「優勝が決まった翌日、二人きりで話をしました」原辰徳監督は“後継者”阿部慎之助に何を託したのか?

「優勝が決まった翌日、二人きりで話をしました」原辰徳監督は“後継者”阿部慎之助に何を託したのか?

2014年以来のセ・リーグ制覇だった ©共同通信社

 今年からプロ野球・巨人軍の監督に復帰した原辰徳読売ジャイアンツ監督。日本シリーズではソフトバンクに敗れ、日本一奪還はならなかったが、低迷していたチームを立て直し、5年ぶりのセ・リーグ制覇に導いた手腕に改めて注目が集まった。

 積極的に若手にチャンスを与える選手起用法や、時に中心選手の坂本勇人にも送りバントを命じる大胆な采配や用兵のあり方など、スポーツライターの鷲田康さんが聞き手となり、原監督が自身のチームマネジメント術のすべてを発売中の 「文藝春秋」12月号 で語っている。

■監督退任後に何度も読み返した二冊の本

「手遅れは最大の愚策」

「新しい人材の発掘にはまず固定観念に囚われないこと」

「リーダー意識を持たない組織は決して強いチームになれない」

 インタビュー中に発せられた原氏の言葉には、プロ野球の世界だけに留まらない“奥行き”があった。その背景には最初に監督(2002年〜03年)を退いた後に行った「勉強」が影響しているという。特に強調したのが、何度も読み返したという二つの古典についてだ。

■指導者として必要な知識や考え方とは?

「監督、指導者としてどういう知識や考え方が必要なのか。野球界だけでなくサッカーやラグビーなど他の競技の世界の人にも会い、スポーツ界だけではなく政財界の第一線で活躍されている方々やミュージカル、歌舞伎など文化芸能に関わる一流の方の話も聞きました。

 本も色々と読みましたね。コーチ時代にも読んだ宮本武蔵の『五輪書』と『孫氏の兵法』をまた勉強し直したのもこの頃でした。

『五輪書』は地、水、火、風、空の巻があり、戦って勝つことをストレートに追求し、いかに勝つ方法を身につけるかという教えです。一方の『孫氏の兵法』は『彼(敵)を知り己を知れば百戦殆うからず』と様々な情報を得ることで、戦わずして勝つことを最良とする。言ってみれば二つは相反する戦いの書ですが、どちらにも理がある。改めて読んでみると二人の兵法は状況や環境、見えてくる景色に対する洞察が鋭く、野球のフィールドだけでなく様々な場面で身近に感じることが多かったです。自分の中では未だに結論は出ていませんが、改めて勝つということの奥深さを学び、知ることができた。その後の監督としての心境を大きく変えてくれた本だったと思います。

 そうした背景を得ることで、二回目に監督をやったとき(2006〜15年)には、同じ巨人という風景の中でも、私自身の心境はかなり変わっていました。自分の骨子がどこかに描けている状態で、物事に立ち向かうことができていた。そして三度目の監督となった今回(2019年〜)も、その延長線上で自分の立ち姿というのがあると思います」

■阿部慎之助は「必ずいい指導者になってくれる」

「プロ野球の目的はただ一つ、チームが勝つこと」と言い切る原監督の目標が日本一奪還にあることは言うまでもない。しかし、今回の監督復帰に「もし勝つこと以外に使命があるとすれば」と前置きして語ったのは「後継者を育て、バトンを渡すこと」の重要性だった。

「巨人軍では来年から阿部慎之助が二軍監督になり、新たに指導者としての道を歩み始めます。

 ここ数年の彼の姿を見ていて、私は本来の慎之助らしさというものが少し薄らいで、チームの中でも高いところに置かれているように感じることがありました。でも、選手としての彼は捕手としてもう一度、グラウンドに立つんだという決意を持ってシーズンに臨み、結果的にはその思いは叶いませんでしたが、最後まで勝利への強い意志を失わずに、充実した野球人生を全うし、最高のシーズンを送ってくれたと思います。

 ですから優勝が決まった翌日(9月22日)の神宮球場で二人きりで話をしました。そこで私が私なりに見える彼の将来の景色を伝え、彼も納得して自分の意思で『今年限りで引退します』と決断しました。選手としては少々余力を残して、ファンに惜しまれながらの引退です。でもそれは指導者としてのエネルギーを大いに持った、素晴らしいスタートだと思います。彼は必ずいい指導者になってくれると思っています。

 私が彼に伝えたいのは、ジャイアンツの監督が守るべきものは自分の名誉とか功績ではなく、巨人軍の伝統だということです。そのためにはまず勝つことであり、選手を育てて勝てるチーム、組織を作り上げること。それがこの伝統あるチームの監督の仕事だということです。そのためには私と慎之助がしっかりと手を取り合って連携することです。そして必ず来年こそは日本一を奪回できるチームを作り上げていきます」

 原監督独占インタビュー「 巨人軍は必ず日本一を奪還する 」は「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年12月号)

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