『私のちいさなお葬式』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『私のちいさなお葬式』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

©OOO《KinoKlaster》,2017r.

 外国映画を観ていると、ラスト近くで主人公が湖や川に入り、妙にスッキリした顔で出てきて、そのままなんとなく終わる、ということが頻繁にある。長年、あれはなんだろうと思っていたが、実はキリスト教の“洗礼”のメタファーで、生まれ変わって新たな人生に踏みだすという意味らしい。また、ラストで主人公が両腕を広げて十字架のポーズで死ぬことがあるが、こちらはキリストの如く皆のための“犠牲”となったことを表す。これも、知らない間は、大の字で倒れたとしか見えていなかった。詳しい方から教えてもらって知ったのだが、こういう基本的に必要な情報は、どんどん共有していきたい……。

 さて、この映画は、自分のお葬式をプロデュースする老女と、振り回される中年の息子を描く、ロシア発のハートブレイクな人間ドラマなのだ。

 エレーナは田舎で一人暮らしをする元教師。一人息子のオレクは遠いモスクワで暮らすビジネスマン。ある日エレーナは、己の死期が近いことを知り、息子には任せられないと、“完璧なお葬式”の準備を始めた。亡き夫の隣に墓穴を掘らせ、棺桶も買い、なんと弔問客の料理まで……。

 エレーナは賢くて、物知りで、そのぶん仕切り屋の女性だ。そのことが実は息子オレクの人生にも影を落としている……。エレーナはついには死まで仕切ろうとするわけだが、今度ばかりはなかなか難しい。そんな母に反発しつつ、寄り添うオレク。わたしはラスト近くで、「おや、真の主人公は息子のほうだったのか!」と気づき、深く胸を打たれました。

 誰しもいつかは親を看取らねばならない。もう誰の子でもなくなった、ざらついて、ほろ苦く、新しい、大人の人生に、オレクも無事踏みだせるのか……!?

「恋のバカンス」のカバー曲がゆったりと流れる中、ロシアの名優たちの静謐な演技合戦を堪能! 後半は息を止めて見入りました。

INFORMATION

『私のちいさなお葬式』
12月6日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
https://osoushiki.espace-sarou.com/

(桜庭 一樹/週刊文春 2019年12月5日号)

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