曲を発展させたものなんや。音色や調を変えているだけで、前半のメロディーはほぼ一緒やで。もう一度聴き比べてみて」

恋「本当だ。同じメロディーでここまで印象が変わるなんて……」

小「メインテーマは劇中で、レプリカントたちの恐怖と苦しみに満ちた生を表す音楽として用いられるんやけど、最後の最後で彼らの生を温かく包み込むものに一転する。『絶望を経て安らぎへ』という物語全体の流れを、音楽自体が象徴しているわけや」

恋「なんで最後にロイはデッカードを助けたんでしょうね」

小「それはこの映画のテーマにかかわる最も重要な問題やねんけど、劇中では明示されないままや。最初に公開されたバージョンの映画では、デッカードはモノローグで『彼は最後の瞬間に命を大切に思ったんだろう。誰の命でも。オレの命さえも』と話しているけど、これだけやと動機としてちょっと弱いと思う。何せ相手は恋人や仲間の仇なんやから、殺すのが当然やろ」

恋「小石さんはどう解釈しているんですか?」

小「オレもずっと引っかかっていたんやけど、『2049』を観て初めて、自分なりに納得のいく答えが出たんや。デッカードが人間かレプリカントか、という最終解答もな。だけどこれについては、君が『2049』を観終わってから改めてゆっくりと話そうやないか」

恋「えー、気になる。じゃあ、さっそく彼氏と一緒に観に行ってきまーす!」

小「何やねん! 結局オレは、デートの会話のネタだしに使われただけかい!」
?

INFORMATION

『ブレードランナー 2049』
公開:10月27日(金)全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(小石 輝)

関連記事(外部サイト)