松本清張の小説に最初にでてくる路線はなーんだ? 清張鉄道クイズ10

松本清張の小説に最初にでてくる路線はなーんだ? 清張鉄道クイズ10

©モリナガ・ヨウ

 松本清張といえば鉄道、といってもよいほど、清張ミステリーと鉄道とは切っても切れない関係にある。JR全線を乗りつぶし、数ある作品を徹底的に読み込んで 『清張鉄道1万3500キロ』 を上梓した乗り鉄系元記者に、作品に登場する鉄道場面について素朴なものからややマニアックな疑問まで、質問してみた。

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Q1:そもそも「清張鉄道」とは?

A1 清張作品に登場する鉄道乗車場面の総累計であり、路線図でもあります。刑事事件の犯人が逃走のために乗ったり、それを追う刑事が駆け込んだり、不倫の愛を愉しむ男女が並んで座ったり、と様々です。古代史・時代ものやノンフィクションなどを除外した現代作品320編を調査しました。すると、外国も含めて168の作品に鉄道乗車場面が登場します。他の作家と比較したわけではありませんが、相当な数だと思います。

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Q2:清張作品で最初にでてくる路線は?

A2 清張の第1作でもある 『西郷札』 の新橋―横浜(現在は桜木町)28.9キロです。主人公樋村雄吾が、東京から宮崎に向かう際、横浜まで列車、いわゆる陸蒸気(おかじょうき)で行き、そこから海路をたどり、神戸、瀬戸内海を経て大分県臼杵で上陸しました。登場人物がどんな交通手段を使ったのか、細かく書くのが清張の特徴の1つなのですが、第1作からそうだったのです。

 ちなみに乗車場面は2種類に分けられます。作品世界で初めて登場する線区と、すでに登場した線区です。私はそれを「初乗り区間」「既乗区間」と呼び分けました。その初乗り区間をカウントし、積み上げたところ1万3500キロ余になりました。

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Q3:もっとも長く鉄道乗車場面がでてくる作品は?

A3 個人の1旅程として際立って長いのは、 『点と線』 で汚職事件の容疑がかかる某省の石田部長で、部下を殺害した安田辰郎のアリバイ作りのため、上野から釧路まで、2夜連続の座席泊をしました。急行「十和田」、青函航路連絡船、急行「まりも」に乗り継ぎました。初乗り、既乗合せて1541.5キロです。しかし、『金環食』の新聞記者石内は礼文島で起きた日食の観測取材のため、5日がかりで稚内まで行きました。上野発と見れば、1545.8キロです。これが最長と思われます。

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Q4:それでは、「初乗り路線」がもっとも長い登場人物は?

A4  『蒼い描点』 の主人公である出版社編集部員の椎原典子です。彼女は変死事件の関係者を探して、上野から秋田県まで往復2日連続の夜行旅をするのですが、行きは東北、奥羽線、帰りは羽越、信越、上越、高崎の各線経由だったため、初乗り距離が一気に伸びました。彼女は秋田中央交通線や井の頭線の渋谷―東松原間にも乗り、初乗りが1162.6キロに達します。作品が「週刊明星」で連載されたころに、現皇后陛下の正田美智子さんの婚約、結婚が重なり、活躍、行動する女性に期待が高まった時期を反映しているのかもしれません。

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Q5:初めて金沢まで鉄道で旅した登場人物は?

A5  『ゼロの焦点』 の主人公の板根禎子です。今なら、北陸新幹線ですが、当時は上越線で新潟県・長岡まで行き、南下するコースでした。失踪した夫を探す板根禎子は、先述の椎原典子とは違うタイプなのですが、強い女です。長距離の夜行列車を独り行く点で共通しています。 『清張鉄道1万3500キロ』 ではこの頃の作品を括って「鉄路を急ぐ女たち」という章にしました。

Q6:「清張鉄道」が初めて四国へ延びたのは、どの作品?

A6  『砂の器』 で被害者三木謙一の金刀比羅参りです。彼は主人公の警視庁刑事今西栄太郎に負けぬほどの乗り鉄で、吉野山へ行った際、奈良県内の近鉄に相当乗りました。 『落差』 の細貝景子や 『草の陰刻』 の瀬川良一も四国のJRに乗っています。 『内海の輪』 、 『渡された場面』 にも登場していいのですが、はっきり書かれていないのは残念です。

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Q7:最初に新幹線がでてくる作品は?

A7 これをつきとめるのが大変でした。 『美しき闘争』 に東京―熱海間が出て来るのですが、東海道新幹線が開業する以前の62年の新聞連載作品です。後年、単行本や文庫本化される際に、より今日的な旅として描くため、改稿されたようです。同様に 『殺人行おくのほそ道』 (64〜65年)でも東京―京都間が登場するのですが、週刊誌連載時は在来線でした。 『葦の浮船』 (66〜67年)で、近村達子というヒロインが、名古屋―東京間に乗ったことが確定しました。清張はなぜ、新幹線の登場を遅くしたのか、ちょっと不思議です。

Q8:いわゆる大手私鉄16社のうち、清張作品に登場しないのはいくつ?

A8 4つです。登場順に社名を並べると、西鉄の 『或る「小倉日記」伝』 、京阪の 『ひとり旅』 、東急の 『父系の指』 、小田急の 『箱根心中』 、京王の 『地方紙を買う女』 、近鉄の 『眼の壁』 、東武の 『日光中宮祠事件』 、営団地下鉄の 『失踪』 、名鉄の 『黄色い風土』 、西武の 『蒼ざめた礼服』 、南海の 『雑草群落』 、京成が出て来る 『Dの複合』 と続きます。京急と相鉄は登場しません。 『塗られた本』 は、阪神間が舞台の1つであり、阪神か阪急を登場させたら、と惜しい気がします。

 私鉄の初乗り距離は全部で1478キロですが、やっぱりという感じで、近鉄が長いですね。

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Q9:最初にでてくる路面電車は?

A9 『ひとり旅』(54年)で、広島駅から宇品の港までが登場しました。被爆から1年半後という時代設定で、街の様子が描かれています。都電も相当出てきます。 『点と線』 や 『時間の習俗』 の三原警部補は、考え事をするために乗る癖があります。 『砂の器』 の今西栄太郎刑事は聞き込み先に行く時によく利用しました。

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Q10:清張作品に最後まで登場しない路線のある都道府県は?

A10 沖縄県には清張が執筆した時代に旅客鉄道がなかったため、除外しますと、唯一、長崎県が出てこないのです。 『或る「小倉日記」伝』 で、主人公の田上耕作は生まれた時から難病を負っており、父親に連れられて博多や長崎の医者に行きます。長崎線に乗ったと判定したかったのですが、「列車で行った」と書かれていないのです。また、佐賀―長崎間は2経路あり、それも考慮して見送りました。

(赤塚 隆二)

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