切り落とされたゴッホの耳を“生きた状態で” 「ちょっと怖い」最先端アートが描く“近未来”とは

切り落とされたゴッホの耳を“生きた状態で” 「ちょっと怖い」最先端アートが描く“近未来”とは

展示風景

 AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)……。最先端テクノロジーの象徴として昨今よく耳にする言葉をテーマにした展覧会が開催中だ。東京六本木、森美術館での「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」。

■テクノロジーが建築もファッションも変革する

 AIをはじめとするテクノロジーが次代をつくるのは、もう自明のことのように語られるけれど、じゃあ実際に何が起こるのか、どんな未来がやってくるのか、具体的にはなかなかイメージできないのが実状だ。

 そこで、アートの出番である。アートとは、ビジュアルでイメージを提示するもの。テクノロジーがもたらす未来像をテーマにした展示となれば、かなり具体的な未来の「かたち」と会場で出合うことができそうだ。

 エントランスをくぐると、まずは建築関連の未来像があれこれと並んでいる。有機的な形態を持った建築が多く見られ、未来の建築デザインとして好まれている方向性が窺える。

 なかでも現代美術家・会田誠が、未来の都市構想を披露する《NEO出島》はおもしろい。国会議事堂など国の中枢が集中する東京都心の上空に、扇型の都市空間を出現させ、そこをグローバル・エリートのための都市空間にせよというもの。アジア地域のハブ(中枢拠点)という地位を、現状のシンガポールなどから取り戻すのが、この新都市の目的だとか。頭上を覆われて暗がりとなった旧都市側の陰気な雰囲気が行く末を象徴しているようで、背中に冷たいものを感じてしまう。

 会場内を進むと、衣食住にまつわる変革について見せてくれる展示室が登場する。コンピュータによるモデリング、3Dプリンターなど、ものづくりの技術が長足の進歩を遂げると、家具や衣服のデザインもそれにつれて大きく変化する。

 ファッションデザイナー中里唯馬の生み出す服は、パーツを組み合わせることで完成するしくみを持ち、着る者に合わせてデザインされたり、環境負荷のない人工合成タンパク質を素材にしていたりと、まさに未来の衣服の提案といった趣である。

■人は生命をどこまで自由に操作できるのか

 続いて展示のテーマは、人の身体そのものへと移る。バイオテクノロジーやロボット工学は、身体を拡張したり変容させたりすることを容易にした。ただし技術的に可能だからといって、倫理的にはどこまでのことをしていいのかは、時代ごとに考えを尽くさないといけない。

 ディムート・シュトレーべ《シュガーベイブ》は、かのフィンセント・ファン・ゴッホが錯乱のうちに切り落とした左耳を、生きた状態で再現している。ゴッホの子孫の細胞とDNAを培養してかたどった、いわばタンパク質による彫刻だ。

 また、パトリシア・ピッチニーニ《親族》は、オランウータンと人間の交配種がいると仮定し、その親子の姿を彫刻で表した。

 終章の展示室では、「人間」「生命」「幸福」といった、普遍的と思われてきたものの価値観まで変わっていきそうな未来へ思いを馳せる作品が広がっている。アウチ《データモノリス》では、高さ約5メートルの直方体の4つの面に映像が刻々と映し出されていく。トルコ南東部のギョベクリ・テぺ遺跡に刻まれていた図像や情報をAIで解析し、映像化しているのだ。エジプトのピラミッドより古い構造物に刻まれた情報は、現在や未来の人間に何を伝えるのかを推し量ろうとしているみたい。

 会場で浴びるようにしてたくさんの未来予想図を観て回ると、これから私たちのもとへ訪れる未来とは、バラ色ばかりでもなく、かといって暗黒というわけでもない、人の心の持ちようや意思によってどちらにも転びそうな世界なのだと感じる。自分が属する現在と、迫り来る未来が、いったいどんなかたちをしているのか。同展は確認するのにもってこいの機会だ。

(山内 宏泰)

関連記事(外部サイト)